カーラ・ピニェイロ・サブレット氏は、まるで20年前から自身の新しい仕事の準備をしてきたかのように感じるという。
ハイテク大手のIBMに、シニアバイスプレジデント兼CMOとして2月に着任した同氏は、デルで15年、クラウドプロバイダーのラックスペース(Rackspace)で3年、ナショナルインスツルメンツ(National Instruments)で2年など、世界最大級のB2Bテック企業でマーケティングを率いてきた。
IBMがITサービス事業のキンドリル(Kyndryl)をスピンオフする準備を進めるなか、ピニェイロ・サブレット氏は、同社が今後、マルチクラウドサービスとAIを新たな重点分野とすることについて、「非常に明確な」大きなチャンスがあるとみている。
また、従来のB2Bテック企業のマーケターとは違う方法で、そのストーリーを訴求していくことを計画している。
「B2Bテック企業のマーケティングは混乱の時期にある」と同氏は指摘する。「誰もが同じことをやっていて、同じチャネルに殺到している。とても、顧客や意思決定者に真の価値を提示しているとは言い難い」
ピニェイロ・サブレット氏は、B2B企業がこれまで頼りにしてきた、ターゲットを絞ったアカウントベースマーケティングのサイクルを断ち切り、組織内にすでに存在する豊かなストーリーを発掘することを望んでいる。例えば、IBMは複数のノーベル賞を受賞し、最初のPC、レーシック、バーコード、ATMなどの技術を発明してきたという類のものである。
同氏はさらに、IBMがパンデミックの際に担った重要な役割についても伝えたいと考えている。例えば、CVS Healthと提携して、新型コロナワクチン接種に関する何百万件もの問い合わせに対応してきた。また、ワクチン接種の状況に手軽にアクセスできるデジタルヘルスパス「エクセルシオール・パス」を開発し、ニューヨーク市の再開にも貢献した。
IBMは、キンドリルのスピンオフ後すぐに、これらのストーリーを紹介する統合キャンペーンを市場に投入する計画だ。
「アドテクの登場以来、B2Bマーケターは道を見失ってしまった」とピニェイロ・サブレット氏は語る。「私たちは、自分たちの第一の責務が、顧客との深い関係性を構築し、有用な付加価値を提供することだということを忘れていた。リンクトインの受信箱にバナー広告をばらまいたり、メールを大量に送信したりしても、それは実現できない。私が望むのは、豊かなストーリーテリングを通じて顧客を啓発し、インスパイアすることにより、プッシュよりもプルを生み出すことだ」
B2Bマーケティングにおけるストーリーテリングは、コロナ禍が人々の情報消費のあり方に影響を与えたことで、さらにその重要性を増していると同氏は付け加える。「ホワイトペーパーや長文メールの時代は終わったのかもしれない。人々は、実際に何かを学ぶことができる、より中身の濃い動画コンテンツを求めるようになっている」
ブランディングやストーリーテリングのキャンペーン(IBMはオグルヴィやその持ち株会社であるWPPと長年にわたる関係があり、今後も継続する計画だ)に加えて、ピニェイロ・サブレット氏はIBMのオウンドチャネルをより魅力的なものにしたいと考えている。例えば、IBMのウェブサイトを、典型的なB2Bウェブサイトというよりも、コンテンツのライブラリをスクロールできるNetflixのようなものに近づけることを構想している。
また、企業がハードウェアとソフトウェアの両方をオンラインで購入するようになると、EコマースもIBMの将来において大きな役割を担うことになる。「IBMが提供するものを、デジタルでより簡単に購入できるようになることを構想している」という。
これらの大胆なアイデアを実現するため、ピニェイロ・サブレット氏は、着任した時には「40の別々のマーケティング組織のように機能していた」IBMのマーケティング部門を、再編成することに着手した。
「当社ではこれまで、組織構造と、市場で行おうとしていることが一致していなかった」と同氏は振り返る。「私が進めているモデルでは、自分たちを1つの組織として再編し、まず企業として何を達成したいのかを合意してから、キャンペーンを制作する。これはIBMにとって大きな変化だ」
IBMおよびマーケティング分野における多様なリーダーの一人として、多様なチームを構築し投資することは、ピニェイロ・サブレット氏にとっては個人的にも重要だ。IBM自身が生み出す結果においてだけでなく、同社が選択するベンダーやサプライヤーにおいても多様性は重要になる。IBMはエージェンシーに独自のダイバーシティ基準を課している。
9月7日に米国オフィスを再開するIBMにおいて、マーケティング部門の従業員の多くは「職場に戻ってまた共に働きたいと望んでいる」とピニェイロ・サブレット氏は明かしつつ、「とはいえ、私たちはバーチャルでも働ける」と付け加えた。「だから私たちは、従業員がどのように働きたいかについて、多くの選択肢から柔軟に選べるようにしている」
しかしながら、これを戦術的に行うには、集まる必要があるのはいつか、オフィス環境を必要としているのはどの従業員かなど、明確な「意図」を持った判断が必要になるだろう。