世界でもっとも影響力のある最高マーケティング責任者(CMO)の1人、ボゾマ・セント・ジョン氏は、旧来のビジネス手法のいくつかを撤廃したいと考えており、自身のチームや同業者、マーケター志望者たちに対し、顧客からクリエイティブに至るまで、あらゆるアプローチ方法を再考するよう促した。
ペプシやUberでマーケティングを担当してきたセント・ジョン氏は、何よりもまず、マスマーケティングのプロダクトやサービスの使い古された手法を捨て、マーケティングキャンペーンにパーソナライゼーションとニュアンスを浸透させたいと考えている。
「私はよくチームに、ひとつのグループにフォーカスしなさい、と言う」と、同氏はAdobe Experience Makers Asia 2021で語った。「私たちが教わったやり方は、ターゲットの中間層に語りかけ、より多くの媒体を通し、より多くの人にメッセージを届けるべきだ、というものだった。しかし、ここで私が伝えたいのは、そのやり方はもはや通用しないということだ」
2020年6月にNetflixのCMOに就任したセント・ジョン氏は、マーケティングのパーソナライゼーションを加速させるため、チームメンバー、あるいはその家族や友人の人生経験を仕事に取り入れ、ニュアンスのあるマーケティング戦略を構築することを重視している。「オーディエンスとのつながりを築くには、こうしたニュアンスの理解がきわめて重要だと私は考えている」と、同氏は言う。
マーケターは仕事やキャンペーンに対し客観的であることが健全だと教えられてきたかもしれないが、セント・ジョン氏が勧めるのは、それとは正反対のやり方だ。「私たちは、自身の経験は仕事においてあまり重要ではないと考えてしまいがちだが、断じてそうではない。仕事のすべてに、自分の経験を反映させるべきなのだ」
ただし、単にマーケター自身の人生経験を前面に押し出すだけではなく、「情報に通じ、好奇心旺盛」であるべきだと、セント・ジョン氏は付け加えた。「他の人の経験もまた重要であり、それも仕事に活きる」からだ。
マーケターが、エンゲージメントのルールを学び直したいならば、ブランドやマーケティングの「停滞した」アイディアを脱して、思考を進化させる必要があると言う。「進化を目指すべきだ。自分の体験に加えて、他の人の体験にも耳を傾け、それを仕事に採り入れる。こうした姿勢があなたを変え、あなたをマジカルでパワフルな存在にするだろう」
セント・ジョン氏によれば、マーケターはマスをターゲットとした以前の手法から個人へのフォーカスに転換していく上で、いくつか旧来の考え方を捨て去る必要があるという。例えば、「ロケーションがすべて」という決まり文句は、「コネクションがすべて」という新しいフレーズに、ただちに置き換えるべきだ。
セント・ジョン氏は、こうした方向転換はマーケターにとって容易ではないだろうと言う。なぜなら、「マーケターはレガシーを求める。時代を超越した、歴史に残るようなキャンペーンをつくりたいと願う」ものだからだ。しかし、同氏によれば、それは大きすぎる目標かもしれないという。「コネクションをつくることに集中したほうが、1つの爆発的な成功を夢見るよりも、より良い成果が期待できるだろう」と同氏は述べ、「それに、マヤ・アンジェロウが述べたように、『人はあなたが言ったことも、あなたがしたことも忘れてしまう。しかし、あなたに抱いた感情のつながりはけっして忘れない』のだ」と指摘した。
セント・ジョン氏は、マーケターにマスから個への転換を訴えるなかで、さらに2つの側面に変化が必要だと強調した。1つは、マーケターは「科学、アート、マジックを調合した魔法の薬」を利用して、キャンペーンによる直接購入を予測するだけではなく、顧客の将来の消費行動までも予測して、より正しくターゲティングする必要があるということだ。「これにはマジックが必要なこともあれば、データ学習で解決することもある。しかし、私はこうした目標は達成可能だと考えている」と、同氏は説明した。
残る1つは、すべてはクリエイティビティに尽きるということだ。「クリエイティビティこそが、魔法が宿る場所だ。文化や人々、あるいはその相互作用に絶えず関心をもちつづけることが、本物の違いを生み出すだろう」と、セント・ジョン氏は述べた。
素顔のセント・ジョン氏
Adobeのイベントの最後に、セント・ジョン氏はいくつかの簡単な質問に答えてくれた。
オフに切り替えたい時には何をしますか?
夜は何もかもスイッチを切って、8時間ぐっすり眠ります。(眠ることを)スケジュールに組み込んでいるくらいです。
もっとも影響を受けた女性ロールモデルは誰ですか?
母です。彼女はとても素晴らしい人です。
LinkedInでつながって、いちばん興奮したのは誰ですか?
小学4年生の時の先生です。突然でびっくりしました!
タクシーに乗る時は、Uber、Lyft、流しのどれですか?
以前の勤め先なので、もちろんUberです。
Deliveroo派ですか、それとも外食派ですか?
家が好きなので、Deliveroo派です。