より安全なメディアのエコシステムが必要だと積極的に発言してきた人物がいるとすれば、それはマーク・プリチャード氏だ。
P&Gの最高ブランド責任者であるプリチャード氏は説得力のある発言で知られており、広告主が資金を投じるソーシャルメディアプラットフォームに対し、説明と監督の責任をもっと負うように求めてきた。米国会議事堂で起きた先日の暴動事件を受けて、この主張はますます切迫感を増している。
プリチャード氏はCampaign USに、「どこをとは言わないが、当社はプラットフォームの利用を数多く停止している」として、「広告コンテンツの監視はやりたくない。本来ならプラットフォームがやるべきことだ」と語った。
プリチャード氏は、またこの業界には更なる多様性が必要だとの声を上げ、P&Gと同社のサプライヤーが市場を主導すべく明確な基準を設定した。同氏は、 P&Gのすべてのサプライパートナーに対し、米国の人種別人口比を平等に反映させること、つまり黒人13%、ヒスパニック系18%、アジア太平洋系6%、ネイティブアメリカン2%、あわせて約4割の多様な文化を代表させることを求めている。
「どの面においても、当社内ではすばらしい進展を見せているが、表から見えないところではやるべきことがまだたくさんある」と言う。「かねてより取り組んできたことではあるが、昨年あった一連の出来事がそれを高めることになった」
Campaign USは、CESに出展したP&G LifeLabのバーチャル空間でプリチャード氏にインタビューを行った。毎年恒例の技術コンファブにおいて、P&G LifeLabでは、ゲストが同社の最新・最先端の製品を試用できる没入型対面体験を提供している。
来訪者は、アバターでバーチャルなLifeLabに参加し、持続可能性に配慮した洗剤シリーズ「EC30」や、マイクロチップ技術を採用した「ファブリーズ」初のプラグイン式消臭剤、あらかじめ水に漬けておかなくてもこびりついた汚れを除去できる「Dawn Powerwash Dish Spray」など、新製品のデモを体験することができる。
Campaign US:米国会議事堂での暴動事件を受けて、フェイスブックやグーグルをはじめとするオンラインプラットフォームとの関係に、P&Gはどう取り組んでいるのでしょうか?
「The Stop Hate For Profit[利益のためのヘイトをやめろ]」キャンペーンによるボイコットが起きた夏にさかのぼる必要があります。あの時、我々はヘイトを引き起こすコンテンツ、有害なコンテンツ、危険なコンテンツやその周辺に広告が掲載されないよう、広告がどこに表示される場合であってもきちんと調査していることを、はっきりと説明しました。ヘイトを引き起こすコンテンツやオンラインメディアを排除したいのです。望ましいのは責任あるメディアサプライチェーンであり、当社のどのブランドについても、ヘイトを引き起こすコンテンツや、そういったコンテンツの近くに名前が載ってほしくはありません。監視にはかなり力を注いでいますが、やるべきことはまだまだあります。
我々はまず、プラットフォームと話をします。そして、プラットフォームが変わらなければ措置を講じます。その措置の中には広告の停止も含まれます。
問題は、時間がかかりすぎることです。ガイドラインはありますが、基準が必要です。これらは実行され、監査される必要があります。それを実現するにはアカウンタビリティが不可欠です。今のところ、我々が提供できるアカウンタビリティは、広告を出さないということです。業界が自主規制できなければ、いつか政府が介入してきます。
(P&Gは)ダイバーシティとインクルージョンで業界を主導してこられました。貴社では今年、どのような(従業員の)人口構成比を目標としていますか? エージェンシー、サプライヤーについてもお聞かせください。
我々は平等とインクルージョンの分野でしっかりした活動を進めています。もっとも大切なのは、我々が共に仕事をするメディア企業のほか、エージェンシー、制作クルー、ディレクターといったクリエイティブメディアのサプライチェーンでも平等な人口構成比を実現することです。
また、全体的な投資の不平等も排除したいと考えています。マーケティング支出のうち黒人、ヒスパニック系、アジア太平洋系、ネイティブアメリカンが所有する企業に対する支出はわずか5%しかありません。これまでどうだったのかというと、大手エージェンシーと当社との交渉に、そうした企業が結びついていなかったのです。現在はそうした企業に直接働きかけるための介入をしています。
ダイバーシティに対するP&Gの取り組みは、広告クリエイティブにどのように現れてきますか?
第一に、広告において性別、人種、民族、性自認、性的指向、能力、宗教、年齢を問わず、あらゆる人を正確に表現することを私たちの広告に反映させます。広告を出す番組にも同じことを期待しています。
北米地域では、当社のコマーシャルを担当するディレクターの50%近くが女性です。世界全体でも30%です。しかし、人種と民族については、まだ力を合わせる必要があるのも事実です。我々は「Queen Collective」などを実施してきました。これは、クィーン・ラティファ氏とトラベッカスタジオ(Tribeca Studios)との間で、短編映画のパートナーシップを締結し、黒人女性が監督を務める映画を制作するという企画です。
バーチャルのP&G LifeLabがCESに登場するのは今回が初めてです。バーチャルイベントは今後の戦略にどうはまってくると思いますか?
数年前から取り組んではいました。そこにこのパンデミックがあり、より腰を据えて考えはじめました。するとCESは、本物のバーチャル体験を作るチャンスだとわかったのです。
このバーチャルなLifeLabは、1年365日に渡り利用していく予定になったので、他の大きなイベントでも見てもらえることになるでしょう。カンヌ向けにも東京五輪向けにも何か作ろうと考えています。我々の新製品を体験してもらう方法がまたひとつ増えたわけです。
特に「オールドスパイス」「バウンティ」「チャーミン」などのブランドについては、すでにかなりの賭けをしています。広告を再発明する新たな方法だと考えています。
この体験に使う製品はどのように選んだのですか?
実際に考えたのは、「消費者は今どこにいるのか? 何を大切にしているのか?」ということです。消費者がいま気にかけているのは、家庭用の洗剤と衛生用品です。環境を心配しているのです。
我々はさまざまな分野で新しいものを作り続けていますが、一方で、消費者にとっていちばん重要な、我々が成すべき仕事は何なのかにについても目を向けています。たとえば、「Dawn Platinum Powerwash Dish Spray」という食器用洗剤スプレー。スプレーをかけて食器をこすらず洗い流すだけでどんどんきれいになるのです。このような製品を紹介するのは理にかなっています。
EコマースへのシフトにP&Gはどのように適応したのですか?
我々のEコマース事業はすべての市場で実に申し分なく成長しています。何が起きているのかというと、小売における消費者の体験が変わってきているのです。オンライン注文、自宅への直接配送、店舗での受け取り。Eコマースはいま、さまざまな方向に拡大しています。
アップフロントについて、思っていることを率直に語っていらっしゃいました。この2021年はどのようにアプローチされますか?
我々は、それをアップフロントの創造的破壊であると考えたいと思っています。大手放送局、大手パブリッシャーと直接仕事をして、エージェンシーとはパートナーシップを締結し、皆が幸せになる取引を創造する。これから先もこれが続くでしょう。
我々にとって最も効果的なタイミングで取引をしたいのです。他社にも同じアプローチをとるように勧めたい。これがなによりも価値の創造になるのですから。
本インタビューは編集して要約してある。