David Blecken
2017年3月24日

VRを活用し、マーケティング新時代へ

制作会社であるAOI Pro.が、VR(バーチャルリアリティ)コンテンツを発表した。ユーザーの感情をモニタリングし、ブランドによるVRの活用につなげようと同社は青写真を描く。

吉澤貴幸氏(左)と加藤久哉氏。「VR Dream Match - Baseball」のデバイスと共に。
吉澤貴幸氏(左)と加藤久哉氏。「VR Dream Match - Baseball」のデバイスと共に。

東京を拠点とするAOI Pro.は、現在開催中の「アドフェスト(アジア太平洋広告祭)2017」に同社初のVRコンテンツとなる「VR Dream Match - Baseball」を出展した。このコンテンツは、慶応大学大学院と共同で開発したハプティクス(触覚技術)を応用したもの。将来的にマーケターがVRで消費者の感情を把握できるようになるという予測のもと、同社はVRが今後の事業の中核になることを期待する。

AOI Pro.のVR/ARチームは、クリエイティブディレクターが1名、プロデューサー2名、マーケター1名、システムオペレーター2名によって構成。大きな注目を集めつつもいまだ未知の部分が多いVR市場で、彼らは何を目指しているのか。チームリーダーであるクリエイティブディレクターの吉澤貴幸氏と、チーフプロデューサーの加藤久哉氏に話を聞いた。

野球のシミュレーターを作った目的は何だったのですか?

吉澤氏:販売権を持つコンテンツを開発したいと考えたのです。まずこのVR Dream Match – Baseballはゲームセンターやショッピングセンター、イベント会場などに貸したり設置したりして、一般の方々に親しんでもらうことになるでしょう。まだ契約に至った案件はありませんが、現在交渉中です。

貴社は通常、広告代理店と取引をしています。VR部署の新設で、今後ブランドのために直接コンテンツを開発することもあるのですか?

吉澤氏:両方やっていくことになるでしょう。私も元は代理店勤めで、その経歴から社内でものづくりに関わるようになりました。テレビCM制作と同様、代理店とも仕事をしていきます。

現時点で、国内ブランドがVRをうまく活用している例はありますか?

吉澤氏:プロモーション目的のVRコンテンツはまだあまり制作されていないのが現状です。ただどのようなコンテンツであれ、VR体験を通して何を伝えたいのか、ブランドは明確にする必要がある。例えば顧客エンゲージメントを深めたいときに、必ずしも360度のパノラマ動画が必要だとは思いません。

TVコンテンツのプロデューサーもされていますが、VRコンテンツの制作には異なる視点が必要ですか?

加藤氏:自分にとっては、新たなテクノロジーが1つ増えたに過ぎません。私たちは映像制作にも関わっているので、私の名刺にも「映像制作」と書かれていますが、2次元を超えたコンテンツは既にいくつも手がけています。私のことを受賞作品で知っていらっしゃる方々もいるかと思いますが、私をよく知る人たちは、私が映像だけでなく何でも制作できることを知っています。ですから、「これからVRをやります」と宣言する必要もありません。単に新しい形態のコンテンツなのですから。

VR技術の活用に、ブランドがどれほど本気だと思いますか?

吉澤氏:仮想体験は、ユーザーとブランドとの距離を縮める効果を期待されています。お金を払ってその製品を購入する価値があるか否か、VR体験を通して消費者が決めるのです。これは2次元の画像や動画キャンペーンからは得られない、リアルな体験です。ですからVRがコンテンツとしてではなく、マーケティングの手法を変える点で評価されるようになれば、高いポテンシャルが見込めます。

VRから得たデータは、ブランドにどのような役割を果たすのでしょう?

吉澤氏:私たちの目標は、テクノロジーを売ることだけではありません。今着目しているのはユーザーの感情の動きと、真の体験とバーチャルの体験では感情にどのような違いが生まれるかを把握することです。私たちは日本バーチャルリアリティ学会の会員なのですが、学会ではVRを「仮想」と見なしていません。バーチャルのトラックが時速165キロで自分に向かって走ってくれば、誰もが心底恐怖を感じるはずです。VRで皆さんに野球を楽しんでもらうことも素晴らしいのですが、私がより興味を持っているのは、投手が最初の球を投げたときのユーザーの反応です。楽しいと感じる人もいますが、ほとんどの人が恐怖を感じています。プレイステーションで野球ゲームをしても、自分に向けて投げられた球を怖いとは思いません。でも、VRでは恐ろしい。ですからその感情の違いを研究すれば、シミュレーションと実際のマーケティングとの関連性を探ることができるのです。

例えば私たちの野球ゲームで、ユーザーが投手の球を受ける際の脳波データを測定すると、投手が球を投げる瞬間に集中力が高まることが分かります。コンテンツにどれほど集中しているかが分かるのです。こうした研究を、VRコンテンツを開発することで長期的に積み重ねていきたいと考えています。VRは2次元のコンテンツと比べてはるかにインパクトがあるので、これを活用することで人間の感情の動きを解読できるようになるでしょう。

(文:デイビッド・ブレッケン  翻訳:高野みどり  編集:水野龍哉)

このインタビューは英語で行われ、表現を明確にするため記事は編集・加筆をした。

提供:
Campaign Japan

関連する記事

併せて読みたい

1 日前

トランプ再選 テック業界への影響

トランプ新大統領はどのような政策を打ち出すのか。テック企業や広告業界、アジア太平洋地域への影響を考える。

1 日前

誰も教えてくれない、若手クリエイターの人生

競争の激しいエージェンシーの若手クリエイターとして働く著者はこの匿名記事で、ハードワークと挫折、厳しい教訓に満ちた1年を赤裸々に記す。

2024年11月15日

世界マーケティング短信:化石燃料企業との取引がリスクに

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2024年11月13日

生成AIはメディアの倫理観の根幹を揺るがしているか?

SearchGPT(サーチGPT)が登場し、メディア業界は倫理的な判断を迫られている。AIを活用したメディアバイイングのための堅牢な倫理的フレームワークはもはや必要不可欠で、即時の行動が必要だとイニシアティブ(Initiative)のチャールズ・ダンジボー氏は説く。