クリエイティブエージェンシー「カーマラマ」の本社入口には、「良いカルマはこちら」というネオンサインが掲げられており、ディスコライトのトンネルをくぐり抜けると、「タウンホール」と呼ばれるミーティングスペースに到着する。
この空間が、当社を訪れる方々に鮮烈な印象を与えることは確かだが、それはちょっとした副次的な効果に過ぎない。ネオンサインは当社の企業文化に根差したものであり、卓越した価値提供への決意の象徴でもある。
当社は良いカルマの考え方に基づき、「グッドワークス」という理念を掲げている。社員、顧客、世の中のために正しいことをすれば良い事は自ずと起こる、つまり因果応報というわけだ。
当社は昨年11月にアクセンチュア・インタラクティブに買収されたが、こうした当社の価値観や企業文化には、以前にも増して磨きがかかっている。
マーティン・ソレル氏は最近、こうした買収は「少々奇妙」で驚きを覚えると発言した。さらに、コンサルティング会社が文化を買うことなどできないとも言及したが、これははっきり言って的外れだ。
今や世界最大のデジタル広告会社ネットワークとなったアクセンチュア、より正確に言うならばアクセンチュア・インタラクティブには、自らの文化も、当社の文化も、変えようという意図はない。
むしろ当社に対し、当社の文化を改めて心に刻み、個性を維持し、ユニークなオフィス環境や「グッドワークス」の価値観を大切にするよう、積極的に働き掛けてくれている。
当社には、アクセンチュア・インタラクティブが「ディールシェパード(買収取引の番人)」と呼ぶ担当者がいる。その職務は、「カーマラマという群れを守る」ことだ。とにかく当社らしさが損なわれないことが重視されているのだ。
一方で、アクセンチュア・インタラクティブにも独自の文化がある。幸いなことに、両社には根本の部分での共通項がある。例えば、社員を大切にすること。ちなみに今年は両社とも、英サンデータイムズ紙の「もっとも働きやすい会社」ランキングに入ることができた。
これに止まらず、アクセンチュア・インタラクティブは、成功するためにはスタイルの多様性が必要だと理解している。例えば、クリエイティブな文化と、コンサルティング会社におけるデリバリー重視の文化は同じではない、といったことだ。
一つの汎用的な文化とは必ずしもいえないが、これは両社のスタイルが異なっても共存し、顧客の役に立つという共通の目標に向かって協業できるという証左なのだ。この両社の組み合わせを「奇妙」と評するのは、少々ピントがずれていると言わざるを得ない。実際、両社に違いがあるからこそ、強みを発揮できるのだから。
そして、WPPやピュブリシスのような従来型の縦割り事業モデルでは、顧客のニーズに適切に応えることはできないというのが私の意見だ。
そんなやり方を続ければ結果として、過剰に競争的で非協力的な仕事のやり方や、あまりに多くの既得権にまみれた広告会社を生み出し、文化が損なわれてしまうリスクがある。
異なる事業モデルに加わるというのは、刺激的なことだ。我々は右脳と左脳を連携させて生きているのだから、仕事においてもそうした方が良いのは当然ではないだろうか? 顧客に求められているのは「脳をフル活用できるマーケター」ではないか?
両社の社員が密に協力することで、お互いが異なるスキルを持ち寄り、課題解決に取り組むことができる。顧客の視点から見れば、お互いにコミュニケーションを取らない広告会社を何件もあたる必要がなくなり、一カ所に必要なスキルが揃っているという訳だ。
協業の文化による恩恵は、顧客のみにもたらされるのではない。市場は変化しており、消費者は完全につながりのある体験を求めている。
ブランドは、マーケティングコミュニケーションの範囲内だけでなく、事業全体を通して一貫性のある姿勢を示すことを、いまだかつてないほど強く求められている。
さまざまな機能、科学的な要素と芸術的な要素を組み合わせた協業を推進することで、私たちは変化のスピードに対応し、消費者が最大の関心を寄せる課題にソリューションを提供し、素晴らしい体験を生み出すことができると考えている。
これは、カーマラマにとって何を意味するのか? 当社の入口にはネオンサインが変わらず掲げられており、私たちの仕事の仕方も以前と同じだが、アクセンチュア・インタラクティブは、よりスケールの大きな活躍の場をもたらしてくれた。買収以降、世界中の顧客との接点ができ、次々にグローバルな仕事を手掛けるようになってきている。
また、Cの付く役職、つまり最高責任者にも会いやすくなった。CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)とばかり対話をしていた時代もあったが、今では幅広い最高責任者との接点がある。
顧客のCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)が消費者向けのサービスを作り出すのを、私たちが手伝うことも増えつつある。プロジェクトがある程度進んだところでブリーフを渡され、それに我々が対応するのではなく、戦略立案の初期段階から関与させてもらうようになってきているのだ。
だからといって、クリエイティビティーに背を向ける訳ではない。究極的に、ビジネスの成功には欠かせない要素なのだから。しかし、クリエイティビティーを最大限に生かすには、他のソリューションとの組み合わせが必要だ。
当社とアクセンチュア・インタラクティブは、互いの専門性を持ち寄ることで、市場にある他の何よりも、はるかに大きな効果を生み出せるものと考えている。
文化にとって最良の栄養剤は成功だと、両社ともに固く信じている。リスクを恐れず、急速に成長する文化の一翼を担うことは、実に爽快なものだ。
カーマラマは今後も、人材に投資し、自社の文化や価値観を守り続けていく。それと同時に、この新しいパートナーシップから最大の成果を生み出していく。つまり、アクセンチュア・インタラクティブとの緊密な連携によって、顧客の課題を解決していく。結局のところ、それこそが私たちの存在意義なのだから。
(文:ジョン・ウィルキンズ 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)
ジョン・ウィルキンズ氏は、カーマラマのエグゼクティブチェアマン兼アクセンチュア・インタラクティブのマネージングディレクター。