ampのリサーチ・アンド・インサイトコンサルタントのレックス・ヒルシュホルン氏とハンナ・ケーヒル氏が、Z世代から共感を集める、サウンド(音声)ブランディングの価値について討論した。
Z世代は、どの時代のどんな音楽でもオンデマンドで聴けるようになった初めての世代だ。以前は、独自の音楽コレクションを作るには、個人で厳選してプレイリストを作成するといった手間のかかるプロセスが必要だった。それが今や、生成済みのプレイリストから一つのトラックを選ぶだけで、一日中ずっと快適なサウンドに浸ることができるようになった。
音楽はもはや、レコード会社によって選ばれた特別のものではなくなった。ティックトック(TikTok)のようなアプリを通して、アーティストは独立性を保ったまま、オーディエンスを増やすことができる。今トレンドの曲は、メタル系楽曲のハープカバーから、知らない男性が自分のキッチンで古いセーリングソングを歌っているものまで、実に幅広い。
ただし、カルチャーシーンにおいては、音楽は今もなお重要な地位を占めている。スポティファイ(Spotify)の直近の調査によれば、2023年上半期だけで、Z世代は5,600億以上の楽曲を聴いており、対前年比で76%も増加している。
かつては、ライセンス楽曲を広告で使用するのは大変なことだった。例えば、マイクロソフトは、1995年8月、ローリング・ストーンズのヒット曲「スタート・ミー・アップ」をウィンドウズのローンチに使用するために、300万ドルもの費用を投じた。だが、Z世代をターゲットにする場合、このような従来のアプローチは有効なのだろうか?ブランドが、ティックトックのトレンドに夢中の若い世代の注意を惹きつけるには、どうすれば良いのだろうか?
多くのブランドは、CMや短尺動画プラットフォームで人気の楽曲を活用し、そのトレンドを利用してZ世代と繋がろうと試みている。このアイデアは一見有効そうに聞こえるかもしれない。しかし、Z世代が毎日膨大な量の音楽と繋がっていることを考えると、このアプローチはさまざまな理由で、それほど理想的とは言えない。
まず、Z世代はあからさまな広告操作はすぐに見抜いてしまうということだ。我々ampの最新の調査では、Z世代は、ブランドがポピュラーなライセンス楽曲を用いると、そのサウンドは本物らしくないと感じることが示されている(下図1)。
生活のあらゆる側面で真正性を重視する世代、つまりZ世代と共鳴しようとするブランドにとって、これは明らかにマイナスだ。ポピュラー音楽でZ世代にアプローチすることに失敗しているだけでなく、ブランドは多額の費用も負担しなくてはならない。こうしたライセンス楽曲の使用コストは、投資リターンも認知効果ももたらさないのだ。
ライセンス楽曲を使用する以外で、ブランドはどうしたら若い世代と音楽的に繋がることができるだろうか?上記の調査によれば、Z世代はバイラルサウンドを使用しているブランドに、最も高いインタラクション(いいね、共有、フォローなど)を示すことが明らかになっている(下図2)。
バイラルサウンドは、一般的なもの、人気が高いもの、あるいはオリジナルの音声も有効だ。但し、一般的でポピュラーなバイラルサウンドは、定義上、ブランド固有のものではないので特定のブランドに直接結び付くことはない。だが、オリジナルサウンドなら、それも可能であり、ブランドへのインタラクションを高める効果もある。図2が示すように、オリジナル楽曲の方が、一般的、あるいは最もポピュラーな音楽よりも、Z世代のインタラクションを引き起こす可能性が高い。
このデータは、Z世代とつながるために必要な手段を明確に示している。まず、ブランドはブランド価値を表すオリジナル楽曲を制作し、それを展開するのだ。制作と展開のプロセスが完了したなら、ブランドはそれらのサウンド資産を直接Z世代に提供すべきだろう。リミックス、リメイク、パーソナライズされた音楽コンテンツこそが、デジタルチャンネル全体にわたってバイラルを引き起こすための重要なカギだからだ。
音楽をバイラル的に広げることは、Z世代自身にしかできないことだ。しかし、彼らがこうした体験を広めるためには、ブランドは彼らに提供できるオリジナルの音声資産を有していなければならない。とは言え、全ての音声資産が必ずしもバイラルになるとは限らない。ブランドに合致していないバイラルサウンドをコンテンツに使用しても、ブランドとの繋がりは発生しないし、他のブランドと混同されてしまう恐れさえある。
とは言え、バイラルサウンドの効果を過小評価してはいけない。弊社のアンプリファイ(Amplify)最新号では、Z世代に焦点を当てた。その中で、追加調査を実施した結果、バイラルサウンドを持っているブランドの方が、持っていないブランドよりもはるかにZ世代に認知されていることが判明した(下図3)。この結果はとても興味深い。バイラルサウンドは、Z世代の認知度を高めるだけでなく、そのサウンドを聴いただけで、ブランドが想起されることも顕著に示されている。
言えるのは、ポピュラー音楽はそれなりの役割を持つものの、オリジナルのサウンド資産ほど、ブランドを代表することは絶対にないということだ。最近のアド・エージ(Ad Age)の記事は次のように書いている。「コンテンツ共有という行為は、ブランドが彼らにとってどんな意味を持つかを、Z世代の間に広く浸透させていくとともに、ブランド自体をどんどん新しいものに作り変えていく」
ポピュラー音楽は、ブランドのサウンド資産(サウンドロゴやジングル)ほど、エンゲージメントやコンテンツアクセスをもたらさないし、もたらすこともできない。ポピュラー音楽はブランドの関与を超えて、すでにポップカルチャーの中で大きなポジションを築いているからだ。Z世代は、キュレーター兼プロモーターの役割を任じ、ブランドとのインタラクションを通じ、パートナーとしてブランドのオリジナルサウンドをアンプリファイ(増幅・拡散)したいと考えているのだ。
詳しくは、ここからアンプリファイZ世代特集号をご覧下さい!