Z世代は、次なる重要な消費者群であり、世界全体のラグジュアリー消費に占める割合が2035年には45%に達すると予測されている。とはいえ、新世代の彼らにとって、ラグジュアリーとはどのようなものなのだろうか?
ラグジュアリーブランドの基本的考えは、消費者は手に入らないものを常に欲しがるというものだ。ラグジュアリーブランドは排他的で、一部の特権的な人々のためだけのものだ。しかし、この排他性が文化的にクールでなくなったらどうだろうか?
シンガポールの従来世代は、きらびやかなラグジュアリーブランドに身を包んできた。しかし、今日のZ世代は、人目を引く華やかさだけではないものに目を向け始めている。こうした変化の背景にあるのは、シンガポールに住むZ世代の、広範囲に及ぶ所得格差に関する社会的かつ文化的な認識の高まりだ。
ブラックボックスが実施した調査では、シンガポールに住む人の81%が、所得格差の拡大に懸念を示していることが報告されている。若年層(91%)と若年労働者層(86%)では、その割合はさらに高くなっている。この興味深いデータは、次のように解釈できるだろう。つまり、若い世代は、派手で高慢な、自分にはその資格があると言わんばかりの尊大なステレオタイプから距離を置きたがっているのだと。
では、ラグジュアリーブランドはどうすれば、こうした変化の波を乗り越えて、前進することができるだろうか?
Z世代はまもなくキャリアの入り口に立ち、それに伴って収入を得る生活が始まる。つまり彼らは、ブランドにとって極めて重要な消費者層になるのだ。
ラグジュアリー業界はこれまでずっと、高級感と憧れをよりどころに成長を遂げてきた。その一方で、いまどきのZ世代は、あらゆるものを受容するインクルーシブな意識と文化的なアイデンティティを保持している。ラグジュアリー文化をめぐるこうした変化は、今後数年間、この市場を変えていく鍵となるだろう。
イメージから価値へ
Z世代は憧れよりもインスピレーションを求める。シンガポールに住む16歳から24歳の、ラグジュアリーブランド購入者の63%が、共感を覚える重要なブランドの特性として「オーセンティシティ(真正性)」を挙げた。伝統的なラグジュアリーブランドにオーセンティシティがあるのは間違いない。しかし肝心なのは、醸し出すその真正性にZ世代が「同調」するかどうかだ。本物の魅力には、ある種のメンタリティが反映されていなくてはならない。そこで鍵となるのが「文化」だ。地域毎の文化を事細かに理解して、その地域との関連性を高めていくことがブランドの前進にとって極めて重要になってくる。
その好例が、香港に拠点を置くアンダーグラウンドミュージック集団のリーダーで、ストリートウエアのブランドも立ち上げた、イエティ・アウト(Yeti Out)のアーサー・ブレイ氏だ。同氏は、文化がファッションや音楽の中だけに存在するわけではなく、重要なのはコミュニティだということを理解している。BBCのインタビューでブレイ氏はこう述べている。「深夜の冒険が、我々のデザインにしばしばインスピレーションをもたらす。地元客でにぎわうバンコクのバーで交わす会話や、早朝4時のソウルで見かける面白い話からヒントが得られることもある」
Less is more(少ないほうが豊か)
文化的かつ地域的な、柱となる価値を基盤に据えたら、次のステップは、偽りのないストーリーでZ世代にリーチすることだ。そうなると必然的に浮上してくるのがソーシャルメディアだ。そして、真っ先に考慮すべきは、単なるフォロワー数やセレブリティではなく、より身近なタレント、つまり「genuinfluencer(真のインフルエンサー)」だ。これはトレンド予測企業WGSNによる造語だ。今後ホットなソーシャルトレンドになると予想されているgenuinfluencerは、クリエイターであってインフルエンサーではないと見なされている。情熱溢れる彼らが熱心に取り組むのは、自分が夢中になれることや自分たちの活動について語り合える「価値ある」オーディエンスとつながり、アドバイスをもらうことだ。そうした姿勢が、ブランドを買うためだけでなく「理解」するためにインスピレーションや個性を求めるZ世代の心に響くのかもしれない。ファッショントレンドを予測するジェラルディン・ウォリー氏はそのレポートの中で、「過度に『憧れをあおる』行為は、今やZ世代の多くにとってほとんど忌避すべきものと見なされている」と的確に指摘している。
M&CサーチパフォーマンスがGWIと共同で行った調査では、ブランドに本物の質を求める若くて豊かな購買層は、「Less is more(少ないほうが豊か)」という考え方に共感しているという。またそこには、オーセンティシティとリアリズムで注目を集めているTikTokなどのソーシャルプラットフォームを好む、彼らの傾向も表れているという。TikTokは、Z世代の「もっと自分らしく」という考えを強化する。それはユーザーデータにも表れており、TikTokでブランドを目にした後、そのブランドについてより肯定的に受け止められるようになったと回答したユーザーは56%に上る。また、TikTokの広告は、他のデジタルプラットフォームのものよりも、概して「クリエイティブ」で「オリジナル」だと、ユーザーは考えているようだ。
親しみやすさの強化
今こそ、実に半世紀もの歴史を持つ高級ブランドのレガシーに、若者の価値観と認識を取り込むときだ。グッチはこの点について先進的思考を持っており、ファッションショーでは若い世代にも門戸を開き、アレッサンドロ・ミケーレ氏をクリエイティブディレクターに迎え入れて、若者層にアピールしてきた。その結果、この2年間で、世界全体の顧客の平均年齢が10歳下がった。これが極めて重要なのは、今後、Z世代がラグジュアリー市場で「初めて」商品を購入するようになり、彼らこそが主要な消費者層となっていくからだ。従って、敷居を低くしておくことは、Z世代の消費者が近い将来、ブランドとどう関わっていくかを決める鍵になるだろう。
新しさと伝統の融合
こうした変化を評価する上で重要なのが、レガシーという概念だ。残念ながら、現代性と伝統のバランスがうまく取れているレガシーブランドはほとんどない。モンクレールはその数少ない一例だ。このイタリアブランドは、2018年、斬新さで知られる新進デザイナーと手を組み、「Moncler Genius(モンクレール・ジーニアス)」コレクションを発表した。これには、長年ファッションウィークで培ってきた伝統やデザイン、クラフトマンシップが凝縮されており、直営店で販売された。この新時代のストーリーの提供は、消費者を店舗へと駆り立て、Genius以外のコレクションの売上増にも貢献した。Z世代とミレニアル世代の消費者は、今やモンクレールの顧客の40%を占め、Genius購入者の50%は、モンクレールブランドを初めて購入した客だ。
つまり、これからの時代は、ハイエンドな商品をショーウィンドウで飾りたてるよりも、情緒的でインクルーシブな結びつきや文化的なモチベーションの方が、ブランドの成長に寄与するということだ。そして、そうしたアイデンティティや信念はやがて、消費者の欲望に進化をもたらし、それがZ世代という重要なオーディエンスの取り込みにもつながっていくだろう。一方で、こうしたことに取り組まないブランドは、Z世代とのつながりを失う潜在的リスクを抱え続けることになるだろう。
シバ・グローバー氏は、M&Cサーチパフォーマンスの戦略およびカスタマーインサイト担当シニアエグゼクティブ。