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周知のごとく、Z世代から絶大な支持を受けるTikTok。今や全世界におけるダウンロード数は累計20億を突破(Sensor Tower調べ)、若年層に関する知見はどこのプラットフォームよりも秀でていると言っていい。今回の白書は3月に発表された「TikTok For Businessオフィシャルユーザー白書」に続くもので、1万7000人以上の男女(15〜69歳)を対象とした定量調査と、Z世代約80人を対象とした定性調査の結果だ。
前回の白書で明らかになったのは、TikTokユーザーが「信じられるリアル=Trustable Real」を求めているということ。インフルエンサーだけでなく、一般ユーザーも含めて「信じられる人、そして自分自身の体験だけがリアル」と答えた回答者は8割に上った。これは、インフルエンサーとユーザーの間の垣根が低くなったことを意味するだろう。
「TikTokの発想はそもそも『ユーザー・ファースト』です。我々はユーザーの中にインフルエンサーがいると考える。ブランドとユーザーの架け橋であるインフルエンサーのメッセージが、ユーザーの中でさらに増幅されていく時代になったということでしょう。今のインフルエンサーはユーザーから多くを学び、ユーザーに関する知識を驚くほど蓄えています。むしろブランドがそれをアップデートしなければならないでしょう」(廣谷氏)
そして今回の白書では、Z世代の3つの大きな特徴が浮かび上がった。
まずは、「多面性」。「人が自分をどう思っているか気にする」という回答者は73.4%。その一方で、「人と違う個性が重要」という者も74.9%。例えば、自分の作るコンテンツに関して承認欲求が強い反面、「純粋な楽しさだけを追求する」という意識も持ち合わせているのだ。一見相反するパーソナリティーは、物事に白黒を付けず、異なる価値観に対しても鷹揚なことを意味する。
2番目は、「不完全性」。「失敗などのネガティブな面がある動画・投稿は信頼できる」という回答者は25歳以上で27.4%だったのに対し、Z世代ではほぼ倍の49%。これは、前回白書の「信じられるリアル」をより鮮明に示す。つまり、コンテンツに完璧な「格好よさ」だけではなく、「緩さ」「ダサさ」も表現されていることで初めて信頼性を覚えるというのだ。
最後は、「かじる」。Z世代は自分の価値観に合うものを執拗に探求し、いろいろなメディアやプラットフォーム、サイトに手を付ける(=かじる)「マルチタスク」が基本的な姿勢だという。これは人とのつながりも同様で、「SNS上で友人を作ったことがある」者はほぼ半数の49.3%、「SNS上でしか話していない友人がいる」者は35.3%で、いずれも25歳以上の世代より高い。
では、こうした世代にブランドはどのように対応すべきなのか。「まず意識しなければいけないのは、彼らにストレスを与えないこと。あくまでもユーザー・ファーストです」と廣谷氏。
「今はブランドに比べ、ユーザーとインフルエンサーの力が非常に強くなっている。その理由は、自分で検索すればどのような情報にも辿り着けるからです。1分以上の動画が長すぎると感じるZ世代は4割ほど。ストレスを感じるコンテンツはどんどんスキップされてしまいます。ブランドはきちんとしたクリエイティブやキャッチコピーがあれば伝わると考えがちですが、それはもう変わってきている。まずはユーザーを楽しませることが、これからの時代では必要となります」
したがってUGC(ユーザーが制作するコンテンツ)を活用する際は、ある程度のルールを設定する「制約」と、各人がオリジナリティーを発揮できる「余白」のバランスが肝要となる。「負荷をかけないチャレンジ(難易度)、適度なクリエイティビティの自由度の見極めがブランドに求められます」。
本音を言う姿勢や正直さも欠かせない。「インフルエンサーの扱う商品がキャラクターに合っているかどうかもユーザーは敏感に嗅ぎ分ける。やらせは通用しません」。
今回の調査結果で廣谷氏にとって意外だったのは、「かじる」理由。「当初、それは無邪気で積極的な好奇心にあると考えていました。ところが定性調査の過程で、そうではないことがわかってきた。理由をひと言で表すなら、『柔軟性』。一つがダメになっても他がある、という考え方です。いくつもの選択肢や価値観をかじることで、不測の事態にも対応できる」。
こうした思考法は軽く見られがちなマルチタスク、多面性のイメージとは異なり、「むしろ逞しいのではないでしょうか」。「今のようなコロナ禍でも、できないことがあれば他の選択肢がある、とドライに発想を転換できる。逆にそれができなければ、心が折れてしまいます。ですから、これからの社会を生きていく上で必要なテクニックを身に付けているのでは」。
この特徴は、Z世代が育った時代背景とも関係するだろう。彼らが生まれた前後には米国で同時多発テロがあり、2008年にはリーマン・ショック、2011年には東日本大震災……と常に不透明さや危機が隣り合わせだった。柔軟性を求めるのはある意味、自然とも言える。
こうしたZ世代は、「変革期の鍵となる可能性がある」と廣谷氏は指摘する。というのも、「今はマーケティングが大きな岐路に差し掛かっているからです」。
「モノがない時代は、消費者に『認知』をさせれば商品を買ってもらえた。そしてモノが増えてくると、『差別化』で関心を引いた。さらに競争が増すと、今度は『トライアル(試用)』を提供した。今はマーケティングファネルの一番最後の段階、『購買』の部分に意識が集中しすぎている状態です。ですから、全てをやり尽くした後はまた最初に戻るような気がします。つまりマーケティングの最適化云々ではなく、その反動で、人間の純粋な喜びや楽しさが前面に出る時代になるのでは。消費者はもっとシンプルな興味への入り口を求めています。そうなれば、ブランドはもっと自由で楽しいコミュニケーションを取るようになるでしょう。そうなったら楽しいな、という願望もありますが」
そして新たなフェーズがスタートしたとき、これからの消費者を象徴するZ世代は「その主役になる可能性が高い」というのだ。「次は、ユーザーの力が強い今の状態から全てが始まる。シンプルな楽しさや出会いを求めるZ世代が、新しいスタートラインで大きな役割を果たすことは間違いありません」。
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(文:水野龍哉)