ウーバーの日本での存在感は、決して大きいとはいえない。しかし同社がアジアで新しく展開するキャンペーンは、自動車所有に消極的な人が増えつつある時代のクリエイティブという観点で、一見の価値がある。
「Ride Together(一緒に乗ろう)」というキャッチコピーで締めくくられるこの動画がターゲットとするのは、撮影が行われたバンコクや、シンガポール、マニラ、ジャカルタ、ホーチミン、香港、台北などのユーザー。これらの都市は(シンガポールを除き)、深刻な交通渋滞が課題となっている。
このキャンペーンが前提とするのは、「個々人が運転することよりも、ライドシェアリングの方が素晴らしい」という考え方だ。ジャカルタの人々は片道で平均68分もの時間を道路上で過ごすといわれており、同社はこの街で250万台もの自動車を減らすことで「都市を解き放ちたい」と考えている。
動画によって自動車所有についての議論を巻き起こすことを目指すが、「所有の是非までは明断しない」と話すのは、同社アジア太平洋地域担当マーケティングディレクター、イーシャン・ポンナデュライ氏だ。「我々が提起したいのは、個人が所有する自動車を、どうすればリソースとしてもっと効率よく活用できるか、という点なのです」
動画を制作したのは、スウェーデンのヨーテボリに拠点を置く広告会社、フォースマン&ボーデンフォース。
自動車や自転車のシェアリングは、まだ規制がゆるい市場において急成長中の産業だ。ウーバーはシェアリングビジネスの先駆者だが、グラブやリフトなどの猛追により競争は激化している。トヨタなど大手自動車メーカーも若者の自動車離れを視野に入れるが、より関心を持っているのは、気軽に自動車をレンタルできるサービスのようだ。
Campaignの視点:
ビジュアルが印象に残る愉快な動画で、長さもちょうどよい。素晴らしいクリエイティブだ。だが、たとえウーバーを利用したとしても、利用者が渋滞に巻き込まれ、長時間を路上で過ごさざるを得ない状況はおそらく変わらない。都市部を自動車で移動するのは、どう見ても良い選択ではない。ウーバーが思い描くような変化は、すぐには起こらないだろう。だが「自動車を購入し、自分も渋滞に加わることは望ましいのか」と人々に熟考させるのは、適切な施策だといえよう。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)