ロンドンの中心にあるフィッツロヴィア地区のパブでは今、コンサルティング企業の広告業界参入の話題でもちきりだ。人々の反応はさまざまだ。ホールディングカンパニーの社員たちは不安を抱き、スタートアップの社員たちは合併時の賃金を想像して興奮。アダム&イブDDBのチーフ・ストラテジー・オフィサー、アレックス・ヘス氏などは、警鐘だととらえている。
では、なぜコンサルティング企業は広告業界に参入するのか。その答えは、エージェンシーは何をすることで報酬を得ているかを考えれば分かる。クライアントが支払う代価はアイデアに対してなのか、創造的なコンテンツなのか。それとも実際のところは、インパクトに対してなのだろうか。
会計士であったジェームズ・マッキンゼーが、経営コンサルティングの手法を開発した1920年代に思い描いていたのは、マネジメントの効率を上げるための物差しという概念だった。
時代が移り、現在のマッキンゼーでは最初の研修で、コンサルティング業とは「問題解決」であると、はっきりと教えている。
ヘス氏はCampaignに対して、このように述べている。「マッキンゼー・アンド・カンパニーでは、いかなる提案も、クライアントに2つのことを認識してもらうことを目的にしているという。まず、提案を受けて『まずい状況だ』と気付かせること。そして、『マッキンゼーがいてくれて良かった』と思ってもらうことだそうだ」
これは方向性としては間違ってはいないが、すべてを語ってはいない。表現の良し悪しは別にして(無論マッキンゼーはそのような品のない表現はしないだろう)、言いたいことは「あなた方は実に複雑な問題に直面している」、「大量の情報を吟味した結果、すばらしい解決策を見つけることができた」、「今こそ実行に移す時」といったことだろう。
そして、この「実行」という言葉こそが、なぜアクセンチュアなどがエージェンシーを買い漁っているのかを考えるヒントなのだ。
マッキンゼーをはじめとするコンサルティング企業は、自分たちを「役員レベルへのアドバイザー」と考えている。チーフエクゼクティブに直接サービスを提供することを目指しており、トップの特権を大事にしているのだ。また彼らの提案はしばしばITを活用するため、その多くはIT部門を備えている。
同時に、デジタル化に続くものとして重要性が増しているのが、コンシューマーとのコミュニケーションだ。
30秒CMを作り、テレビのCM枠を大量に確保することが主流だった時代には、クライアント(チーフエクゼクティブ)が職務をマーケティングディレクターに委ねることに、コンサルタントは何ら不満を持つことはなかった。しかしデジタル化が進んだ今日、クライアントが求めるのは会社全体を横断する統合的なソリューションだ。
そしてマーケティングコミュニケーションは、チーフエクゼクティブレベルの課題となった。そこに稼ぐチャンスがあると、コンサルタントたちは判断したのだ。クライアントへのセールストークも、「マーケティングが必要ですよ」から、「私たちが開発した(高価な)マーケティング戦略を、実行できる仲間を紹介できますよ」へと変わった。
フィッツロヴィアのパブでの会話は往々にして「コンサルタントに我々独自のクリエイティブ文化など分かるはずがない。一緒になったらめちゃくちゃにされるだけだ」というところに落ち着く。本当にそうだろうか? ホールディングカンパニーがしてきたよりも、もっとひどい状況に変えてしまうというのだろうか。
コンサルティング企業がエージェンシーを完全に一体化してしまうことは、まずないだろう(そんなことをしないだけの知恵はある)。
まず初めにすることは、コンサルティング企業は自社の従業員にエージェンシーよりも(かなり)多くの賃金を支払うことだろう。エージェンシーの報酬を同レベルに引き上げるなど、絶対にしない。
その上でクライアントに多大な料金を請求する。コンサルティング企業のディレクターは、一日当たり6000ポンド(約88万円)もの金額を請求できる。一体どれほどのエージェンシーが、こんな金額を請求できるだろうか。ということはエージェンシーが買収されたとして、親会社から応援が来ることなど到底考えられない。そんなことを、したくはないのだ。
欧米のエージェンシーがクリエイティブとメディアに分岐した1990年代、エージェンシーは根本からの変更を余儀なくされた。コンサルティング企業の参入も、同様に多大な影響をもたらすことだろう。
ヘス氏の言う「私たちは広告を売っているのではなく、インパクトを売っている」という意見に、私は賛同する。我々は「企業向けサービスの提供者」である。クリエイティビティーを活用して、その成果を売るのだ。顧客の売り上げは伸び、企業行動も変わっていくのだ。
Campaignは成功と、作品の出来とを関連付けて語るのが好きなようだが、コンサルティング企業の参入が示唆するのは「成功は作品の成果によって規定される」という事実だ。
だから答えは単純だ。エージェンシーはコンサルティング企業に身売りなり、競合なりすればよい。いずれにしても、クライアントが抱える大きな課題をチーフエクゼクティブのために解決すべく、最高のクリエイティブアイデアやスキル、コンテンツ制作力を駆使するのだ。その上でしっかりと報酬を請求すれば良いだろう。
(文:ロジャー・ペリー 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)
ロジャー・ペリー氏はクリエイティブエージェンシー「MSQパートナーズ」のチェアマン。