David Blecken
2017年9月14日

世界のマーケティング界、今週の注目ニュース(2017年9月15日付)

今週、海外のマーケティング界ではどのような動きがあったのか。注目すべき出来事やコメントを5題、要約してお届けする。

重圧を受けているマーティン・ソレル卿
重圧を受けているマーティン・ソレル卿

常にグローバルな視点をモットーとするCampaign。国内にとどまらず、世界的視野を持つことが誰にとっても有意義なのは言うまでもない。こうした観点から、今週海外より届いた5つの興味深いニュースをまとめてみる。

1. 消費財大手の予算削減、広告代理店を再編か

売上成長が鈍化しているWPP。観測筋によると、CEOのマーティン・ソレル卿がその対応策として、傘下にある2つ以上のクリエイティブエイジェンシー −− オグルヴィ、ジェイ・ウォルター・トンプソン、グレイ、Y&R −− の合併を考えているという。同氏は消費財大手のマーケティング予算削減が「第2四半期の売上を1.7%下落させた」と言及。そのP&Gとユニリーバは、パートナーである複数の広告代理店に強い不満を表明している。160以上の企業を持つWPPは財政的圧迫が増していることと相まって、「組織の簡素化が必要になるだろう」とソレル卿は述べている。

2. アクセンチュアインタラクティブは「戦闘モード」

幾多の課題に直面しているWPPだが、アクセンチュアインタラクティブと手を組む考えはないことを表明した。一方でアクセンチュアは、「マーケティング業界の最も強大な企業を目指す」と明言。同社欧州・アフリカ・中東及び南米担当マネージングディレクターのアナトリー・ロイトマン氏はCampaignに対し、「ブランド体験の管理役になる」と語った。同氏曰く、今日のCEOは広告やコミュニケーションの枠を超えた思考をせねばならず、アクセンチュアは「初の世界的“エクスペリエンスAOR(agency of record、広告主の指名代理店)”として、全ての領域をカバーできる立ち位置にある」。その反面、広告代理店の持ち株会社は傘下の企業同士の協力を実現できず、単一のP&L(損益計算書)作成のためには「自身を破壊する必要がある」とも。同氏のコメントは、これまで決して「広告代理店と争う」と公言しなかった同社の新しい方向性を示すものだ。これに加え、米国広告代理店協会(4A’s =American Association of Advertising Agencies)がコンサルティング会社をメンバーとして迎え入れることを検討しているのも注目すべき動向だろう。

3. 3つの異なるアジア

メディアエージェンシー「ゼニス(Zenith)」の最新予測によると、“ファーストトラック・アジア(急成長するアジア = 中国、インド、インドネシア、マレーシア、パキスタン、フィリピン、台湾、タイ、ベトナム)”の2016年から2019年における広告費の成長率は7.3%だという。その一方、“アドバンスト・アジア(先進的なアジア = 豪州、香港、ニュージーランド、シンガポール、韓国)”の伸びは2.8%で、日本に至っては1.9%。ちなみに北米の伸びは3.4%だ。2017年の世界市場の成長率は4%で、5580億米ドル(約61兆3800億円)に達するという。こうした成長を最も力強く牽引しているのは米国と中国で、インドネシアがそれに続いている。

4. 「文化的相性」が勝敗を決す

Airbnbの世界市場における広告代理店としてTBWAに取って代わったワイデン・アンド・ケネディ(W+K)は、「新経済のAORとなった」と声明を発表。同社はAirbnbとの契約前に、スポティファイやフェイスブック、リフト(Lyft)といった同様の革新的テクノロジー企業とも契約を成立させている。AirbnbをめぐってW+KはDDBとつばぜりあいを演じたが、これまでのテクノロジー企業との協働の経験やその独自性、意外性や価値観のアピールが奏功したようだ。

5. 広告に宗教色はご法度……なのか?

豪州食肉家畜生産者事業団(MLA = Meat and Livestock Council of Australia)がラム肉のプロモーションのために制作したユーモラスなPR動画が、多くの国々のヒンドゥー教やキリスト教の代表者たちを怒らせている。この作品にはキリストやゼウス、ガネーシャなど様々な宗教のアイコンたちが登場。彼らが立場の違いを越え、仲良く夕食の席でラム肉に舌鼓を打つ。そのメッセージは、ラムはビーフやポークと違って宗教的なタブーにならないということ。だがこの動画を視聴した多くの人々は愉快に思わず、「不謹慎極まりない」「冒とく的だ」という批判が寄せられた。更に、ガネーシャは正確には「菜食主義だ」との指摘も。この一件で広告主が学ばなければならないのは、宗教的なテーマは何があっても回避すべしということ。もしそれを扱えば、世界のどこかで必ずや憤慨する人々が現れる。とは言え、この動画のユーモアと調和を象徴するメッセージを評価する「それほど信心深くない人々」もいるようで、当たり障りのないPRよりは効果があったことも否定できない。いずれにせよ、独創的でユニークなキャンペーンを展開するときは、そのリスクと潜在的なメリットをよく吟味することが大切だ。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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