カンヌライオンズ、アジア勢の成績
今年のカンヌライオンズは、アジア太平洋地域の国々にとって残念な結果に終わった。受賞総数は174と、293だった昨年に比べ4割も減少。数が最も落ち込んだ国はシンガポールで、昨年の32に比べ今年はわずか2つだった。
これは何を意味するのか。アジア太平洋地域のクリエイティビティーに対する警鐘なのか、あるいは審査プロセスの問題なのか −− おそらく、そのどちらも当たっているだろう。栄枯盛衰は自然の摂理だが、今回、インテグレーティッド、サイバー、プロモ&アクティベーションの3つのカテゴリーが廃止されたことがアジア勢にとって響いたと言える。
その受賞作品の多くは、明らかに賞を獲る目的で作られたように映った。完全なスキャム広告でなくとも、こうした作品は一般消費者ではなく、審査員に強い印象を与えるために制作される。市井の人々が目にすることはないだろう。我々メディアもブランドにとっての有用性を考慮せず、目新しさや娯楽性だけで作品を評価するという過ちを時に犯してしまう。今後、カンヌライオンズには本当の意味の選りすぐられた広告 −− クライアントのきちんとしたブリーフに応え、多くの人々が目にするもの −− がエントリーすることを願うばかりだ。
一方で、審査員にはもっと多くのアジア人が必要だろう。審査員の構成は依然として欧米系アングロサクソンに偏っており、まさしくこれがカンヌ向けの作品を作ろうとする広告代理店や制作会社側の動機となっている。つまり、あまりにローカル化された作品は審査員が理解できないと考えてしまうからだ。カンヌが世界最高峰のクリエイティブワークを選ぶ場になるには、組織も真にグローバル化しなければならない。
カンヌで最も多くの受賞を果たしたブランド
今年のカンヌで最も多くの賞を獲得したブランドはアップルとP&G、そしてビール大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABInBev)で、それぞれ2つのグランプリを受賞した。対象作品はアップルの「トゥデイ・アット・アップル(Today at Apple)」とホームポッド(HomePod)のキャンペーン、ABインベブはバドワイザーの「タグワード(Tagwords)」とカーリングの「サッカー・ソング・フォア・チェンジ(Soccer Song for Change)」、そしてP&Gが「ザ・トーク(The Talk)
」と「イッツ・ア・タイド・アド(It’s a Tide Ad)」。
これらのブランドを上回ったのはチャリティーキャンペーンの「パラオ・レガシー・プロジェクト」で、3つのグランプリを受賞した。
それぞれの受賞作は稀有な娯楽性を持ち、時に心を打つ内容だが、それ以外に共通項はほとんどない。
他も含めてグランプリに輝いた作品のいくつかは、要求の厳しい、仕事のしにくいブランドのために制作された。これは明るい要素だろう。大概の受賞作のクライアントは、慈善団体のごとくクリエイティブに(カンヌで受賞するよう)自由に作品を作らせてくれる「くみしやすい」ブランドだからだ。アップルの作品はインハウスで制作されたが、ブランドのクリエイティブは大抵、広告賞など気にかけない。もちろん賞を獲れればそれに越したことはないが、彼らにとってより重要なのは一般消費者からの反響だからだ。
ソレルの悔恨
WPPのマーティン・ソレル前CEOは、在任中に同社の構造を簡素化しなかったことを「後悔している」とカンヌで語った。「何を目指すかは問題ではない。他の経営者も基本的に同じことをしようとしているが、それも関係はない」と同氏。「スピード感こそが大切」。
広告代理店にとって唯一の存在理由はクライアントに仕えることだが、同氏は「サイロ化したビジネスモデルからクライアント重視のそれに移行することは容易ではない」ともコメント。WPPの今後の方向性は、いまだ明確ではない。ソレル卿は在任中、傘下の各エージェンシーを協業させるため「横並びの構造」への変革をしばしば唱えていた。だが同氏の辞職以後、WPPはこのコンセプトを先延ばしにしている。
ソレル卿が「やり残したことがある」と語ったことは、同氏が高齢にもかかわらず再スタートを切った理由 −− 多くの人々は「分別のない判断」と見ている −− を示唆する。73歳になる同氏のスピード感に対する解釈は、今でも実に的確だ。
パナソニック、ホームシェアリングビジネスを活用
日本で民泊が正式に認可され、今や猫も杓子もこの業界に殺到する。今週、パナソニックが短期滞在用の宿泊施設を東京と大阪に10カ所オープンすると報道された。これらの施設の狙いはもちろん利益を上げることだが、同社は宿泊客に自社の美容家電を紹介する場にしようと目論んでいる。パナソニックビューティの製品はアジアで人気が高く、日本を訪れる多くの観光客が購入する。
今年の「アジアのトップ1000ブランド」で、パナソニックは日本のトップブランドの座を堅持した。同社はこの4月、京都にデザインの開発拠点を新設。今月には「フラックス(Flux)」の名で、デザイン戦略統括の部署をロンドンに設置している。
コカ・コーラ、売上減少でマルチブランド戦略
英マーケティングウィーク誌によると、コカ・コーラは今夏、マルチブランド・キャンペーンを英国で実施する。これはコカ・コーラとスプライト、ドクターペッパーを合わせて宣伝するもので、ミレニアル世代への訴求を狙ったもの。このキャンペーンでは同時に、ホエールウォッチングのような“いつまでも記憶に残る”旅を抽選で提供する。ターゲットであるミレニアル世代は、物質的価値よりも体験に重きを置くと言われているからだ。こうした戦略は珍しい。例えばP&Gが、様々なシャンプーのブランドを1つの広告で宣伝するだろうか。だが消費者は炭酸飲料から離れつつあり、こうした取り組みが必要になるのだろう。米ビバレージ・ダイジェスト(Beverage Digest)誌によると、業界をリードするコークとペプシの昨年の米国での売上はそれぞれ2%、4.5%減だという。
今週のもう1つの注目すべき動きは、イケア。米航空宇宙局(NASA)とコラボレートし、宇宙をテーマとした製品の開発に乗り出すという。2020年に全世界での発売を予定する。同社は近年、アディダスなど他の多くのブランドと協業、単なる「廉価な家具の小売ブランド」というイメージからの脱却を図る。日本ではニトリや無印良品といったブランドとの競争で優位に立つため、リポジショニングを模索していると言われる。近々、クリエイティブエージェンシーにも戦略提案を促すようだ。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)