世界マーケティング短信：R/GAがIPGから独立

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。

R/GAが独立　IPGとの23年間の関係に終止符

23年間にわたって米インターパブリック・グループ（Interpublic Group、以下「IPG」）傘下だったR/GAが、プライベートエクイティ会社トゥルーリンク・キャピタル（Truelink Capital）からの支援を受け、非上場企業として独立した。R/GAのグローバルCEOであるロビン・フォーブス氏と、会長兼グローバル最高クリエイティブ責任者であるティファニー・ロルフ氏も、グローバルリーダーとして同社に投資する。

トゥルーリンクは新しい技術や人材への投資、新たな分野での活動、ツールやプラットフォームの開発のため、イノベーションファンドを5,000万米ドルで設立。R/GAはAI技術を活用したモデルによって「従来の企業構造の制約や経費にとらわれることのない」サービス提供を目指す。最初に実施される変革には、成果に基づく報酬モデル、敏捷な新しいチーム体制、柔軟な人材モデル「R/GAアソシエイツ」の拡大などがある。

フォーブス氏は「代理店ビジネスにおいてみられる合併に向かう傾向とは対照的」と語る。「多くの代理店は旧来のビジネスモデルに縛られ、複雑な代理店構造の中で経営を行っており、変化の速いこの時代において方向転換するのに苦労しています。この新しい環境に適応できる新しいモデルを実践するのに、今ほど最適な時期はなく、R/GAほど適した企業は無いでしょう」。

ロルフ氏も「R/GAでは、変化はバグではなく必然と考えます。私たちはブランドが社会を変革する力を信じています。それは私たちがクライアントに提供していることであり、そして今、私たち自身のために行っていることでもあります」とコメント。AIをめぐる論調は効率性の向上に主眼が置かれがちだが、「これまでになかった新しい種類のインテリジェンス技術によってブランドが差別化を図り、顧客の期待を上回るようなクリエイティブな可能性に期待しています」。

トゥルーリンク・キャピタルの共同設立者兼マネージング・パートナーのルーク・マイヤーズ氏も「R/GAは、クライアントが新たなチャンスをつかむ手助けをする上で完璧なポジションにあり、そのためにデザインされていると言ってもよいでしょう」と語った。

R/GAは1977年に設立。当時の親会社だったトゥルー・ノース・コミュニケーション（True North Communications）を、IPGが2001年に買収した。

IPGの従業員数が全世界で4,100人減少

IPGの全世界の従業員数が57,400人（2023年末）から7.1%減少し、53,300人（2024年末）になったことが、2024年のアニュアルレポートで明らかになった。地域別の従業員数は、米国が21,100人（-11.3%）、英国が4,900人（-5.8%）、大陸欧州が6,600人（-2.9%）、アジア太平洋地域が10,000人（-4.8%）、中南米が6,700人（-4.3%）、その他地域が4,000人（-2.4%）。

同社は米オムニコム（Omnicom）による買収が発表されており、手続きは2025年末までに完了する見込み。2024年1月には傘下のヒル・ホリデイ（Hill Holiday）とドイチュ・ニューヨーク（Deutsch New York）、10月にはR/GAとヒュージ（Huge）を売却予定であると明らかにしており、これが従業員数に大きく影響した可能性がある。

児童性的虐待サイトへの広告掲載で、アマゾンが広告主に返金

大手ブランドの広告が児童性的虐待コンテンツ（CSAM）の横に掲載されていたことをアダリティクス（Adalytics）のレポートが明らかにし、米上院議員が関係する企業のCEO宛てに書簡を送っていた件で、アマゾン（Amazon）が影響を受けた広告主に返金した。違反するサイトを広告システムから直ちにブロックした他、URLレベルで透明性を高めるなどの措置をとった。

アマゾンの公共政策担当バイスプレジデントであるブライアン・ヒューズマン氏は「まず、アマゾンの広告はCSAMの横に掲載されるべきでないことを明らかにしておきます。当社は、この種のコンテンツの横への広告掲載を固く禁じてきており、これは明らかに当社のポリシーに反するものです」とコメントしている。

ダブルベリファイ（DoubleVerify）やインテグラルアドサイエンス（IAS）など、レポートで言及された他の企業も行動を起こしている。グーグルもアマゾンと同様の対策を講じたが、広告主への返金については明らかにしていない。

スパイクスアジア、Advertiser of the Yearにサムスン電機

アジア太平洋地域で最大級の広告祭「スパイクスアジア2025」の審査結果が発表され、アドバタイザー・オブ・ザ・イヤーにサムスン電機が選ばれた。同社の受賞は2回目で、前回は2017年。

同社は2022年、Ｚ世代をターゲットとした「Flipvertising」キャンペーンを実施。ユーザーが特定の単語を検索するとリターゲティングの対象となり、動画を視聴できるようになる仕組みで、スパイクスアジア2023でクリエイティブデータ部門とダイレクト部門のグランプリを獲得した。また2024年には「Try Galaxy Fold Experience」キャンペーンが複数の分野で賞を獲得している。

スパイクスアジアならびにカンヌライオンズのCEOであるサイモン・クック氏は「テクノロジーとクリエイティビティーを融合したサムスン電機の画期的な取り組みは、マーケティングの可能性の限界を押し広げ続けています」と述べる。「同社の功績が世界中のマーケターに刺激を与えて、このキャンペーンがアジア太平洋地域の内外で非常に大きな影響を及ぼしたことを評価しました」。

シェイクスピアの名作をボールペン1本で書き上げる

仏ボールペンブランド「ビック（Bic）」が、クリスタルシリーズが75周年を迎えたことを記念して、AIを活用してシェイクスピアの筆跡を再現し、『ロミオとジュリエット』を書き上げるキャンペーンを実施した。

ビックと提携したVMLサンパウロのクリエイティブディレクター、マルセロ・フェリシオ氏によると、ビックのペンでシェイクスピアの原稿を書くというアイデアは約6年前に思いついたものの、カリグラファーとタイポグラファーにかかる費用が高額だった。だがAI技術が進歩したことで、ソフトウェアやロボットを駆使して筆跡を復元することができたのだという。

「史上最も偉大な作家の一人であるシェイクスピアへのトリビュートであると同時に、書くという行為そのものへのトリビュート」とフェリシオ氏。「手書きは知識を保つのに役立ち、創造性を刺激します。そしてAIは私たちのルーティンに役立つツールであることも、皆さんご存知のとおりです」。

3キロメートルも書けるというペンの耐久性を証明するため、1本のペンで書き上げた212ページの原稿は、リオデジャネイロの図書館に寄贈された。