東京に拠点を置き、インバウンドマーケティング導入支援を提供する24-7は今年9月、アジア初の「ハブスポット・ダイヤモンド・パートナー」に昇格した。同社代表取締役の田村慶氏に、いまだ日本で理解が浸透しないインバウンドマーケティングを解説してもらった。「インバウンド」のアプローチでブランド構築を考えているマーケター(特に旧来型のやり方を続けているマーケター)が、意識すべきポイントを以下に示す。
1.インバウンドマーケティングは、中国人観光客とはまるで関係ない。
悪い冗談に聞こえるかもしれないが、田村氏によれば、日本では「インバウンド」を中国やベトナムからの観光客を招き寄せるための取り組みだと勘違いされるケースが多いという。リード(接点)をつくり出すコンテンツを制作するだけでもない。「新しいマーケティング手法ではないのですが、従来の一方的な営業とは異なる思考プロセスが要求されます」と田村氏は言う。「製品を売ろうとするのではなく、まずは顧客の役に立とうとすることです。役に立てば、おのずと人が集まってきます」
2.コンバージョンは、はじめの一歩に過ぎない。
リードの獲得やコンバージョンに至ったら、インバウンドマーケティングの役割は終わりだと思われがちだが、田村氏はこれを否定。「コンテンツを使って既存顧客の満足度を高めるかを常に考えること」をマーケターにアドバイスする。「顧客が購買プロセスを進むほどに、あたかも一対一で会話をしているかのようにコミュニケーションを個々人に合わせていくべき」と田村氏。「正しく実施すれば、顧客はまるでパートナーのように進化します」
3.プッシュする権利は努力して手に入れるもの。
初めてインバウンドマーケティングを試みるのであれば、顧客をより深く理解するよう努めることと、いかにして顧客の抱える課題の解決に応えるかが最重要事項となる。田村氏は「プッシュ型のマーケティング自体は悪いものではありませんが、相手に求められていないのにプッシュしては嫌われてしまう」と注意を促す。「どんな相手にかけているのかよく分からないまま、電話営業をしているようなケースがほとんど。データの分析を行い、適切なコンテンツをプッシュするための投資が必要なのですが、ほとんどの企業はこれをやっていません。単純に『良いアイデアがあるから売ろう』と考えているのです」
4.結果は一晩では出ない。
田村氏は、インバウンドマーケティングは食事制限に少し似たところがあると言う。「明日食べるのをやめたからといって、すぐに10キロ減るわけではないのと同じ。着実に、少しずつ変えていかなければなりません。マーケティングのチームだけでなく、営業やその他のサポート部門も含めて調整する必要があります。企業文化を1カ月という短い時間で変えることなどできないのです」。また、日本で定着するためには、インバウンドマーケティングを取り入れる意義を全ての関連部署が見いだせるよう、もっと多くのケーススタディが必要だとも指摘する。
5.経営陣を味方につける。
極論すると、マーケターの意図がどれほど素晴らしくとも、経営陣の理解と支持なしにインバウンドマーケティングの成功はあり得ない。「本気で実行したいと願うならば、旗振り役は管理職でなければなりません。導入のメリットをチームに納得させるとともに、チームの構成を変える役割を担うのは管理職ですから」と田村氏。「教育も欠かせません。まずは見通しを立て、その実現のために何が必要かを決定するよう、自らの思考回路を作り直す必要があります。そして、この取り組みには経営陣を巻き込まなければなりません。マーケティングのみならず営業や、会社の理念にも関わるものだということを会社全体に納得してもらい、企業文化に取り入れていくのは、経営陣の仕事です」
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)