日本市場においてライドシェア(相乗り)サービス「Uber」は浸透に至っていないが、自転車シェアリングはもっと有望なようだ。日本では公共交通が発達しており、自転車は個人での所有が基本だったが、2つの自転車シェアリング事業者が先月、日本での事業開始を発表した。
事業開始を計画しているのはOfo(オッフォ、本社:北京)と、日本のフリマアプリ「メルカリ」の運営会社が手掛けるメルチャリだ。数年前からシェアリング事業を展開し、昨年の利用件数が200万件を突破したドコモ・バイクシェアと直接競合することになる。Mobike(モバイク、本社:北京)も、日本で2つの地域に参入している。
博報堂生活綜研(上海)の上級研究員、包旭氏によると、中国の自転車シェアリング市場は既に好況に沸いている。事業者は25以上を数え、利用者は約3000万に上るという。また、アイリサーチによると、今年第2四半期の収益は約39億元(4億9900万米ドル)で、第1四半期の4倍にあたる。アリババが出資するオッフォはシェア52%、テンセントが出資するモバイクはシェア41%と、2社で市場を独占。いずれもシンガポールでもサービスを提供しており、地元のoBike(オーバイク)としのぎを削っている。
こういった事業者の名前を聞いて、区別がつかないのも無理はない。今のところ、違いはほとんど無いからだ。「皆かなり似通っていますね」と話すのは、電通イージス・ネットワークのリージョナル・チーフ・イノベーション・オフィサー、アーヴィンド・セスマダバン氏だ。モバイクとオーバイクは、カラースキーム(色彩計画)さえよく似ている。興ってまだ間もない産業だが、事業者が増え、それぞれがブランディングをもっと真剣に考える時期に来ているという。
自らも自転車シェアリングを利用するR/GAのリージョナル・プランニング・ディレクター、クリスター・エリクソン氏は「マーケティングの内容は今のところ、どれも説明的なもので、会員獲得や販促中心になっている」と話す。これは、レオナルド・ディカプリオが利用していることで有名になった米国のCiti Bike(シティバイク)が、スポーツやエンターテインメントの大きなイベントに協賛しているのとは対照的だ。
しかしエリクソン氏によれば、中国国外でのアプローチ方法や企業姿勢が最も「国際的」なのはオッフォだという。同社は現在、日本でマーケティングディレクターを募集中だ。ソフトバンクのグループ会社が出資しているため、オッフォ社が単独で事業を開始する場合よりも、はるかに信頼感を与えている。利便性を前面に打ち出すオッフォは、登録が煩雑なドコモ・バイクシェアと競合していけるはずだ。またオッフォは決まった駐輪場(サイクルポート)を持たないことも、ドコモ・バイクシェアと大きく異なる点だ。
サイクルポートを持たないことは一長一短だ。「ブランディングにおいては駐輪場がある方が効果的」と博報堂シンガポールのプランナー、ジョアン・ホー氏は言う。また、サイクルポートが無ければ利用者の自由度は増すが、シンガポールや中国では自転車があちこちに(そして時には大量に)捨て置かれ、景観を壊しているとの不満がくすぶり、悪い印象を与えている。
ユーザーのマナー頼みのところがあるこのような問題は、解決が簡単ではなく、啓発活動を要することも多いだろう。だが企業側で簡単にコントロールできる部分も多い。利便性に優れたスマートフォンのアプリや、サービスへの信頼性は、不満な気持ちにさせないための必要最小限な「衛生要因」だ。
「一度使って面倒と感じたサービスを、ユーザーが再び使う可能性は低い」とセスマダバン氏は指摘。自転車シェアリングが、たまに余暇で利用するものとしてではなく、毎日のツールとして(例えば打ち合わせ先に行くときの交通手段として)認知されるためには、自転車がいつでもすぐに使える状態になければならない。ホー氏も「通勤手段として電車やバスから自転車に乗り換えてもらえるかどうかにかかっている」とし、シンガポールの事業者が行っているように、時には無料サービスを提供することも、人々にアプリのダウンロードと利用を促すのに有効だと話す。
自転車そのものについても、考慮すべきことがある。ドコモ・バイクシェアのサービスが多くの人に魅力的に映るのは、電動アシスト付き自転車が使用されているからだ。「中国でも各事業者が、電動アシスト付き自転車の導入を急いでいる」と包氏。モバイクはさらに一歩先を行っており、太陽光パネル付きのかごを自転車に取り付けて、使い勝手を向上させている。
ブランドへの親近感を高めるのに、著名人の名前に頼る必要はない。自転車シェアリング事業は「人々の日々の暮らしの一部になる手立てを見つけることが大事」だとエリクソン氏は言う。それには、ユーザーが共感できる魅力的なストーリーを伝えることが必要だろう。だがまずは、事業の大きな意義を伝えることから始めねばならない。「事業者のほとんどが何をモットーとし、なぜこの事業に取り組むかを明確にしていません。確固たる存在になるには、都市のモビリティーについての広い展望を持ち、それを実現させるにはユーザーや都市に対してどんなサービスを提供したいと考えているかが重要になるでしょう」(エリクソン氏)
自転車シェアリングに、UberやAirbnbといった他のシェアリングエコノミー企業に匹敵する大きな意義があるとは言えない。だが「公害を減らし、健康的なライフスタイルをサポートするという大きな魅力を打ち出すことは非常に効果的」とセスマダバン氏。それを既に始めているのがドコモ・バイクシェアだ。 6月にスタートした「BE FREE Tokyo」プロジェクトでは試乗会を開催したり、自転車シェアリングの可能性についてオンラインで紹介している。環境にやさしくて健康にも良く(使用するのは電動アシスト付き自転車ではあるが)、住民と観光客の双方が「もっと自由になれる」と訴求しているのだ。
この分野を楽観視する各事業者は、自国の市場で自分たちの方向性を確立するよりも前に、サービスを国際的に拡大させている。いったん便利だと思ったユーザーは、容易には別サービスに乗り換えないため、それもうなずける。またエリクソン氏は、国レベルではもちろん各都市でも規制が異なり、これらが整理されるには時間を要することにも言及する。
エリクソン氏は、オッフォやモバイクなどの事業が日本のような市場で成功する可能性はあると考えているが、鍵となるのは適切なブランディングや、スケールメリットになるだろうと話す。つまりシェアされる自転車が多くなればなるほど、サービスはより簡便なものになっていく。強力な財政支援があれば、外国の事業者が日本の競合相手を打ち負かすことも可能だが、現時点ではどのプレーヤーにとっても同じ条件といえよう。
(文:デイビッド・ブレッケン 編集:田崎亮子)