あのブランドの動画はなぜ人気が出たのか……。ときにその理由が分かりにくいこともある。2016年の下半期に人気を集めたYouTubeコンテンツについて、グーグルのYouTubeプロダクトマーケティングマネージャー、中村全信氏に聞いた。
はじめに、YouTubeの動画広告ランキング「Japan YouTube Ads Leaderboard」で2016年下半期のトップ10に入った、ブランドの動画を紹介する。このランキングは、動画の人気(自然に発生した再生回数)と、プロモーション(広告から発生した再生回数)に基づいている。バーチャルシンガー「初音ミク」をフィーチャーし予想を上回る人気を博した動画から、セレクトショップ「ビームス(Beams)」の洗練された「Tokyo Culture Story」まで、かなりの幅広さだ。
1. ラックス 公式 / LUX Official Japan
ラックス ストレート&ビューティー まっすぐ生きる
Creative Agency: アサツーディ・ケイ
2. AbemaTV公式 YouTube
PPAP ピコ太郎 初CM|AbemaTV 1,000万ダウンロード突破記念 ピコ太郎篇 30秒
Creative Agency: サイバーエージェント宣伝本部
3. サントリー公式チャンネル (SUNTORY)
ペプシストロング5.0GV『桃太郎「Episode.4」』篇 120秒 小栗旬 ジュード・ロウ サントリー CM
Creative Agency: TUGBOAT
4. toyotajpchannel
【WOW】イチローが嫌いだ篇
Creative Agency: 電通
5. スクウェア・エニックス
FINAL FANTASY XV TGS2016 トレーラー/ファイナルファンタジー15
Creative Agency: スクウェア・エニックス
6. はじめしゃちょー(hajime)
サウナルームで地獄の生き残りバトル【水.vs.ICEBOX】
*森永製菓の提供動画広告
Creative Agency: 京王エージェンシー
7. PlayStation Japan
RYO-Z&PES (RIP SLYME) + tofubeats |新デザイン! 新価格! PS4® LINEUP
Creative Agency: 博報堂
8. Glico Japan グリコ公式
アーモンドピーク クリエイターズ・ファイル 告知ムービー
Creative Agency: 電通
9. PlayStation Japan
「PS4®が新価格」:新型「PS4」×『ペルソナ5』動画
Creative Agency: 博報堂
10. BEAMSBROADCAST
TOKYO CULTURE STORY|今夜はブギー・バック(smooth rap) in 40 YEARS OF TOKYO FASHION & MUSIC|presented by BEAMS
Creative Agency: SIX Inc.
これらの動画が上位に入った背景
中村氏によると、重要なカギは「意外性」だという。1位になった「ラックス ストレート&ビューティー まっすぐ生きる」が注目されたのは、初音ミクのファンが今も多くいるからだけではない。ほとんどのヘアケア製品の広告が似たり寄ったりの中で、違いが際立つ彼女を登場させたからだ。そのため視聴者が興味を持ち、この動画を最後まで見たいという気持ちになったのだと同氏は分析する。上位に入った他の動画にも、そのとき流行っているキャラクターや話題との関連性があること、ドラマ的な要素を含むシリーズの一部であること、テレビCMで見覚えがある内容でありながらもオンライン用に編集されていること、といった特徴が見られる。
中村氏の個人的なお気に入り
一押しは、サントリーのペプシストロング5.0GV『桃太郎「Episode.4」』篇だ。昔話「桃太郎」のユニークな解釈に加え、ジュード・ロウの出演という意外性が動画に特別な魅力を与えており素晴らしいという。また、イチロー選手とパラリンピックを優れた着眼点で重ねたトヨタの動画と、人気のユーチューバー「はじめしゃちょー」を起用した森永製菓「アイスボックス」の動画も高く評価しているという。特に、長い動画は人気が出にくい傾向があるにもかかわらず、6分超の「アイスボックス」の動画が評判となったのは、ターゲットとする視聴者を森永製菓が深く理解していることの表れだと中村氏は話す。
流行の寿命
一世を風靡したピコ太郎の「PPAP」の良さは、いくらでも替え歌が作れるという点にあるという。現在PPAPを起用しているブランドは10社ある。このような流行の寿命は長くて6カ月ほどで、その後は消費者に飽きられていく。最終的に人々の記憶に残るブランドがどれだけあるのか、大いに議論の余地があるだろう。
トップ10の動画から見た、日本の動画広告の方向性
動画コンテンツの長さは2分30秒くらいが好まれているが、モバイル機器での視聴が増えたことを背景に、今年は短い動画の人気が高まると中村氏は予測している。グーグルは昨年、6秒間の動画広告フォーマット「バンパー広告」を導入した。課題はあるものの、既に「NURO」や「ウィダーinゼリー」などのブランドが利用しており、視聴回数を伸ばしている。このような短時間のフォーマットでは、内容を極限までそぎ落とし、キーとなるメッセージを想像力豊かに表現しなければならない、と中村氏。プロダクトを何度も映し出すような、従来型のメディアで一般的に行われている手法では面白みがなく、通用しない。
しかし、短いコンテンツの増加は、必ずしも長い動画の終焉を意味するものではない。「何を目指すのか次第です。広告主がリーチや認知度の向上を求めているのであれば、短い動画広告が良いでしょう。一方で、じっくり考えてほしいときや、ブランドへの愛着を深めたり、購入を検討してもらいたいときは、広告主は長めの動画を作る傾向があります」(中村氏)。また、テレビCMを制作する際には、動画への応用も考慮に入れた方がよいと勧める。テレビ以外のフォーマットも視野に入れて制作すれば、オンラインで視聴者が興味を持ちそうなコンテンツに編集して再利用できるからだ。
動画で起こしがちな間違い
「同じ人でも、視聴しているのがスポーツなのか料理なのかで、異なる考え方をする可能性があるため、視聴者の意識に合うようにメッセージを調整する必要があります」と中村氏。「日本では、広告主がリーチだけを求めることが多く、リーチこそが最も重要な効果の物差しだと思われています。しかし、そうではなく、マーケティング上の目標を達成しなければなりません。それはリーチを広げることにとどまらず、視聴者に影響を及ぼし、商品の購入やブランドメッセージの共有を加速させることをも意味します。広告会社はリーチを広げる方法を話題にしたがりますが、広告のインパクトも報告しなければならないと思います」
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)