ユーチューブがAPACで事業を開始してから、15年が経つ。当初は友人の動画を見るのに利用される程度だった地味なプラットフォームは、今や全世界で毎月20億人がログインする一大グローバル企業へと大躍進を遂げた。
ユーチューブの大市場は多くがAPACだ。例えば、フィリピンとベトナムにおける18歳以上の月間視聴者数は9000万人。人口規模が小さいシンガポールでも毎月400万人の成人が視聴する。
今月から12月にかけて、同社はAPAC数カ国で「ブランドキャスト(Brandcast)」と称するイベントを開催。広告主やエージェンシーがクリエイターと協働し、最新のトレンドや人気ブランドにスポットを当てる企画だ。
Campaign Asia-Pacificはユーチューブ広告担当ヴァイスプレジデント、デビー・ワインスタイン氏に単独インタビュー。APACの広告主が重視するメッセージやCTV、eコマース、「ユーチューブショーツ(Shorts、ショート動画サービス)」の広告、そして投資利益率(ROI)などについて尋ねた。
ユーチューブショーツについて詳しくお聞かせください。広告主はどうすれば効果的に利用できますか?
ショーツは1年半前、初めてインドで立ち上げました。以来、世界各国で大きな成功を収め、今では月間アクティブユーザーが15億人、1日の視聴回数は300億回に達しています。中でもインドとインドネシアでの人気は際立っています。
効果的な利用法のカギは、マルチフォーマットでしょう。弊社は先頃、「動画アクションキャンペーン」と「アプリキャンペーン」で広告配信を可能にした。また、バーティカル(縦型)動画も積極的に運用しています。ユーチューブには視聴者が動画のフォーマットを再設定できるオートメーションツールもある。自分で制作したショート動画も、もちろんアップロードできます。
こうしたシステムは大きな成果を上げています。特にバーティカルのショート動画は、非常に安い費用でコンバージョンを著しく向上できる。ユーチューブショーツでは1ドル当たりのコンバージョン率が、ランドスケープモード(横長)動画より10〜20%上昇します。我々は、広告主が弊社のあらゆるフォーマットを使って目標を達成できるよう注力しています。広告主がユーチューブショーツのエコシステムをどう利用したいのかじっくり見極めつつ、今はマルチフォーマットであらゆるプラットフォームを活用するようお勧めしています。
ユーチューブショーツは広告収入の45%をクリエイターに分配するのですか?
その通りです。ひと月ほど前(9月20日)にそれを公表したのですが、弊社にとっても大ニュースでした。ユーチューブの大きな差別化要因の1つは、クリエイターがプラットフォームに深く関わり、自分でオーディエンスを見つけられること。そして、自分の好きなことで生計を立てられることにあります。
収益をシェアするスタイルは、インストリーム広告とは若干異なります。ユーチューブショーツは動画に挿入されるのではなく、フィードで再生される。ですから基本的に視聴回数から生じる収益がプールされ、配分されるかたちです。
CTVの重要性はAPACで高いのでしょうか?
CTVはアジアで大きなブームになっています。APACの弊社スタッフとミーティングをすると、広告主が一番興味を持っている媒体としていつもCTVが話題に出る。広告市場全体でも成長著しい分野の1つで、誰もが高い関心を持っています。
ユーチューブにとってもこの数年間、成長の大きな原動力でした。CTVの普及で人々の視聴時間もコンテンツの長さも伸びている。実際、今ではユーザーが見るコンテンツの65%が21分以上の長さのものです。
CTVで正確な効果測定をするために、どのようなことをしていますか?
この分野のイノベーションはとてもエキサイティングです。今年はCTVで広告を一緒に見ている人(共同視聴者)の数を測定できる機能を導入しました。特定のコンテンツで数えるのではなく、キャンペーン全体で数値を捉えます。今はAPACを含めた多くの市場でこれを活用しています。共同視聴者数の測定には、サードパーティのパートナーが絶対的に必要。サードパーティと協働することが視聴率の信頼性につながるからです。これは、テレビが何十年も行ってきた手法です。
残念ながら、現在のデジタルオーディエンスを測定する技術では共同視聴者数がわかりません。我々は数多くのサードパーティとこの課題を積極的に話し合っています。広告主からは、ファーストパーティデータを検証するサードパーティの確保は最優先課題、と常にプレッシャーを受けています。今の段階では、グーグルのテクノロジーを活用したファーストパーティデータとして共同視聴者数を提供しています。
ブランドは従来型テレビよりもユーチューブを広告媒体に選ぶようになったのでしょうか? また、ユーチューブはテレビ広告に注力するブランドにもアプローチしていますか?
我々の目標は、クライアントがオーディエンスにリーチした時、いかに強いインパクトを与えられるかということです。マーケターには弊社が安全性の確保にいかに注力し、他社よりも大きな成果を上げられるかを説いています。
中でも注力するのは、キャンペーンを一度流すごとに得られる効果をクライアントが把握できるようにすること。私もクライアントと、ROIの「6つの成長要因」といったテーマをじっくり話し合います。現在の世界経済の不透明性を考慮すれば、ROIの重要性はぐっと増したと思います。
今は誰もがROIを気にかけ、どうすれば支出したお金で最大限の効果が得られるかを知りたい。ある人々にとっては、前例のない斬新な手法を試す時期ではないでしょう。新しくイノベーティブで、オーディエンスに注目されるキャンペーンにしたいが、最優先すべきは有効性 −− これがクライアントの考え方です。従って我々もオーディエンスインサイトを抽出できるマーケティングミックスデータ(MMMデータ)を多用し、ROIの成長要因を特定するメタ分析(分析の分析)に多くの時間を費やしています。
広告主の業績目標をサポートする上で、eコマースには注力していますか?
eコマースは弊社にとって重要な分野です。消費者が欲しい製品をリサーチし、見つけ出すためにしばしばユーチューブを訪れることは十分承知しています。私がユーチューブを利用し始めた頃に見たのも、髪型をキメやすいヘアドライヤーの紹介動画でした。ユーチューブオーディエンスの典型例ですね。情報を集め、自分にあった製品を見つけるために利用を始めるのがごく一般的です。
こうした消費者行動はとても大きな意味を持つ。弊社のパートナーやクライアントも、どうすればこのエコシステムに関与できるか常に知りたがっています。そこで弊社は先頃、商品フィードを導入しました。これはグーグルで展開されている広告にショッピング機能を併設したものです。商品フィードはユーチューブ上のサービスとますます一体化している。弊社の動画アクションキャンペーンやディスカバリーキャンペーンに導入し、今後数カ月でさらに増やす予定です。それゆえ、eコマースは非常に重要な分野になっている。「認知」「検討」「購入」といったマーケティングファネルの各段階でクライアントが実績を上げられるよう、サポートを続けていきます。
正確な効果測定やROIとともに、ブランドセーフティもマーケターにとっては重要な要素です。強化策は講じていますか?
「責任」はユーチューブの全てのチームにとって最優先課題です。ユーザーや広告主、クリエイターにとってユーチューブが最も安全なメディアであることを明確に理解してもらわねばならない。弊社は現時点でそれを実証できる技術力を持っています。
我々はその責任を「4つのR(responsibility)」と称しています。 1)コミュニティのガイドラインに違反するコンテンツを除去する 2)ガイドラインをギリギリで満たすコンテンツの露出を減らす 3)コロナや選挙といった多くの人々が関心を寄せるテーマは、当局者の意見を反映させて正確な事実を伝える 4)クリエイターには高い制約を設け、それをクリアするまで収益の分配を制限する −− こうした厳格なプロセスとフレームワークを設けていますが、正直に申し上げれば、初の試みです。インターネットの世界は常に変化するので、注意を怠ってはならない。そして、トラブルを引き起こす人々の常に先を行っていなければならない。エコシステムの全領域で、我々が全うしなければならない責務です。
今後、ユーチューブにとってAPACの重要性は増していきますか? 広告売上の観点からもお聞かせください。
ユーチューブは世界の消費者にとってもはや不可欠で、特にAPACではそうでしょう。その要因は、クリエイターの存在。我々にとってクリエイターは血液のようなものです。彼らがクリエイティビティーを遺憾なく発揮できるよう、我々はユーチューブショーツなどマルチフォーマットに出資しています。そうしたプロセスを歩みながら、企業が目標を達成し、成果を上げる機会を創出することが私の使命だと考えています。
(文:マシュー・キーガン 翻訳・編集:水野龍哉)