David Blecken
2018年5月16日

電通vs博報堂、CEOの対話:アドバタイジングウィーク・アジア2018

歴史的とも言える両者のセッション。いくつかの重要テーマには触れなかったが、日本で最も影響力がある両社トップの意気が垣間見えた。

電通vs博報堂、CEOの対話:アドバタイジングウィーク・アジア2018

今年のアドバタイジングウィーク・アジアが14日月曜、東京・六本木でスタートした。幕開けを飾ったのは、広告業界史上初めてという電通、博報堂トップによる画期的なトークセッション。イベントのエグゼクティブプロデューサーである笠松良彦氏が司会を務め、山本敏博・電通代表取締役社長と水島正幸・博報堂代表取締役社長が広告界に入ったきっかけやその将来、仕事に対する信条などを語った。

両氏とも、これまでの歩みは日本企業の伝統を「踏襲」。大学卒業後に入社すると、ずっと同じ組織でキャリアを積んだ。山本氏が電通に入社したのは1981年、水島氏の博報堂入社は1982年。笠松氏は両社に在籍した経験を持つ。

また両氏ともに、当初は広告の仕事への情熱は持っていなかったという。水島氏がこの業界に惹かれたのは、「特に専門的知識が必要なさそう」で、「人間に興味があった」から。山本氏は「いい加減な就職活動」をし、博報堂の入社試験に失敗。あまり考えていなかった電通社員になった。

水島氏は山本氏にエールを送るかのごとく、入社当時の電通の企業メッセージである「他人の3歩先を行く」という言葉が強く印象に残っている、と言及。その一方で、博報堂のメッセージは「覚えていません」。それでもひと度入社すると、「ハードワークが求められる職に就いた」という実感を持ったという。

このセッションでは、両社にとっても近年の国内広告界にとっても最重要課題の1つである、働き方改革や労働文化といったテーマには触れなかった。代わりに笠松氏は、広告の定義とは何かと両氏に質問。山本氏は「対象物の価値を上げる、あるいは少なくともそれを解き放つこと」と語り、水島氏も同意しつつ「商品と生活者をつなげていく要素がより強い」と述べた。

そして、今後の広告はどのようになるかというテーマに。水島氏は「これまでも広告は大きく変わってきた」と発言。「90年代はブランディングの時代だった。今でも広告界の経験豊かなエグゼクティブたちの多くは、『業界では誰もブランディングを理解していない』と嘆きます。それを思えば、注目に値する概念でした」。

「広告はこれからもどんどん変わっていくし、それを受容せねばならない。消費者ももはや普通のキャンペーンは望んでいません。業界はもっと面白いものを提供できるよう、ステップアップしなければならない」と水島氏。新たなコミュニケーションチャンネルも出現し、「より多様な広告が生まれるだろう」とも。

山本氏の考えは更に能動的だ。広告代理店は社会の変化に対応しなければならないが、「流れに乗っていくだけではなく、変革のイニシアティブを取らねばならない」。「これまで長年培ってきた知識を活用し、より質が高く、効果的で、より美しく、力強いものを作っていかなければならない。社会によって変わるだけではなく、変革のリーダーシップを発揮しなければならないのです」。

更に広告業界には、「現在の事業が社会に貢献しているかどうか自問する義務がある」とも。「ひと度そのレベルにたどり着けば、業界が正しい方向に進んでいるという自覚を持てる」。

水島氏は、デジタルトランスフォーメーションや企業の構造改革といった最中にいるからこそ、「クリエイティビティーを重視することが大切」と説く。「クリエイティビティーを育むことで、社会に貢献したい」。

プロの広告人は変革にどう対処するべきかという問いに対しては、「広告やコミュニケーションを超越した視点を持ち、仕事の領域を拡充していくべき。何事にも好奇心を持つことが大切です。広告会社は好きなことがやれるのですから」(水島氏)。

「境界線が曖昧になってきており、かつての成功体験は将来の成功を導くとは限らない。だから思い切ってそれらを捨て去るべきです」(山本氏)

笠松氏はセッションの最後に、どのようなルールを己に課しているかを両氏に尋ねた。山本氏は「自分はまだ大人になっていないと考えているので、常に変わり続けるつもりでいる」。水島氏は「常に新しいものを試すことが好き」で、「自分で直接経験する」ことの重要性を挙げた。

「担当する企業のプロダクトは、いつも私が最初に試していました。もし車メーカーがクライアントであれば、そのメーカーの車を試乗する。スマートスピーカーやIoTもそう。最初に買うのはいつも私で、他人に自慢します」と水島氏。更に、「人生のどんな時期でも人と交流することが極めて重要」と付け加えた。

「年を取ると出不精になりますが、外へ出て楽しむことを自分に強要しています。自由な時間はあまりないですが、そうすることが大切ですから」。

Campaignの視点: 
2人のトップを一緒に登壇させたのは、アドバタイジングウィークの功績と言えるだろう。日本で最も影響力を持つ企業を率いる2人を駆り立てる力とは何か、(わずかながら)垣間見えたのは興味深かった。それでもやはり、透明性の確保やテクノロジー企業への対応策といった課題同様、働き方改革や人材の多様性といった企業文化についても語って欲しかった。また、山本・水島両氏が互いに直接質問をぶつけ合い、議論しても良かったのではないか。逆に、両氏がそうしなかったことは若干の驚きでもある。どちらも広告業界がどう変わるべきか、また成長のための最大のチャンスは何かということについて明確なビジョンを示さなかったが、「広告ビジネスは進化しなければならない」と考えていることは明るいニュースだ。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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