Byravee Iyer
2016年8月09日

アジアの企業が傾聴すべき、「リベート」への対処法

全米広告主協会(ANA)が以前提供した、広告代理店などとの契約書のひな形。これを基に契約を結んだ企業は、速やかに新しい契約書を作成して更新すべき ― 業界筋からは最近こうした声が上がっている。

アジアの企業が傾聴すべき、「リベート」への対処法

全米広告主協会(The US Association of National Advertisers、以下ANA)は、先ごろメディアの透明性に関する新しいガイドラインを発表したが、「非常に重要な提言で、世界の他の地域同様、アジア・太平洋地域のマーケターや広告代理店にとって大変参考になる」とは、何人もの業界関係者の弁だ。

このガイドラインのカギとなっているのは、メディアと広告代理店との間でのリベート(払い戻し)を禁じる契約書のひな形。ANAはこれをマーケターに使用するよう奨め、その上でメディア戦略や代理店とのパートナーシップ、その他の外部業者とのやり取りを管轄するチーフ・メディア・オフィサー(CMO)を社内に置くことを強く推奨している。

R3でプリンシパルを務めるグレッグ・ポール氏は、「ANAは米国の大手法律事務所と共同で、この契約書の草稿を完成させた。素晴らしい仕事をしたと言っていい」と述べる。「すべてのマーケターが、今すぐこのひな形と自社の契約書を照らし合わせてみるべきです」。

マーケティング・コンサルタント会社Trinity P3の創業者兼CEOであるダレン・ウーリー氏は、「代理店が絡むリベートの慣行は世界的なもので、すべての市場に共通する問題」と言う。「その手始めの対処法として、ANAの試みは効果的。多くの広告主が代理店と結んでいる現在の契約書はあまりにも時代遅れか、ないに等しいような内容ですから」。

このガイドラインは「メディアの透明性 ― 広告主にとっての対処法と、守らなければならない原則、及びプロセス」と題され、ANAがマーケティング分析会社Ebiquityと共同で作成した新しい報告書の一部。報告書は今年6月、ANAが米国でメディアへのリベートに関する調査結果を公開した直後に発表された。

ウーリー氏によれば、メディアへのリベートは特に新興国市場で活発な傾向にあるが、「その浸透度は市場によって異なる」。例えばシンガポールのように政府の監視体制が強い市場では、不透明な取引慣行も少ない。

またポール氏によれば、アジア太平洋地域の広告代理店とメディア関連の下請会社は利益を生むため大きな圧力に曝されており、「リベートや値引き競争がエスカレートしやすい」。
ポール氏は、広告主が契約内容を今すぐ見直すよう促す。「契約書に文言がなければ、マーケターはこうした問題から自らを守る法的根拠を全くもっていないことになります」。

リベートが完全になくなることはないとしつつも、広告代理店が説明責任と法的義務をきちんと果たしているか確認するには、「第三者による現地での財務監査が欠かせない」と同氏。「100万ドルや500万ドル、時には1,000万ドルという巨額のお金を支払っておきながら、それがどのように投資されたか第三者によるチェックが行われないのは、どう考えてもおかしい」。
「結局、最も需要な土台となるのは契約書です。明確で十分な説明に基づいた契約が交わされていなければ、お互いが相手に対して責任がない状態になってしまう」

リベートに関し、ニュース報道やインターネット上のコメントでは広告代理店に矛先が向けられているが、全体の流れを見れば当然ながらメディア・オーナーたちの責任も浮かび上がる。「広告主の支出の中で自社のシェアを上げるため、リベートを奨励するメディア・オーナーまでいる」とウーリー氏。
東南アジアのテレビ局Rewind NetworksのCEOであるアヴィ・ヒマツィンガーニ氏は、「双方にとってウィンウィンの関係であってこそ、あらゆるパートナーシップは成功する」と語る。

FOXのエクゼクティブも歴任したヒマツィンガーニ氏は、「クライアントは最善の取引を求めるべきですが、業績を上げた際には公正な見返りを準備するべき」と言う。「広告代理店がクライアントに最高の価値を提供するには、金銭的な目標をもち、最高の人材を惹きつける必要があるからです」。

「利益の低い新規事業を受けてしまった広告代理店は、結局他の収入源を探さなければならない。クライアントとの関係が負担となり、抜本的な解決を迫られることになってしまうのは悪循環です」
「クライアント側で(透明性を)監視する役割のスタッフを雇っても、こうした事態が変わるとは思いません。もちろん、規範やガイドラインはよいことです。しかしそれらは不当な取引慣行が生じる余地のない、強固なビジネス上の取り決めが基盤になっていなければなりません」

本記事を執筆するに当たり、Campaign Asia-Pacificでは複数の広告代理店やメディア・オーナー、コンサルタント会社などに取材を依頼したが、そのいくつかからは返答を得られなかった。

(文:バイラビー・イヤ 翻訳:高野みどり  編集:水野龍哉)

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