Shawn Lim
2024年7月10日

エージェンシーが生成AIに巨額の投資、その成果は?

エージェンシー・レポートカード2023を分析したところ、アジア太平洋地域のエージェンシーが最優先事項ととらえていたのは生成AIとCookieレス・ソリューションだった。調査結果からイノベーションの進捗を把握し、まだ不足している点を示す。

エージェンシーが生成AIに巨額の投資、その成果は?

* 自動翻訳した記事に、編集を加えています。

2023年は、エージェンシーが生成AIを戦略に採り入れ始めた年だった。このテーマが広く浸透していたことは、Campaignエージェンシー・レポートカード2023(以下「ARC2023」)のイノベーションの項目を見れば明らかだ。ピュブリシス(Publicis)、オグルヴィ(Ogilvy)、OMDなどのエージェンシーは、コンテンツ制作、戦略立案、クライアントエンゲージメントにおけるAIの可能性をいち早く模索し始めた。

サードパーティCookieの廃止が間近に迫っていることも、ハヴァス(Havas)やPHDなどでデータ管理や測定ツールの大幅なイノベーションを促進した。

一方で、ワイデン+ケネディ(Wieden+Kennedy)、イニシアティブ(Initiative)、マッキャン(McCann)などは人間を主体として企業文化を統合する、異なるアプローチをとった。

各エージェンシーに共通する傾向は、アマゾン(Amazon)、グーグル(Google)、マイクロソフト(Microsoft)といったテック大手と提携し、AIを活用していることだ。しかし、エージェンシーのAIへの取り組みやパートナーシップがまだクライアントに直接利益をもたらしているとは言えず、AI主導のイノベーションに障壁が無いわけではない。これが、ARC2023でイノベーションのカテゴリーの評価が向上したエージェンシーがわずか9社にとどまった一因となっている。

2023年度の各エージェンシーの、イノベーション面での進捗状況のハイライトを以下にまとめた。

エージェンシーAIをどのように活用したか

ARC 2023でエージェンシーは、メディアの効率化、クリエイティブなアイデア、インサイトの発見のためにAIを使用したと報告している。しかし、コスト削減という大きな問題にはまだ対処していない。

エージェンシーは通常、作業に対する報酬を算出してクライアントに請求している。これらのツールによって時間のかかる手作業が削減されると、スタッフの削減が大幅に進むことは間違いない。

AIの恩恵を受けることで、エージェンシーは広告主と長期的なビジネス目標についてより良い戦略を立てられるというのが理想的だ。しかし、エージェンシーにとっての利益率の低さや、ウォール街での成長ニーズを鑑みると、これらのツールが効率化タスクの初期段階で使用されるのは理解できる。

このようにコストや時間の節約や、メディアパフォーマンスの向上を目的としたAIツールの開発は、WPPやオムニコム メディア グループのエージェンシーで行われている。

例えばWPP傘下のマインドシェア(Mindshare)は、AIを活用した「良い成長(Good Growth)」というシステムが、レスポンシブ検索広告の作成時間を数日から数時間に大幅に短縮し、クリックスルー率を13%以上向上させ、アジア太平洋地域である流通業界のプランニング効率を高めたという。

オムニコム・メディア・グループ(OMG)のOMDでは、生成AIを中心とした未来に備えるため、文化的側面を分析するオムニコムのエンジン「Q」を強化した。特定の分野に関するクエリや文化的なインサイトのための会話型AIや、キャンペーンのアイデア創出を支援するスパークス(Sparks)などが新機能として盛り込まれている。

メディアバイイングがP-MAX(グーグル)、Amazon Q(アマゾン)、Advantage+(メタ)、Blueprint(ヤフー)のようにブラックボックス化したプラットフォームへと移行するにつれ、エージェンシー独自のIPアルゴリズムやプランニングツールの開発が必要なのかという疑問が生じる。エージェンシーが新規案件を獲得し、競争上の優位性を示すための手段にはなるかもしれないが、長期的には、メディアバイイングの意思決定の中核をなすものではない。

マインドシェアに8年近く在籍し、直近では統合コミュニケーションのグローバルディレクターを務めていたナディヤ・オマール氏はCampaignに、AIは業務を合理化して効率を高めることでメディアエージェンシーに大変革をもたらすことができると語った。

同氏によると、AIはデータ検索、レポート作成、クライアント対応などを自動化することで人材をルーティンワークから解放し、より創造的で戦略的な取り組みに集中できるようになるという。これにより、エージェンシーとクライアントの関係性やビジネスモデルは、時間ベースではなく価値ベースへとシフトしていくだろう。

AIはより良いコミュニケーション、プロジェクト管理、コンテンツ制作の実験を促し、応答性の高い効果的なキャンペーンを実現する。

「エージェンシーは既にメディアプランニングとその実装の促進に着手していますが、まだ道のりは長い。クライアントのビジネスのために、より広い視野で戦略的かつ創造的に考えるといった新しい働き方に対応するべく、ほとんどのエージェンシーは従業員の教育とスキルアップを採り入れています」とオマール氏。

「また、ステークホルダーとより良くコミュニケーションをとり協力する方法や、好奇心や批判的思考を育むにはどのような情報が最も役立つか、そしてそれをどのように得るかといった、人間同士の交流もあります」。

本当の意味でのAIか?

エージェンシーはAIを戦略に組み込み始めているが、どのイノベーションが本当の意味でのAIといえるか、そして十分に革新的であるかと問うことが重要だ。

多くのエージェンシーは、既製の動的クリエイティブの最適化やバージョニングといったAIの取り組みが革新的であるとアピールした。しかし、採用されている機能のほとんどは、さまざまなテック企業が何年も前から広く手頃な価格で提供しているものだった。

例えば、電通グループのカラ(Carat)は、AIを活用して台湾のスタンダード・チャータード銀行(Standard Chartered Bank)を支援し、金融規制や広告への制約という課題がある中で新たな需要を開拓。メタ広告と統合された生成AIのツールを開発し、潜在顧客を自動的に予測した。カラによると、この戦略によってメタで獲得したリードが前年比でほぼ2倍となり、リード獲得単価が改善されたという。

カラの例は、AIチャットボットとAI主導の消費者インサイトを活用してペインポイントを減らし、消費者の満足度を向上させるという既存のテクノロジーに似ている。

ウェーブメーカー(Wavemaker)は、2023年に初めて「合成AI」を使用して、ロレアル(L’Oreal)とガルニエ(Garnier)のコンテンツを現地の方言にカスタマイズし、優れたクリックスルー率を達成したという。

ウェーブメーカーの元APAC担当CEO兼プレジデントのゴードン・ドムリジャ氏は、エージェンシーが地域全体でAIプランニングツールを導入することでビジネスに革命を起こすという主張に懐疑的だ。WPPに15年間在籍し、現在はリモーティブ・メディア(Re:Motive Media)の創業者兼マネージング・パートナーである同氏は、エージェンシーは小規模な市場で一つのキャンペーンのクリックスルー率がわずかに向上したということを、証拠として挙げることが多いと指摘する。

「エージェンシー(そして私たち全員)は、一度はこのような罪を犯したことがあるはず。"leased"(借り受けた)や "badged"(認定された)という言葉の方が正確な場合に、気軽に "built"(構築した)や "developed"(開発した)といった言葉を使ってしまうのです」とCampaignに語った

「現実には、デジタルバイイングのツールやケイパビリティーすら持たず、ツールや技術、データ、専門知識を備えたテクノロジー企業に、クライアントのメディアバイイングを外注するエージェンシーもある。ほとんどの場合、それは悪いことではありません。しかし、プレスリリースや賞のエントリーに書かれていることをすべて額面通りに受け取ることはできないのです」。

さらに、エージェンシーのビジネスは広告在庫の販売が中心であり、テクノロジーに焦点を当てることではないと指摘する。

しかし同氏は、生成AIの時代において、エージェンシーはクライアントとの関係性を維持しなければならないと言う。その結果、エージェンシーは投資とイノベーションを主張し続けるだろうが、テクノロジーとイノベーションを中核とする企業にアウトソーシングすることが多い。

例えば、マイクロソフト、アマゾン、エヌビディア(Nvidia)といったテック大手はAIの競争をリードし、アジア太平洋地域で画期的な功績を上げている。

「大きな投資額は、PRの側面では印象的に見えます。しかし、3年間で3億米ドルをAIに投資するエージェンシーがあったとして、その何倍もの金額を毎年AIに投じているテック企業に対し、一体何を開発するというのか。グーグルの投資額は1000億ドル、メタは580億ドル、マイクロソフトは130億ドル、TikTokはマレーシアだけで20億ドルです」と同氏は疑問を投げかける。

「企業やブランドは、どのような技術に注力していくのでしょうか?」

Cookieレス・ソリューション

ARC2023ではAI以外にも、グーグルが2024年にCookieを段階的に廃止することを踏まえ、ハヴァス・メディア(Havas Media)、OMD、PHDなどメディアエージェンシーが、クライアントのCookieへの依存度を下げる取り組みを積極的に講じたことが分かった。

これらの取り組みは、広告の効果を維持し、プライバシー規制を遵守するための、新しい技術と戦略を統合することに重点を置いている。

ハヴァス・メディアは、クライアントの約65%の脱Cookieを達成し、3分の1はまだ移行中だ。OMDは、豪州のアップル(Apple)やマクドナルド(McDonald's)などトップクライアントの80%のCookieレスを達成している。

グーグルはCookie廃止をさらに延期すると発表したが、エージェンシーが未だにCookieを使用していることは憂慮すべきだ。ブランドは、差し迫ったサードパーティCookie廃止に対し、まだ十分な準備ができていない。

WARCによると、この移行への備えができていると感じているマーケターはわずか51%だ。マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)、アトリビューション、実験を組み合わせ、マーケティング活動を包括的に測定しているマーケターはわずか2%だった。

誰が彼らを責められようか? 少なくとも25の代替手段が登場しているものの、サードパーティCookieの機能を完全に再現しているものはない。これらの新しいシステムの複雑さは、エラー発生や予算が無駄になるリスクをもたらす。そしてデジタルマーケティングへの投資が効果的かつ測定可能な状態を維持するには、体系的な計画が必要であることを浮き彫りにしている。

ARC2024の評価の際には、エージェンシーがコンテキスト広告、IDソリューション、ファーストパーティデータ、グーグルのプライバシーサンドボックスの革新を継続できているか注目したい。

評価のハイライト

AKQAはEcoFlow House(日本)やオープン・メタン・プロジェクト(豪州)など、印象的なプロジェクトに取り組んだ。それでも、2023年の作品群は前年には及ばず、評価をB(とても良い)からB-(良い)に落とした。例えば同社は2022年に、7人からなるアジア太平洋地域のイノベーションチームがサンパウロのスタジオと協力し、主にコンテンツ制作技術における人種偏見の軽減に焦点を当て、社会的な問題に取り組んだ。WPPの人種平等助成金プログラムから資金提供を受けた彼らの努力によって、AKQAは期待以上の成果を上げることができた。

チェイル・ワールドワイド(Cheil Worldwide)は、AIとWeb3ソリューションに積極的にアプローチし、評価はB-(良い)からB(とても良い)に上がった。同社は韓国のテック大手と協力し、グーグルやマイクロソフトに対抗する独自の超巨大言語モデルを開発した。韓国語の複雑さや、高い運用コスト、コンテンツ制作、コンプライアンスの問題といった課題があったにもかかわらず、韓国語のAIソリューションを推進する積極的な取り組みは称賛に値するが、具体的な詳細については依然公開されていない。
 

 

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