社名:博報堂
社長:水島正幸
持株会社:博報堂DYホールディングス
2017年の評価:C+
2018年の評価:C+
博報堂の自己評価:
自己評価はせず、代わりに以下のコメントを出した。
「2018年、当社は広告にとどまらない広範かつ最適なソリューションやサービスを顧客に提供すべく、努力を重ねました。今日、采配を振るうのは企業ではなく『生活者』です。当社は生活者データのマネジメントプラットフォームを立ち上げ、生活者インサイトを基盤にした統合マーケティングのマネジメント力を強化しました。海外に関しては、フィリピンでの事業提携や、中国のプラットフォームプロバイダーとのパートナーシップ強化、マレーシアとインドネシアでは卓越したクリエイティブ力をさらに高めることで広告賞を受賞するなど、それぞれの国での存在感を向上させました。その結果、アジアでの総利益は着実に増加しました」
評価内容の詳細
- 経営/リーダーシップ C
- クリエイティビティー C+
- イノベーション C+
- 新規事業と既存顧客維持 情報未開示
- 人材と多様性 C+
博報堂はこれまでと同様、活動情報をあまり開示しておらず、特に日本においてそれが顕著である。競合相手の電通やADKと異なり、博報堂は広告以外の事業(コンテンツやコンサルティングなど)に投資して事業多角化を目指しているようには見えない。現在置かれているポジションや広告事業の将来が揺るぎのないものと信じているのか、あるいは既にイノベーションの波に乗り遅れてしまったのかと思わざるを得ない。(博報堂から提供された情報についてCampaignは詳しい説明を求めたが、応じてくれなかった)
博報堂は2018年、3つの優先事項があったという。それは、データ主導のマーケティング力の促進、新興市場(特にアジア)での事業構造の強化、そして同地域でのクリエイティブ力の強化である。しかし外から見る同社の姿勢は、リスクを回避しやすい自国市場にしっかり足場を築き、自分のペースで進み、大きな賭けには出たくないというものだ。
データ分野に関しては親会社の博報堂DYホールディングスが、その安全な活用を推進する部門を立ち上げている。博報堂は他社に追随してブロックチェーン構想をスタートし、米国のソフトウェアおよびデータサービス企業「ティーリアム(Tealium)」と共同サービス契約を締結。さらに人々がブランドのペルソナを、視覚的なインタラクションを通してどのように認識しているか検証するため、独自のディープラーニング技術を持つ日本企業「リープマインド(LeapMind)との協働でAIによる分析サービスを開発した。これらの作業がどれほど業績に寄与するかは今年明らかになるだろう。
新興市場については、中国の百度(バイドゥ)と戦略的パートナーシップを締結し、中国市場での新たなプランニングソリューションの開発を目指している。同じく中国で、ネットイース(網易)と広告配信最適化サービスを開始した。企業買収を通じてベトナムおよびミャンマーに足場を築き、フィリピンでも着手した。(以下の項目「2018年の買収と資本参加」を参照)
博報堂は2017年4月にシンガポール人クリエイターのヤン・ヨウ氏を、木村健太郎氏と共にアジア地域担当の共同チーフクリエイティブオフィサーに任命以来、海外でクリエイティブ事業をどのように展開していくのか、詳細を公表していない。だが東南アジア拠点の受賞の様子から、ある程度の進展は確認できる。マレーシア拠点がカンヌライオンズで初受賞し、タイ拠点はスパイクスアジアのグランプリ受賞作品「Obsession for Smoothness」に貢献。スパイクスアジアで博報堂グループは、ヤング・スパイクスのデザインコンペティション部門での金賞を含む24の賞を獲得した。
グループの中で最も興味深い作品は、依然として国内で生まれている。例としては、全国的な問題でもある後継者不足に苦しむ群馬県高崎市の「消滅直前な」飲食店の存続を支える絶メシリストキャンペーン、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の認知度を上げるキャンペーン(継続中)、さけるグミ(UHA味覚糖)の独創的なCMシリーズなどがある。大手クライアント向けの作品での受賞が増えれば、博報堂のクリエイティブに対する評価はさらに上がるだろう。
博報堂が既存顧客とのビジネスをどの程度拡大できたのか、あるいは注目に値する新規案件を獲得できたのかは、情報が開示されないため不明である。
博報堂は、カンヌライオンズやスパイクスアジアの若手クリエイティブ向けコンペティションの場で健闘しているものの、博報堂が社員の能力開発やダイバーシティ(多様性)に多くのリソースを注いでいるようには思えない。日本で特に問題となった働き方改革に関しては、「勤務時間の短縮が着実に進んでいる」と表現するのみで、残念ながら不明瞭といわざるを得ない。一方、TBSテレビと共同で事業所内保育所を設立したことは、エージェンシーの世界では稀有なことであり、前向きな動きである。都内で子育てのための施設が不足する中、これは有意義なことであり、他企業にとっても見習うべき先例となる。
2018年の買収と資本参加
- 2019年は、ミャンマーでも活動するベトナムのエージェンシー「スクエアコミュニケーションズ(Square Communications)」の買収で幕を開けた
- 4月に「アイディアズ・バイ・マッキーナ・アドバタイジング(IdeasXMachina Advertising) )を買収、フィリピンでのクリエイティブ事業の足掛かりとなる
- 9月にフィリピンのマーケティング会社「ビギニングス・コミュニケーションズ(Beginnings Communications)」と、イベント事業会社「イーナブ・ロジスティックス・マネジメントサービス(eNAV Logistics Management Services)」に出資、同国でのプレゼンスを高めた