オーストラリア人は、オーセンティック(真正)で、純粋で、誠実であることを望んでいる。そして、この2年間のパンデミックによって、それを最も重要だと考えるようになった。
これは、WPPオーストラリア・ニュージーランドが毎年公開しているレポート「Secrets and Lies(秘密と嘘)」の最新版「Chapter Six: Fact, Fiction and What’s New in 22(第6章:事実、虚構、2022年の新しいこと)」の中で示された結果だ。WPPは、各国主要クライアントのほとんどと、年間500億ドル(約6兆7400億円)超のグローバルなメディア投資を管理している。WPPはそのユニークな立場を活かして、オーストラリア経済と文化にインパクトを与える、重要な消費者インサイトを得ている。
今回のレポートは、オーストラリアのさまざまな年齢、性別、地域にまたがる2000人を対象にした調査に基づいており、過去5回のレポートの主要テーマとも重ね合わせながら、急速に変化する政治や文化、社会を背景に、オーストラリア人の価値観がどのように変化してきたかを明らかにしている。
ハイライト:感染を恐れて従順に
ルールを破り、年齢に逆らい、ウッドストック(1969年のロックフェス)を愛する50歳以上の世代は、感染を恐れて従順になった。
WPPの2019年の調査では、50歳以上のオーストラリア人の78%が、「中年とは、40歳ではなく、60歳以上のことだ」という意見に同意していた。しかし、パンデミックの期間に死を間近に感じたためか、今年、その割合は61%にまで低下した。パンデミック以前は、自分は生物学的年齢よりずっと若いと感じているオーストラリア人は78%だったが、これも2022年には59%に減少した。2019年には、「最高の年を送っている」と回答した人は61%だったが、現在、その割合は40%にまで減少している。
個人のアイデンティティ
調査結果によると、オーストラリア人は社会的行事を避けるために「悪意のない嘘」をつく傾向があるが、雇用主にはあまり嘘をつかない。そして、ソーシャルメディア上では、2018年よりもはるかに正直になっていることが示された。
2018年には、家族や友人に自分の居場所について嘘をついたことがある人は52%だったが、現在は28%にとどまる。
一方、家族との時間を避けるのに仕事を口実にする人は、ほぼ3人に1人(29%)となり、2018年から9ポイント増加した。なお、どのケースにおいても、ミレニアル世代とZ世代は、X世代、ベビーブーマー、サイレント世代よりも、嘘をつく可能性が高いことがわかっている。
バズワードの乱用
言葉の適用範囲は広く、その力は無限だ。しかし、リーチを最大化するためには、むしろ巧みな言い回しを減らし、よりシンプルにする必要がある。
オーストラリアでは、実に40%もの人が英語以外の言語を話し、家族とも母国語で会話している。おそらくこれが、PR素材に業界用語が用いられていることに不信感を抱く理由だろう。
2021年には、81%の人が、製品やサービスの説明を読んで混乱したことがあると回答しており、ブランドは販売しているものを理解しにくくするために、意図的に流行のバズワードを使っていると考えていた。現在、そのように感じる人は87%近くにまで増加している。
では、こうした調査結果を踏まえ、マーケターはプロモーションをどのように改善できるだろうか。Campaignは、WPPオーストラリア・ニュージーランドのプレジデント、ローズ・ハーセグ氏にインタビューを行い、この調査の重要性とその意義について話を聞いた。
パンデミック後の世界における「Secrets and Lies」の重要性と、マーケターが注目すべき理由を説明していただけますか。
人々は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行と、それにともなう抑圧状況を経験しました。
当社のレポートでわかったのは、人々は魔法を切望しているということです。そしてそれにも関わらず、マーケターは、顧客に特別な感動を与えることの意義を忘れてしまったようだということです。マーケターは、これまでのやり方を疑い、一段ギアを上げる必要があります。当社のクライアントの多くは、消費者はどれくらい魔法を期待しているのだろうかと疑問に思っています。でも、その答えは、「ものすごく」なのです。
消費者は、マーケターに、溢れる想像力とやり過ぎなくらいの覚悟を期待しています。そして、ささやかなファンタジーや驚異、非日常性が、失われたときめきを取り戻してくれるのを待っています。しかし私が思うに、多くのマーケターは、顧客とつながるためには平凡な日常を脱却しなければならないということを忘れてしまったようです。
どうやって魔法を実現するのか、例を挙げていただけますか。
例えば、ある銀行に、私が給与の振込先口座を設けているとしましょう。その銀行のアプリから、「ローズ、おめでとう。今日、給料が入ったよ!」と通知が届き、小さなベルの音がチリンチリンと鳴ったらどうでしょう。給料をもらうたびにハートマークや花が画面いっぱいに表示されたら嬉しいですよね?
オンラインショッピングでドレスや靴を買うとき、アプリにドレスの写真をアップロードしたら、それが私の体型にどれくらい似合っているかVRで見せてくれたら参考になりますよね。靴を買う時も同じです。購入する前に、その靴が自分にどれくらい似合うか確かめたいのです。このように、顧客体験を向上させ、まるで魔法にかかったように思わせるツールや技術は、もうすべて揃っているのに、なぜそうしないのでしょう?
「Secrets and Lies」は今年で第6回になります。この調査結果はWPPのマーケティング戦略にどう活かされ、新規クライアント獲得にどのくらい役立ったのでしょうか?
過去5回のレポートで、非常に多くの新規契約を獲得してきました。守秘義務の関係で社名を明かすことはできませんが、大口のクライアントを複数獲得しています。ヘルスケア業界や通信業界の大クライアント、銀行大手や民間航空会社の獲得など、過去5回の「Secrets and Lies」のレポートのおかげで、当社は多くの新領域を開拓することができました。
レポートの主要な結果の中で、特に驚いたことは何でしょう?
最も衝撃的だったのは、50代以上の年齢層についてです。
当社は数年前、この世代が60歳を「新たな40歳」とみなしていることを知りました。しかしコロナ禍によって、この世代は死をよりリアルに感じるようになりました。2年前とは打って変わって、この世代が、急に弱々しく、臆病になったことに本当に驚いています。ただ、この世代はかなりの資産を持っています。この眠れる巨人を目覚めさせ、揺り起こせば、マーケターにとって大きなチャンスになるでしょう。
WPPの調査によると、彼らは資産だけでなく、つながりを持つブランドに関与するための自由な時間も十分に持っています。マーケティングにおける年齢差別表現は、ビジネスに明らかな悪影響を及ぼしますよね?
その通りです。多くの企業は、若々しさを示したり、若い情熱を表現したりすることで、自分たちを「フレッシュ」に見せることを好みます。それは必ずしも悪いことではありませんが、オーストラリアでは、50歳以上が人口の30%を占めており、個人資産のほぼ半分を保有しています。彼らは裕福で消費意欲も旺盛です。しかし、それにもかかわらず、マーケティング費用の94%は、50歳未満に費やされているのです。
中高年の消費者層は、自分たちの存在が無視されていることに失望しています。すべてのマーケターへのメッセージとして、こう伝えたいと思います。28歳の若者にこだわらないでください。50歳以上の世代に本物の言葉で語りかけてみてください。それはブランドに大きな見返りをもたらすはずです、と。
WPPは、この世代にどのように取り組んでいくのでしょうか?
すでにクライアント20社と面談の機会を持ちました。50歳以上の年齢層とのつながりを回復し、加齢に関する常識を覆して、この世代をもう一度立ち上がらせ、忙しい暮らし方を思い出させるよう、提案しました。
ただし留意すべきは、50歳以上が必ずしも均質な集団ではないということです。50代の中には、住宅ローンの返済が残っている人もいれば、子育て中の人もいるでしょう。80歳以上では、健康上の問題を抱える人も多いでしょう。マーケターは、特定のオーディエンスをターゲットする必要があります。彼らをひとくくりにすることは、致命的な誤りにつながる可能性があります。
多くのブランドが、まだ手をつけていない領域はありますか?
私見ですが、独身者のためのマーケティングがそうです。多くの人が、自分の意思で独身を選択しているのだということを、正しく理解できているマーケターはほとんどいません。彼らは望んで独身を受け入れているのです。一人でいることは、決して孤独ではないのです。
なぜ、いつもチョコレートの広告では、家族みんなで分け合ったり、贈り物として渡されたチョコレートを一緒に食べたりするのでしょうか。なぜ、独身者が贅沢なチョコバーを買って一人で食べている姿を祝福するような広告が制作されないのでしょうか?
ファストフードの広告も同様です。私たちはいつも、おいしいものをみんなでシェアする瞬間としてこれを表現しています。もしマーケターが勇気を持って、一人だけの素晴らしい贅沢なひとときとしてこれを描くことができたなら、とても素晴らしいことではないでしょうか?
トラベル業界でも、ホテルの部屋を2人で予約するより、1人で予約する方が割高なのはなぜでしょうか。変わらなければいけないのです。一人でいることは身勝手ではなく、単に贅沢なのです。「お一人様」向けの事業があってもよいのに、まだ誰も手をつけていないのだと思います。
今まで伺ったことのほかに、この調査の所見から得られた、心強いマーケティングハックは何かありますか?
多文化主義を理解することです。オーストラリア人の3分の1は英語ネイティブではなく、他言語を話す人も40%近く存在します。ジェンダーは今や流動的なものと見なされています。それなら、文化についてはどうでしょうか?
私はクロアチア系ですが、母と話す時は英語1に対して、クロアチア語が9です。オーストラリアには約30万人のクロアチア系住民とボスニア系住民がいます。もしあるブランドが、英語の広告メッセージの中で、単語1つだけでもクロアチア語に変えてくれたなら、クロアチア系の私たちは皆そのブランドについていきますよ!
最後に。非凡を求める気持ちを持ち続けてください。無難かつ予測可能で、お決まりの仕事とは決別しましょう。人々は魔法を求めています。私たちはそれを取り戻すべきなのです。