国民が敬愛してやまないプミポン・アドゥンヤデート国王の死去で、タイ全土は服喪期間に入った。経済活動が停止する中、ブランドやメディア、広告会社などはメディア規制のガイドラインに慌ただしく対応し、現在は様子見の姿勢をとる。
当面の間、放送が認められているテレビ広告はテレビ局自身のCFのみ。メディア各社は、国家放送通信委員会が発令したガイドラインを注視している。
10月14日、Campaignはその短期的指針の概要が記された覚書をUMタイランドから入手した。それによると、ユーチューブは7日間にわたり配信停止(ただし、まだ実行されていない模様)、新聞や雑誌、ウェブサイトなどは白黒のみで構成する。さらにデジタル広告は停止、屋外看板の照明も禁止する、などなど。
またこの覚書では、広告主に対し商業的広告を少なくとも7日間、イベントなどの娯楽は30日間自粛し、すでに展開中の広告も追悼メッセージに差し替えるよう勧告している。
UMタイランドのCEOタラプス・チャルヴァタナ氏は、「国王が長期療養中であったにもかかわらず、広告業界は最悪の事態を想定していませんでした。まさに不意を突かれたかたち」と言う。「オンラインを含むあらゆるメディアは、規範に従って娯楽性のあるコンテンツの配信を控えるでしょう」。
「広告界の大半の企業が、事前の対策を何らとっていませんでした。私たちの世代にとっては初めてのことなので、今後何が起こるか予想がつきません。数日もすれば、方向性は見えてくるでしょうが……」。
プミポン国王は、現役君主としては最長の70年という在位記録を持っていた。2008年に国王の姉が死去した際には、タイは国を挙げて2週間の喪に服した。国王の場合はさらに長く、大規模になることが予想される。プラユット・チャンオチャ首相は、タイ全土が1年間服喪に入ると発表した。
プミポン国王は国民から深く崇敬されていたので、「国を覆う自粛ムードが収束に向かうのは3カ月ほど先でしょう」とタラプス氏。「我々は今、国家的悲劇に直面している。これから数カ月、広告の全体的なトーンは厳粛なものになるでしょう。これまでのような明るく軽やかなコンテンツは不謹慎ですから」。
アイソバー・タイランドのマネージング・ディレクターであるアディサク・アモンチャット氏は、国王の死去と服喪期間の長期化が消費や広告支出全体に及ぼす影響を判断するのは時期尚早、と指摘する。
「タイの国民は皆一様に、国王の死を悼んでいます。今はビジネスのことを考える時期ではありません」。
あるPR会社のオーナーは、匿名を条件に次のように語る。「数多くのイベントやキャンペーンが保留になってしまうこうした事態への備えは、我が社もクライアントもほとんどしていませんでした。向こう数カ月で、クライアントの広告予算が大幅にカットされる可能性があります」。
一方で同氏は、広告業界の先行きについては楽観的だ。その理由について、「政治情勢は今後も安定を続けると思うので。軍事政権が厳しく社会を統制していますから」と述べた。
(文:スン・チェン・カン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)