プミポン・アドゥンヤデート国王の死を受け、国内での広告配信を控えていたフェイスブックなどのプラットフォームが、10月21日、広告活動を再開した。それでも、普段なら色彩に溢れたこの国のメディアが通常の状態に戻るまでにはまだ時間がかかりそうだ。服喪による自粛ムードはいつまで続くのか。また、ブランドが短・中期的に打つべき手は何なのか。ソーシャルメディア上のインフルエンサーを活用したマーケティングを実施できるプラットフォームの開発、運営を行う、ウィズフルエンス共同創業者でCEOであるバンコク在住の岡本博之氏に話を聞いた。
敬愛する国王を亡くしたタイの人々の思いに心を寄せつつも、同氏は「今の状況は近年タイで台頭する米国や韓国のブランドから、人々の気持ちをもう一度日本ブランドに引き戻す好機」と語る。
消費者とブランド双方の視点から、プミポン国王の死去でどのような変化が起きたのでしょうか?
私はバンコクに3年住んでいる外国人ですが、それでも強い喪失感を味わっています。タイの人々の喪失感は、もちろん私たち以上でしょう。タイ・デジタル広告協会(DAAT)は、10月21日から広告を再開して差し支えないと発表しました。各ブランドは広告活動を始めるでしょうが、新製品をタイ市場に投入する予定だった海外ブランドには販促キャンペーンの延期を勧めます。ほとんどのブランドが、新しい製品やサービスの投入を来年まで延ばすでしょう。
今年中に経済活動が平常時の活気を取り戻す見込みはあるのでしょうか?
タイの人々は、精神的に強くて適応力があります。これまでも軍事クーデターや政治的な諸問題、洪水など様々な困難を乗り越えてきました。それでも、今回の国王の死が消費に与える影響は大きいと思います。アルコール類や自動車、ぜいたく品などの類は年内いっぱい売上が低迷するでしょう。
消費者の反応は一様ですか? それとも、世代間で違いがありますか?
ミレニアル世代の受け止め方は、より柔軟です。もちろん彼らもほかの世代と同様、国王の死を悼んでいますが、消費にブレーキをかけるようなことはしません。連休に海外旅行を予約していた人々が多く、ほとんどの航空会社がキャンセル料を無料にしましたが、私のタイ人の友人たちは「今まで同様に人生を楽しみたい」と予定通り休暇に出かけるようです。ブランドは、ほかの世代と異なる価値観をもつこれらミレニアル世代の動向をよく分析し、訴求するため素早い行動に出るべきでしょう。
これからの1年間、日本のブランドはタイ市場とどのように向き合うべきでしょうか?
何よりもまず、タイの人々の気持ちを尊重することです。それは何も、全てのマーケティング活動を保留すべきだという意味ではありません。亡くなった国王もタイ政府も、経済活動の停滞は望んでいないでしょうから。
複数の日本企業が出張をキャンセルしたり、新会社の設立を延期したり、マーケティング予算を縮小したりという話を聞きました。こうした企業の日本の本社は、タイという国の本質が見えていません。今の状況は危機ではないのです。むしろ、普段とは異なる視点からタイの人々にアプローチできるチャンスと捉えるべきです。タイの人々は、今回の事態に日本ブランドがどう対応するかを見守っています。日本とタイは強固な関係で結ばれていますが、もし対応を誤ればタイの人々の心は離れて、他国のブランドになびいてしまうでしょう。ですから日本企業は、タイの市場や消費者の実情を正確に把握するべきなのです。マーケティング予算を削減するのではなく、これまでとは違った角度から消費者とコミュニケーションをとるための投資を行う。そして、長く持続する強靭な関係を築き上げる。決して自制し過ぎない、ということが肝要なのです。
岡本博之氏はウィズフルエンスを創業するまで、ベトナムでメディア、広告会社を経営する起業家としてホーチミンに3年間在住。それ以前は、博報堂DYグループのDAC傘下にあるデジタル・マーケティング・エージェンシー、アイレップに在籍した。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)