カッターズ・スタジオ(Cutters Studio)は、従来からのプロダクションサービスに加えてクリエイティブも提供すべく、ハバスのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター(ECD)を務めたデイビッド・モーガン氏を任命した。
モーガン氏の具体的な肩書きは現時点では明らかでないが、本質的には「流動的な」クリエイティブディレクターとして現場を指揮するではないか、とのこと。同氏はキャリアの大部分を広告会社で積み、2005年にロンドンから東京へと移った。ハバスの前は、オグルヴィ(都内)でECDを務めた。
モーガン氏は数々のエージェンシーでECDとして勤務していた頃、もっとエグゼキューション(実行)に携わりたいと考えてきた。エージェンシーとポストプロダクションの果たす役割は似てきた、と同氏。「新しい働き方を開発し、最終的にエージェンシーやクライアント、そしてあらゆる関係者が満足する作品を制作するチャンスが、(エージェンシーとポストプロダクション)の双方にあると考えています」
カッターズ・スタジオのマネージングディレクター、ライアン・マクガイア氏にモーガン氏の任命について尋ねたところ、クリエイティブサービスをブランド側に提供する方法を簡素化することで、市場のギャップを埋めたかったのだと語る。エージェンシーが主導権を握ってプロダクションに協力を求めるというのが典型的なプロセスだったが、これだと実行までに時間がかかり過ぎ、ソーシャルメディア世代の期待に応えることができない。
「もし私が大手ブランドの人間だとしたら、消費者とエンゲージしない日なんて1日も欲しくない。そしてエンゲージメントは動画を通じて行われるものでしょう」とマクガイア氏。「(モーガン氏の任命で)より良く、より速く、そしてより効率的にできると考えています」
だが同時に、「機敏な」コンテンツには幾度もの改訂作業が必要だということを、クライアント側も理解するべきだという。「機敏なコンテンツとは、精緻に作り込まれた1つのメッセージではありません。小さなメッセージが積み重なって、1つのメッセージを作り上げるのです。私たちはそれを日々判断することはできません。1カ月後、1四半期後になって評価できるものなのです」
プロセスに関わる人を減らすことで、ブランドに利益がもたらされるだろう、とマクガイア氏。これをレストランに例えて、こう語る。「ハンバーガーの注文がシェフに届くまでに3人を介する場合と、直接シェフに注文する場合とでは、間違いが起こる可能性は前者の方が大きいでしょう。我々はこれからもエージェンシーと仕事をしたいと考えていますが、ブランドと共にアイデアを創造する、パートナーという位置付けでお付き合いをしたい。下請けのような形で依頼を受けるのでなく、3者が三角形のような関係でありたいと考えています」
さらに「堂々巡りな議論をやめて必要最小限まで簡素化し、改訂し続けなくてはならない」とも。「世界が今よりもゆっくり進むことはないので、我々は適応しなくてはなりません。テレビの30秒スポットの制作費が100万ドルだったような時代が再来しないかと期待に胸躍らせる制作会社もあるでしょうが、そんなことは起こりません。私はいつも、いかにプロジェクト予算をカットするかと苦慮しています。でも売上だけが少なくなったのではなく、出ていくお金も少なくなったのは良いことですね」
同氏は「理解しなくてはならないことは、まだ他にもたくさんある」と認めるものの、カッターズ・スタジオはこの方向性で行くと決めたのは「エグゼキューション(実施)だけでなく企画段階から」というリクエストが増加しているからだ。社内のチームだけでなくフリーランサーにも協力を仰ぎ、モーガン氏がプロジェクト全体を監督することとなるだろう、と話す。
だが「トップの人間のアイデアに下の者が意見を言いづらい空気を作るヒエラルキーの無い組織が理想的」だとも。「経験の差に関係なく、誰もが自由に意見を述べられる組織であるべき。いつも必ずどこかに、もっと良いアイデアを持っている若者がいるものですから」
カッターズ・スタジオの方向転換と時期を同じくして、同社でエグゼクティブプロデューサーを務めた大槻ティモ光明氏もベンチャーを設立し、ディレクターの役割をより重視するなど制作現場の一新に意欲的に取り組んでいる。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)