Matthew Keegan
2022年6月10日

バーチャルアイテムはビジネスのメインストリームとなるか?

バーチャルアイテムの購入金額は、本業を凌ぐ勢いだ。バーチャルアイテムは、ブランドにフロンティアを切り開くのだろうか。

バーチューによるバーチャルファッションのNFTキャンペーン。
バーチューによるバーチャルファッションのNFTキャンペーン。

年間140万ドル(約1億8600万円)。これは2021年に、21歳のデザイナー、アーサー・トゥルソブ氏が、ロブロックスでデジタルの衣服やアクセサリーなどのバーチャルアイテムを販売して得た金額だ。ロブロックスは、プロやアマチュアのプログラマーが制作したゲームを扱う世界的なオンラインゲームプラットフォームだ。

バーチャルアイテムの制作、販売で何百万ドルも稼いでいるのはトゥルソブ氏だけではない。毎年540億ドル(約7兆1700万円)ほどがバーチャル商品に投じられているのだ。これは音楽に費やされる金額のほぼ2倍だ。未開拓の部分がまだ多いが、これは巨大なビジネスチャンスとなるだろう。

バイス・メディアのクリエイティブエージェンシー、バーチューが消費者3000人を対象として2022年に実施したグローバル調査によれば、バーチャルアイテムはもはやニッチとは考えられていないようだ。10人中8人がバーチャル商品を購入したことがあると回答しており、最も人気が高いカテゴリーはデジタルファッションアイテムだった。

調査報告の作成者は、ブランドにとって、バーチャルグッズは、特に若い世代に向けた絶好のビジネス機会だという見解を示している。

バーチューのAPAC(アジア太平洋地域)戦略担当ディレクターを務めるゾエ・チェン氏は、「将来的には、フィジカルとバーチャルは融合し、バーチャルアイテムも主力商品のひとつとなるだろう。そして、物理的な土地所有や従来の投資には、ほぼ手が届かない若者世代に、所有の概念の変革をもたらすだろう」と説明する。

「バーチャルアイテムは若者たちに、自分たちが知っているもの、大切に思っているもの、関心があるものに投資し、所有する機会を与える。デジタル技術とその可能性は、新たな興奮を呼び起こし、より良い世界の構築に寄与するだろう」

ブランドにとっての機会

すでに複数の消費者ブランドが仮想世界に参入し、商品をデジタルアイテムとして販売している。ナイキからグッチ、さらにはタコベルまでが、ロブロックスのようなメタバース・プラットフォームと提携して、バーチャルグッズを制作、販売し、毎月何万ドルもの売上をあげている。

ロブロックスで、大手ブランド向けに没入型メタバース体験を開発しているゲームスタジオ、メロンでプレジデントを務めるジョシュ・ニューマン氏は、メタバースでバーチャルグッズを制作することは、ブランドにとって大きなチャンスだと考えている

ニューマン氏は「人気の高いメタバース・プラットフォームのほとんどに、クリエイターが自ら商品をデザインして販売できるユーザー生成コンテンツ(UGC)の仕組みがある」と述べ、「プレイヤーは自分のアバターに100%の力を注ぎ、レベルアップした外見や希少なアイテムを手に入れる機会をとても大切にしている。そして、現実世界と同じくらい、仮想世界でもお気に入りのブランドで身を包みたいと考えている」と指摘した。

ニューマン氏は2021年、アメリカンフットボールリーグのNFLと共に、ロブロックスのプラットフォーム上にNFLショップを誕生させた。そのショップは、バーチャルアイテムをフルラインアップしており、絶えずリニューアルされている。

「ブランドは、単にバーチャルアイテムを販売するだけでなく、バーチャルアイテムのリリースに合わせて、メタバース上のさまざまなプラットフォームで、ゲームやアクティビティなどの包括的なバーチャル世界を構築し、深い没入感とインタラクティブ性を伴ったエンゲージメントを生み出すことができる」とニューマン氏は説明する。

バーチャルグッズは現在のところ、物理的なものをデジタル世界で再現した商品が大半だが、メタバースは、マーケティングとテクノロジー、体験やライセンス、エージェンシー、パートナー、コミュニティーの創造的なコラボレーションを促進するだろう。

バーチューのチェン氏は、「メタバースでは、現実世界に存在する多くの物理的な制約を無視できるし、実際無視するだろう」として、「Web3.0のルールブックはまだ書きかけなので、今のところ、唯一の制約は私たちの想像力だけだ」と述べている。

現在、バーチャルアイテムは、売上とエンゲージメントの両面で機会をもたらしていると、カルチャー・グループ(Culture Group)のプレジデント、マイケル・パテント氏は述べている。バーチャルアイテムを制作・販売している企業には売上をもたらし、バーチャルアイテムを販売しない企業も、バーチャルの統合キャンペーンの一部としてそれらを利用することができる。

「ウォレット、NFT、アバターなど、消費者向けにWeb3.0用ツールや製品が開発されており、それらすべてと連携するバーチャルアイテムが成長するのは必然の流れだと、マーケターは認識すべきだ」とパテント氏は言う。「今後、実用性や機能面に優れるバーチャルアイテムが、現実世界のエンゲージメントや売上を促進することになる。ブランドはキャンペーンの実施やその成果測定の準備を整えておくべきだ」

バーチャルアイテムはサステナブルか?

バーチューの調査によれば、消費者3000人のうち71%が、デジタルアイテムを購入した理由として「サステナビリティ」を挙げている。

また、EYが4月に発表した調査結果からは、「資源を大量消費する物理的な製品やリアルな体験をメタバースのデジタル製品や体験に置き換えることで、サステナビリティ面でかなりの大きなメリットをもたらす可能性がある」ことがわかる。この報告書では、メタバースのデジタルアイテムやバーチャル体験は、現実世界のものと比べ、資源消費量や炭素効率が大幅に改善される可能性が高いと述べている。

しかし今、バーチャルアイテムを、よりサステナブルな商品として売り込むのは正解だろうか?

「バーチャルアイテムが物理的な製品に代わるサステナブルな選択肢だという考え方があるのは確かだ。実際、NEARプロトコルをはじめとするカーボンニュートラルなブロックチェーンであれば、従来のサプライチェーンほど二酸化炭素を消費することはない」とパテント氏は説明する。「しかし、サステナビリティに関する真の可能性は、バーチャルアイテムを活用することで、実生活でよりサステナブルな行動を促すことにある」

例えば、アリババは「アントフォレスト」というプログラムで、ユーザーが公共交通機関を利用するなど、現実世界でサステナブルな行動を取ることでポイントが付与され、バーチャルの木を育てられるようにしている。一定のポイントが貯まるとバーチャルの木を本物の樹木に変換することができ、アリババによって、中国の乾燥した地域に実際に植樹される。

今のところ、バーチャルアイテムはサステナビリティよりも、ブランドの革新性や自己表現のツールとして売り込まれている。ナーズやエルフ・コスメティクスといったビューティーブランドのNFTやロブロックスに構築されたスポティファイ・アイランドなど、そのほとんどが、新しい商品(デジタルアート)体験やブランド体験として提供されている。

バーチューのチェン氏は、バーチャルアイテムのサステナビリティはブランドやマーケターに大きな機会をもたらすが、グリーンウォッシングとの批判を避けるためには、サステナビリティに対する真の努力を示すことも重要だと述べている。

「簡単な方法のひとつとして、イーサリアムなどの、主流ではあるが持続が困難な既存のブロックチェーンプラットフォームではなく、SolanaやTezosなど、小規模だが持続可能で、エネルギー消費量が少ないブロックチェーンを採用することが考えられる」とチェン氏は言う。

バーチャルグッズは主流になるのか?

ワンダーマン・トンプソンのAPAC担当最高戦略および変革責任者、ジャスティン・ペイトン氏は、近い将来、私たちは皆、バーチャルアイテムを購入し、利用するようになると考えている。

「今後、アパレルブランドはデジタルツインに注目し、現実世界で購入した衣服のデジタル版を提供するようになるだろう」とペイトン氏は予想する。

「また、ブランドのロイヤルティプログラムとしても、バーチャルアイテムは大きなポテンシャルを秘めている。具体的には、会員限定スペースでの販売や限定商品、限定コンテンツの提供に、デジタル商品やバーチャルアイテムを活用することができる」(ペイトン氏)

電通ゲーミングが東南アジアの6市場(シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム)を対象に実施した調査では、ゲームに関心がある人の75.8%が仮想空間でのブランドとの交流に好意的で、50%がブランドのゲーム内アイテムの収集に高い関心を持っていることが判明した。

電通ゲーミングのAPAC担当責任者、ジェイミー・マコンビル氏は、「人々がデジタルアバターとして仮想空間で過ごす時間は増え続けており、それと並行して、バーチャルアイテムの需要も増え続けることが予想される」と述べ、「すでに実験を進めている多くのブランドは、バーチャルアイテムが新たな収入源になるとともに、オーディエンスとのエンゲージメント機会をもたらしてくれることを実感している」と説明する。

バーチャルグッズへの関心と需要がさらに高まる兆しが見えるなか、フェイスブックとインスタグラムの親会社であるメタは、2022年4月から、少数のコンテンツクリエイターを対象に、自社のメタバースの主要プラットフォームであるホライゾン・ワールズのユーザーに、バーチャルアイテムを販売する機会を与えると発表した。

デジタルファッションハウス、ザ・ファブリカントのバーチャルファッション。


メタはプレスリリースの中で、「例えば、ファッション世界の住人のために、装着可能なアクセサリーを制作、販売したり、ファッション世界の新しい場所への有料アクセス権を提供したりできるようになる」と述べている。

そして、メタバース・プラットフォームが成長するにつれて、需要が全業界に広がっていく可能性は高い。

メロンのニューマン氏は「ロブロックス、フォートナイト、マインクラフトなどのプラットフォームにおける数字は、すでにかなり驚異的なレベルだ」として、「デジタルウォレットが広く導入され、Web3.0が受け入れられれば、近い将来、堰を切ったような爆発的な伸びが期待できる」と述べている。

バーチューのチェン氏は、マーケターはバーチャルアイテムを活用することで、多くの実験を素早く行うことができるようになると考えている。「メタバースの要素技術は急速に進化しているため、メタバースへの参入を一連の短期実験として扱うことで、ブランドは継続的な長期戦略のための仮説を素早く検証することができる」

チェン氏は「マーケターは未知なる領域への参入に慎重になりがちだが、結論から言えば、私たちはメタバースを楽観的に見ている」と話す。「これが文化の次なるフロンティアだと、私たちは確信している。取り残されるリスクは、参入に必要な追加投資をはるかに上回るだろう」と指摘した。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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