昨年パナソニックは、米国で開催される「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」に初めて参加した。今年で創業100周年を迎える同社は、その活力を紹介するため、いくつかのコンセプト商品を展示した。広い意味での参加の目的は、若い社員たちのプロジェクトを後押しし、さらには社内の正式承認を待たずに外部との接触を持つなど、老舗ブランドの堅苦しさから脱却して、自社製品の売り出し方を考え直すことだった。
パナソニックは2度目の参加のため、再びその開催地であるテキサス州オースティンに向かう。同社で実験的プロジェクトやイノベーションを促進する部門「ゲームチェンジャー・カタパルト(Game Changer Catapult)」の代表を務める深田昌則氏は、SXSWへの参加によって活力が得られると言う。
日本でのパナソニックの名声を考えると、「変革」に取り組む他企業がこのアプローチから何かを学ぶことができるだろう。深田氏はSXSWへの参加や、とりわけ参加者たちとの交流は「自分はなぜこの仕事をするのか」を考える良い機会だと言う。深田氏自身も、人々が関心を持つのは家電製品の特徴ではなく、それがいかに社会課題の解決になるかであることに気付かされたという。「私たちは当初から社会課題の解決に取り組んできました。でも、会議室にいるとそれを忘れがちになるのです」
深田氏は最近パナソニックが開発した、うまく飲み込めない人のために食べ物をやわらかくする調理器を例に挙げる。「市場は小さいかもしれません。しかし、米国でこの製品の話をすると、多くの人が理解を示してくれました。もしかすると世界的には、市場は小さくないのかもしれません」
大企業が展示会に臨む姿勢は、潜在的な顧客や自分たち自身に対して、効果的ではないという。商品を売るためというよりはむしろ、意見を聞くために人と接することを心掛けるべきだと深田氏。「新たなサービスを生み出すには、より多くの外部の人たちの考えを受け入れる必要があるのです」
もう一つの重要な側面は、共感を築くこと。特に、企業が若い人にアピールするためには重要だという。アイデアに共感できなければ、人は決して何かに高額の代価を払おうとはしない。そして共感は、商品の販売に従事する人たちではなく、それを作った人との交流から生まれるのだ。
「社員たちはSXSWに参加してアイデアを説明し、議論すべきなのです」と深田氏。「アイデアを作った人の話は、喜んで聞いてもらえます。ビジネスの話ではなく、アイデアを作る人たちについて話し合うのです。人々は意見交換を好み、そこからコミュニティーが生まれるのです」
「私たちはよく、商品プランニングやマーケティング、専門的な技術の話をしがちです。しかし昨今は、人々との間にどのようにして共感を作り出すかを考えることがより重要です。商品のアイデアの基になったストーリーや、商品を作った人たちがとても大切なのです」
まるでパナソニックの実験的な取り組みが、ストーリーを生み出すことを目指しているようにも思える。現在進行中のアイデアの一つが、日本のおにぎり文化を世界に広めること。おにぎりと漬物をアメリカで宣伝すれば、炊飯器の販売は増えるだろう。だが、例えば学校での生徒たちの昼食を変えていくという文化的な要素の前には、ハードウェアの販売は二の次だ。その他にパナソニックが世界に広めようとしているのが、日本の伝統的な下着「ふんどし」だ。
これらは大づかみなアイデアで、その多くは現実離れしたまま終わってしまうかもしれない。しかしこのようなアイデアを話題にすることが大切だと深田氏は考えている。基本的に会社は彼を応援してくれているが、社内では課題にも直面している。「このような考え方を理解してくれない人も依然として多く、強く働きかけ続けなければなりません。どのような事業を実際に生み出したのかとよく聞かれますし、財務部門からは短期の収益を期待されます。でも、そうするとアイデアが小さくなってしまいます。大きい仕事を完成するためには短期での利益を期待すべきではないのです」
深田氏は大企業における「活用(exploitation)と探索(exploration)」の学術的理論の例を指し示して、このように語った。「多くの企業は、既存ビジネスをいかに活用するかに時間を使い過ぎています。しかし、新たなプロジェクトの探索にこそ、もっと時間を使うことが重要なのです」
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)