フェスティバル化(festivalisation)により、イベントのエンターテインメント性を強化することができる。参加者を魅了するだけでなく、ブランドやメッセージとの関わりを楽しんでもらえるようになるのだ。参加者が自身の選択と好みに基づいてインタラクションすることで、イベントはより個人的で記憶に残るものになる。
フェスティバル化の効果は明白だ。しかし、パンデミックの影響で人との接触が制限されることの多い対面型イベントにおいて、その効果は得られるだろうか。このコンセプトをオンラインに移行しても、高水準のオーディエンスエンゲージメントを維持することは可能だろうか?
我々の答えは「絶対的にイエス」だ。とりわけバーチャル空間のフェスティバル化を成功に導くための、以下のアドバイスに従うならば。
1. オンラインのソーシャル機能を用いて親近感を生み出す
どんなバーチャルイベントでも、オーディエンスはワンクリックで簡単に「会場」を離脱できる。だからこそプランナーはオーディエンスとの密接なつながりを素早く築き、開催期間中そのつながりを維持し、さらに強化しなければならない。ネットワーキング活動をプログラムに組み込むことで、この種の親近感を極めて効果的に生み出すことができる。
その効果を示す好例が、KポップグループのBTSが10月に開催したコンサート「MAP OF THE SOUL ON:E」だ。特設プラットフォームでライブ配信されたこのコンサートは、ライブチャットサービスや自宅で視聴する観客を何百人も映し出すステージ上の巨大スクリーン、デジタル版の公式ペンライトやプラカードといった機能でファンを魅了した。191の国と地域で100万枚近くのチケットを売り、観客動員記録を打ち立てただけでなく、公式ペンライト「ARMY Bomb」によるリアクションが初日だけで1億回を超えた。
マーケターやイベントプランナーにとって重要なのは、消費者はオンライン体験にもお金を出すということだ。ただし、何でもいいわけではない。娯楽として優れているだけでなく、自らインタラクションができ、他の参加者のインタラクションも目にすることができる。これが、共に体験しているという感覚を生むのだ。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が到来する前から、複数の国の映画館でコンサートをライブ配信するなど、より多くのファンにライブ体験をもたらす手段としてオンラインフォーマットが模索されていた。例えば、オフラインコンサートをライブ配信するBeyond LIVEはコロナ以前から、コンサートに直接参加できない人々を中心に世界中のファンから絶大な支持を集めていた。
もう一つの例として「Hydeout: The Prelude」も、ソーシャルインタラクティブ機能がいかにパーソナライズを実現し、オンライン参加者を引き付けるかを別の形で実証している。Hyde N Seek Entertainmentが主催し、Picoが公式コンサルタントとデジタルビルダーを務めるこのイベントは、40組を超える国際的なアーティストのパフォーマンスから成り、その多くがオンデマンドで提供されている。ソーシャルインタラクティブ機能にはゲームやチャットルームだけでなく、参加者が架空の世界でインタラクトするためのカスタマイズ可能なアバターも含まれている。
これらすべての成功例が示唆しているのは、オンラインイベントは対面イベントにないものを提供できるということだ。具体的には、会場という制約を取り払い、ソーシャル環境とエンゲージメントレベルを無限に拡大できる可能性だ。この可能性は「フェスティバル化」されたオンラインイベントやハイブリッドイベントを強力な販売ツールに変えるだろう。
2. AR、XRなどのバーチャルツールで体験を強化する
純粋な対面イベントに比べると、バーチャルイベントやハイブリッドイベントの企画は容易ではない。現場でのイベント管理だけでなく、最適なカメラ配置、信頼性の高いライブ配信や仮想ネットワークが要求される。イベントを成功させるには、テクノロジーを味方に付けなければならない。
もう一度「MAP OF THE SOUL ON:E」の例を挙げよう。観客は4KとHDから解像度を選択し、6つのカメラを切り替えることができ、ライブ配信を視聴できなかった人向けに見逃し配信も行われた。さらに、拡張現実(AR)やエクステンデッド・リアリティー(XR)で驚くほどダイナミックな背景をつくり出し、星や惑星でアーティストを取り囲むことで、パフォーマンスをダイレクトに盛り上げた。
ただし、これに興奮する前に思い出してほしいことがある。テクノロジーにより目を見張るようなことが実現できるからといって、必ずしもイベントの目的に合うとは限らない。ROI(投資利益率)とターゲットオーディエンスを考慮して賢く選択すべきだ。
3. ハイブリッドイベントを開催する場合、既存の枠組みにとらわれないように考えよう
今注目されている話題はオンラインイベントの変革かもしれないが、長期的には、リアルなイベントも復活し、新しいアイデアを求められることになるだろう。すでに対面型イベントやハイブリッドイベントで頭角を現しているのが非接触型ソリューションだ。
5月の3日間、韓国のソウルで開催された現代自動車の「Stage X Drive-In」コンサートでは、非接触型ソリューションが安全な対面イベントの鍵を握っていただけでなくその体験にも貢献した。観客らは車で来場し、マスクの着用と検温が義務づけられ、車に乗ったままコンサートを楽しんだ。専用のFM局に合わせると音声が流れ、観客は出演者の合図で、車のライトをつけたり、自身の携帯電話を使った「ペンライト」を振ったりと積極的にイベントに参加できた。
4. フェスティバル化のエッセンスをビジネスイベントに浸透させる
ここまでに挙げた例はすべてコンサートだが、フェスティバル化の成功要素はその他のイベントでも魔法のような効果を発揮するかもしれない。ビジネスカンファレンスやミーティングでさえ、プログラムにフェスティバル化のエッセンスを加えることで、価値がある体験に変えることを検討できるかもしれない。また、フェスティバル化のさまざまな要素を取り入れれば、さまざまな関心、期待を持つ幅広いオーディエンスを引き付けられるだろう。
例えば、HPは主要イベントである「HP Inc. Malaysia’s 2020 Launch and Partner Event」を初めてバーチャルで開催し、「Creators of Tomorrow(未来の創造者たち)」をテーマに、マレーシアとシンガポールから配信した。記者会見とパートナーセッションに分かれており、どちらもフェスティバル化の要素を盛り込むことで、エンゲージメントを高める工夫を凝らしていた。具体的には、勢いや関心を持続させるため、新製品の発表にARが使用された。パートナー賞の授与式でさえ、魅力がありパーソナライズされたオーディエンス体験にするため、共有可能なアバター動画が用意されていた。
まとめ
対面型、オンライン、あるいはその中間でも、あらゆるイベントはフェスティバル化によって、参加者全員が共有したくなる体験に変わる。テクノロジーの巧みな利用に支えられた明確なビジョンこそが、満足できるROIを得る最も確実な方法だ。そのためには心を開き、柔軟な姿勢でイベント戦略を練る必要がある。リアルなイベントの再現に注力するのではなく、バーチャルとリアルの双方から最良の部分を取り入れることで、オーディエンスのエンゲージメントをまったく新しいレベルに引き上げよう。
テイ・リン(Tay Ling)は、Pico Group傘下のTBA Creative Network香港法人でゼネラルマネージャーを務める。