10月10日は、世界メンタルヘルスデー。不安やうつ、自殺といったテーマへの理解を深めるのに貢献した、近年の12作品(順不同)をご紹介する。3年前の作品リストから再度ご紹介する作品や、APAC地域以外の優れた作品なども併せて取り上げたが、もし注目に値する素晴らしい作品が他にもあれば、ぜひフィードバックサイトからお知らせいただきたい。
1. Behind the mask
2020年、香港
Mind HK(制作:Creative Theory Group)
今年はこの作品のように、パンデミックによってストレスが高まったことをテーマにしたものが多かった。人々の苦しみがマスクで(文字通りに、そして比喩的な意味合いでも)隠れてしまっているという、この動画のコンセプトは説得力がある。パンデミック以外の時期にも、心に留めておく必要があるだろう。
2. Suicide notes talk too late
2016年、オーストラリア
The Movember Foundation(制作:Cummins & Partners)
男性の自殺に焦点を当てたこのキャンペーンは、以前のリストでも取り上げた。かつて自殺を考えた男性たちが、その時に書いた遺書を読み上げるもので、辛いときは誰かにそのことを話すよう呼び掛ける。
3. Locked down and out
2020年、英国
The LGBT Foundation(制作:The Gate)
美しい人が、実は自宅で酷い状況に直面している様子をとらえたこの動画は、ロックダウン(都市封鎖)中に急増したLGBTQへの差別がテーマ。物事に別の角度からスポットライトを当て、理解と共感を促す上で、クリエイティブが大きく寄与している。
4. Hidden pain
2013年、シンガポール
The Samaritans of Singapore(制作:Publicis Singapore)
今回ご紹介する作品の中では最も古いもの。人々が感じている苦痛は、必ずしも見えやすいものとは限らないが、よく見るとその兆候は表れている。「I’m fine(元気です)」、「Life is great(人生は素晴らしい)」、「I feel fantastic(素晴らしい気持ち)」と書かれたこれらの文字は、逆さにすると、「Save me(助けて)」「I hate myself(自分のことが嫌い)」、「I’m falling apart(もうボロボロ)」と助けを求めるメッセージになっている。
5. Whatever gets you talking
2020年、米国
The Ad Council(制作:Droga 5)
メンタルヘルスは、友人と話すには少々気まずいテーマだろう。だが、話すことで救われるかもしれない。ここ数年、辛さを周りの人と話すことの大切さを訴求してきた公共広告キャンペーン「Seize the awkward(気まずさを乗り越えよう)」は、今年はアキニエミ(ラッパー)を起用。チャットやアプリ、電話、あらゆる手段を使って友人に話しかけることができると提案している。
今年は、さまざまな気まずい場面をおさめた動画も公開している。
2018年の動画では「気まずい沈黙を好む人はいない。でも、大いに役立つかもしれない」、「メンタルヘルスで苦しんでいるかもしれない友人に連絡しよう」と呼びかけた。
反面教師になりそうな作品例 メンタルヘルスを扱うクリエイティブが、必ずしも成功するとは限らない。今後の参考となりそうな作品を2点ご紹介する。 【サムスン】(2018年、タイ) サムスンとBBDOは、うつに苦しむ人をさらに追い込んでしまう言葉を自動的に修正する文字入力アプリを発表した。だが文字入力を修正するだけでは悲劇を防ぐことはできないし、そもそもアプリがうまく機能しなかった。 【バーガーキング】(2019年、米国) マクドナルドをたびたび挑発することで有名なバーガーキングが昨年、マクドナルドのハッピーミールに対抗して、怒りや悲しみ、投げやりな気持ちなどを表現した「リアルミールズ」を発売した。CNBCが報じたところによると、さまざまな感情に焦点を当てたことを評価する声もあったが、メンタルヘルスの問題を軽んじていると批判する声もあり、賛否が分かれたという。 |
6. Knowing nothing
2019年、中国
CEO Roundtable on Cancer-China(制作:BBDO Shanghai)
従業員のメンタルヘルスに対する雇用主の義務や責任は、ここ数年で注目を集めているテーマだ。職場で普段通りに過ごしていたように見える男性が、その夜に自殺してしまったというのは予想外の展開だが、この問題の本質に迫っている。
7. John Kirwan
New Zealand
APAC地域のメンタルヘルス関連キャンペーンといえば、この動画を抜きにしては語れないだろう。ジョン・カーワン氏(元ラグビーニュージーランド代表)を起用したニュージーランド政府のキャンペーンで、同氏は長年うつ病に苦しんできたことを率直に語った。周りに助けを求めるよう呼びかけ、うつに対する偏見の払拭に大きく貢献した。初期の動画を見つけることができなかったが、以下に2010年と2013年の作品をご紹介する。
8. #GiveSubtitlesToSuicide
2018年、インド
The Suicide Prevention India Foundation(WATConsult)
1回目は字幕なし、2回目は字幕付きで視聴する動画。周りに言えないでいる悩みや辛さを、テクノロジーを活用してうまく表現しており、見る者の関心を引きつける。
9. Ask twice
2018年、英国
Time to Change(制作:Ogilvy)
非常に重要なポイントを、ユーモアたっぷりに描いた作品。このキャンペーンに、「コミックリリーフ」という慈善団体が資金を提供していることを考えれば、合点がいく。
2012年と2011年に公開された動画も傑作だった。
10. Naughty or...
2019年、米国
The National Alliance on Mental Illness(制作:Wieden+Kennedy New York)
メンタルヘルス関連の作品紹介の中に、クリスマスを題材としたものが含まれることに違和感を覚える人もいるだろうが、とても大切なメッセージを伝える動画なので、どうか視聴してほしい。サンタクロースに扮したグレッグ・ヒルドレス(俳優)が屋根の上で思い巡らすのは、子どもを「良い子」と「悪い子」に分けることの是非だ。クリスマスは「もともとは子どものやる気を引き出し、贈り物を成文化して無駄なく届けるという、善意から始まったものだった」と振り返りつつも、今日の子どもたちはさまざまなストレス(ニュース、不審者侵入に備えた訓練、インターネットなど)にさらされており、「良い子」と「悪い子」に二分するのはあまりに短絡的ではないか、というのだ。
神経質な子、自信を持てない子、怒りっぽい子、衝動を抑制できない子、傷つける子――。「子どもたちは『良い子』でも『悪い子』でもない。彼らは『子ども』なんだ」ということを、サンタは「千年かかってようやく分かった」と言う。メンタルヘルスの不調は、その約半数が14歳までに始まるという。子どもにレッテルを貼らないこと、メンタルヘルスに注意を払うことの大切さを説く。
11. Depression looks different for everybody
2019年、オーストラリア
WA Primary Health Alliance (制作:Rare)
このキャンペーンは、うつに苦しんだ4名とアーティスト4名がペアを組み、心の状態を芸術作品へと変えるもの。特に目を引いたのはマイケル氏の「肩の上の黒い犬が自分を支配していて、その犬が怒り狂ったサイに豹変すると逃げられなくなる」という生々しいストーリー(下の動画)を描いた絵だが、他の作品や動画も一見の価値がある。うつの症状や状態が一人ひとり異なることを訴求し、回復を目指して取り組む人々の美しさを描き出したキャンペーン。
12. Safety is everything
2019年、オーストラリア
WorkSafe Tasmania(制作:Red Jelly)
「安全ではない人を見つけることができますか?」と問いかけるこの動画は3種類用意されている。職場における物理的な危険については広く認知され、対策がとられるようになったが、メンタル面での危険については見つけにくいものもあると注意を喚起する。(別バージョンの動画はこちらとこちらから)
(文:マシュー・ミラー、翻訳・編集:田崎亮子)