David Blecken
2016年10月20日

リクシルが見据える、東京2020に向けた新たなスポンサー活動

2020年東京五輪・パラリンピック大会のゴールドパートナー18社(五輪は15社)の1つ、リクシル(LIXIL)。単なるメッセージの発信にとどまらぬ、より包括的な取り組みを目指す同社の構想とは。

野口恭平氏
野口恭平氏

リオ大会後にスタートした、2020年東京五輪・パラリンピック競技大会に向けたスポンサーの戦略や取り組みを紹介するこのシリーズ。今回は、ブラジルから帰国して間もないリクシルのマーケティング統括、野口恭平氏に話を聞く。建築材料・住宅設備機器業界最大手の同社は、東京2020五輪・パラリンピック大会のゴールドパートナー。日産自動車でキャリアを積んできた野口氏は、日本のスポーツマーケティングはいまだ発展途上の段階にあり、スポンサーは自社の製品やメッセージを市場に溢れさせるだけでなく、「意義」や「体験」を創出することで社会に貢献すべきだとの考えを持つ。同社はスポーツの協賛活動を幅広く展開。その一つがプロテニスプレイヤーの錦織圭選手へのスポンサーシップで、同選手の女性顧客層への訴求力は絶大だという。

スポーツスポンサーシップにはどのように取り組んでいるのでしょう?

ブランド強化、販売促進、従業員エンゲージメント(企業と従業員の間の信頼関係)の3つの側面を重視しています。現在、様々なスポーツのスポンサーになっていますが、得られる効果の大小によって評価をする必要があると考えています。ブランド強化への貢献度の測定法はまだ十分に確立しているとは言えませんが、当社のスポーツ協賛活動をご存知の方々のほうが、我々により好感を持っていただいていることが分かっています。当社の製品は日常的に購入するものではないので、消費者の方々が購入しない期間も良好なつながりと信頼関係を維持する必要があります。スポーツマーケティングでは2020年に向けたスローガンとして、「Feel the Moment  感動を、暮らしの数だけ。」を掲げています。そこにはスポーツを通じて得られる感動の瞬間と、リクシルが毎日の暮らしにもたらす感動の瞬間とを重ね合わせて伝えていきたいという思いが込められています。スポーツマーケティングは、より直接的にこのメッセージを届けられるプラットフォームだと思います。

2020年に向けてどのような準備をしていますか?

多くの活用ケースが開催前2年間程度のアクティベーションに集中すると想定されますが、社会的に大きな影響を及ぼそうというのであれば2年程度の活用期間では短いのでは、と考えます。

当社では、今年からスポンサー活動をどのように生かしていくか検討を始めたところです。他のスポンサーがどのように取り組んでいるか、視察のためにリオ大会に行きました。我々の根底には、東京大会でのスポンサーシップを介して「ユニバーサル社会」の実現に貢献したいという思いがあります。それゆえ、オリンピックとパラリンピック両方のゴールドパートナーとなりました。障がい者をいかに支援するかという表面的な思考だけではなく、障がい者も社会の一員であると捉えているのです。

製品をただ市場に供給するだけならば、わざわざ五輪のスポンサーになる必要はありません。我々は「ユニバーサル社会」や「ユニバーサルデザイン」に対する理解や共感の醸成を目指し、スポンサー活動のアクティベーションに取り組んでいます。市場に向けて発信するメッセージも、製品の紹介だけではなく当社の意思を反映させていきます。

スポンサーシップからどのように最大の価値を引き出しますか?

社名を出すだけでも認知度は上がるかもしれませんが、それだけではリクシルというブランドに対する強固な信頼を築くことにはなりません。それよりも、人々が共有できる体験を提供することで、世の中や生活の豊かさへと結びつけたいと考えています。東京大会についてどのような取り組みができるか、社内で一層の検討を重ねていきたいと思います。焦点は日本市場になりますが、海外市場への展開にも弾みがつくでしょう。訪日客にもリクシルを知ってもらう良い機会になりますので。

大会期間中は大きな盛り上がりのなかで、スポンサー企業の製品や事業に深く関心を払ってもらえる余地はあまりありません。ですから観客とどのようにコミュニケーションをとるか、しっかりと検討しなければなりません。重要なのは大会前と大会後です。スポンサーとして何を発信し、何を残せるかということです。ゆえに大会の開催期間だけではなく、その前後を含めて一貫性のあるストーリーづくりが求められます。メッセージが信頼をもって受け入れられるような「証」も、提供する必要があるでしょう。

今の時代、テレビ広告に大きな予算を割く価値はあるでしょうか?

マスメディアの高い訴求力は健在です。ただ、より多くの視聴者を生み出すという点では、ソーシャルチャネルに大きな可能性を感じます。弊社は現在、フェイスブック上にスポーツマーケティングのチャネルを持っていますが、今後4年間でデジタルプラットフォームはさらに拡張し、改良が進むと考えられます。こうした状況を鑑みれば、今以上にデジタルアクティベーションに注力する必要があるでしょう。デジタルが主力となり、ライブスペースにつながっていくことは間違いありません。当社は、生活の中で体験してもらう製品をいかにデジタルを通じて伝えていけるか、構想していく必要があると思っています。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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