電通のグループ会社が、長年のクライアントであるトヨタ自動車に対し、長期にわたり過剰請求を続けているという疑惑が生じた。
今週水曜日に発行された豪州の広告業界誌「AdNews」は、運用型インターネット広告を取り扱う「DAサーチ&リンク(DASL)」が、過去5年以上にわたってトヨタに過剰請求を続けてきた疑いがあり、これを受けてトヨタは同社とのデジタル分野での取引を再検討していると報じた。
フィナンシャル・タイムズによれば、電通は現在この醜聞のダメージを最小限に抑えるため、100以上のクライアントと緊急の話し合いを行っているという。業界筋のある管理職はCampaignに対し、「すでに数社が電通とのデジタル分野での取引を停止した」と語っている。
この過剰請求が意図的に行われていたかどうかについては、まだ明らかになっていない。電通の広報部長・河南(かんなん)周作氏はCampaignに対し、文書でこのようなコメントを寄せた。「個別のクライアントとの取引に関する質問には、具体的な回答は致しかねます。いま申し上げられるのは、デジタルメディアの取引において不適切な行為があり、すでにクライアントには報告済みということです。現在、クライアントと今後の対応について協議をしております」。
河南氏はAdNewsの記事に関し、「事実と異なる点が数か所ある」と指摘する一方で、「事実誤認に関する詳細は差し控えたい」としている。
業界内では、こうした不正行為がデジタル分野にとどまらず、従来型メディアでの取引でも行われていたのではないかという憶測が飛んでいるが、それを裏づける証拠はない。だが、電通が現在関与するP&Gジャパンのメディア・プランニング、及びバイイングでのプレゼンテーションに影響を及ぼすことは必至だろう。P&Gジャパンはテレビ広告に巨額の予算を使う企業で、プレゼンテーションにはADKや博報堂、OMDも参加している。
日本をはじめ様々な市場で広告会社とクライアントとの関係についてコンサルティングを行う、R3のプリンシパルであるグレッグ・ポール氏は、「こうした事案が公になったのは特筆すべきこと」と語り、「日本のメディア・プランニングやメディア・バイイングのあり方を至急改めるべき、という警鐘です」と指摘する。
日本の広告業界の慣行は、しばしば透明性に欠けると批判を浴びてきた。電通が大量の従来型広告インベントリを支配し、その規模は国内広告費のおよそ4分の1を占める。それより規模は小さいものの、博報堂のビジネスモデルも電通と同様だ。
「電通と博報堂は広告枠の買い付けだけでなく、自社メディアやコンテンツも持っているので、広告業界全体に圧倒的な影響力を持っている。これがマーケターにとって課題となっています」とポール氏。
また同氏は、日本を「ブラジルやロシアと並ぶ、世界で最も不透明な広告市場の1つ」とし、「広告代理店がどのように予算を使い分けているのか、マーケターが完全に把握することは難しい」と述べる。
IPGメディアブランズジャパンのCEOであるアンソニー・プラント氏は、「この不正行為のために広告業界全体、そして業界の各企業がイメージを損なうようなことがあってはならない」と懸念する。
一方で、「電通の立場だけが業界で特別だとは思えない」と指摘する業界関係者もいる。
いずれにせよ、7月にデジタル専門のグループ会社・電通デジタルを立ち上げたばかりの電通にとって、今回の疑惑は大きな痛手となろう。この6月、電通デジタルのCEOである大山俊哉氏はCampaignのインタビューで、デジタル事業を電通の従来型ビジネスから切り離して分社化した理由の1つは、「テレビ広告に強く、売上高の大部分がそこからもたらされる電通に対して、『意識的にテレビ広告に偏った提案をしているのでは』という疑念をクライアントがもちやすいから」と述べている。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)
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