Ryoko Tasaki
2020年6月19日

世界マーケティング短信:アスリートの発信力

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

トミー・スミス選手(中央)とジョン・カーロス選手(右)が描かれた壁画。両選手は1968年のメキシコシティー五輪で、黒い手袋をはめた拳を突き上げて人種差別に抗議した(Getty Images)
トミー・スミス選手(中央)とジョン・カーロス選手(右)が描かれた壁画。両選手は1968年のメキシコシティー五輪で、黒い手袋をはめた拳を突き上げて人種差別に抗議した(Getty Images)

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。

アスリートの抗議禁止、東京2020大会から一部容認か

オリンピックではいかなる種類の政治的、宗教的、人種的な宣伝活動は認められていない。だが国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は先週、複数の競技団体と協議中であることを明かし、平和的な抗議活動を認める可能性を示唆した。IOCは1月に、オリンピック憲章第50条に関するガイドラインを発表、膝をついたり拳を上げるといった具体的なジェスチャーを挙げ、これを東京2020大会から禁止すると明文化している。

キン・パートナーズのマネージングディレクター、サイモン・オリベイラ氏はPRウィークの取材に応じ、この流れは「もはや制御できない雪崩」と表現した。「特に多くのアスリートたちが人種差別に反対していると声を上げる中で、IOCが非常に厳しいアプローチを続ければ、この問題に無関心だとみられてしまうリスクがあります」

米ミネアポリスでの黒人暴行死事件をきっかけに、さまざまなアスリートが差別反対を表明しているが、大坂なおみ選手(テニス)もこの話題を積極的に取り上げたところ「アスリートは政治に関わるべきではなく、ただ楽しませればいい」といった批判を受けたという。同選手はツイッターで「これは人権の問題」と述べ、「その理論だと、イケアで働く人はグローンリード(イケアのソファー)についてしか話してはならないことになるのか?」と反論している。

 

広島平和記念資料館、D&AD賞イエローペンシルを獲得

D&AD賞の広告/デザイン/カルチャー分野が16日に発表された。イエローペンシル(最高賞)を2つ獲得したのは、FCBインドによる「懲罰信号(The Punishing Signal)」。ムンバイ警察が騒音問題の解決のため、クラクションを鳴らして騒音が85デシベル以上になると、赤信号の待ち時間が延長される信号を設置したものだ。

日本からは、丹青社が手掛けた広島平和記念資料館のリニューアルが、イエローペンシル(空間デザイン)を獲得。一瞬で街が破壊された様子を再現するため、市街地のジオラマに原爆投下時のCG映像を投影するなど、最新の演出技術を活用した展示となった。ペンシル獲得数は、アジア太平洋地域では日本がトップ(18作品)。同地域の受賞作品一覧はこちらから。

 

ユニリーバ、2039年までに全製品のゼロエミッション達成を目指す

ユニリーバは、同社製品から生じる温室効果ガスの排出量を、2039年までに実質ゼロにする目標を掲げ、取り組みを開始した。パリ協定で定められた目標期限(2050年)を10年以上前倒しで達成することを目指す。「気候&自然基金(Climate & Nature Fund)」を創設し、約11億米ドルを投資する。

アラン・ジョープCEOは、「世界中が新型コロナウイルスの世界的大流行による甚大な影響に対策を講じながら、不平等が生む深刻な問題に取り組んでいる間も、この気候危機は私たち全員にとって脅威であり続けていることを忘れてはなりません」とコメント。「気候危機が環境面における非常事態であるだけでなく、私たちの生命や暮らしに甚大な影響を与えるものであることも認識する必要があります」

 

子どもをネットリスクから守る

全裸のポルノ俳優がある日突然訪ねてきて、「お宅のお子さんが、私のサイトを見ていたので…」と告げる。二人は「大人に向けて演じているけれど、息子さんはまだ幼いので、現実の恋愛関係について知らないかと思って。(動画内では)合意を得ることについて話さず、すぐに本番に入ってしまうから」「現実ではそんなこと、したことないけどね」と玄関先で話し出す――。

これは、子どもたちがオンライン上で遭遇するリスクを、重要なポイントを盛り込みつつもユーモラスに描いた、ニュージーランド政府のキャンペーン「Keep It Real Online」だ。他にも、「娘さんの友人」「自分は13歳」と主張する性的搾取者や、ネットいじめの被害者、暴力的な映像に切り替わってしまった子どものエピソードも公開されている。激高することなく、落ち着いた態度で話し合うことを決める保護者たちの姿も参考になる。

サイトには、それぞれのリスクの問題点や対処方法、子どもと話し合う際に考慮すべきポイント、どこに通報すればよいか(ニュージーランド国内の通報先ではあるが)といった情報もまとめられている。

(文:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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