アジア人クリエイターもグローバルに活躍できる
オグルヴィがグローバル・チーフ・クリエイティブ・オフィサーとして、ピユシュ・パンディー氏を任命した。このポストは今年7月、タム・カイメン氏の突然の解雇によって空いたもの。パンディー氏はオグルヴィ(南アジア)で長くキャリアを積み、インド事業を牽引。同グループにおいてクリエイティブが高く評価される礎を築いた。2006年に、ワールドワイドの役員に就任している。
ニュースの視点:
西洋諸国の広告会社は、アジアの人材をグローバルな役職に昇進させていないと非難されることが多い。この批判はもっともで、アジア駐在の「年季が明けた」欧米人社員は、出世の見込みが非常に高くなるものだ。だが一方で、パンディー氏の昇進、そして前任のタム氏(2009年にアジア人として初めてワールドワイドのクリエイティブのトップに就任)は、適性(と英語力)があれば昇進が可能であることを証明している。また老練なパンディー氏の就任は、創造性やエージェンシーへの貢献度において年齢は無関係だということを示している。
S4キャピタル、買収でさらに成長
マーティン・ソレル卿が率いるS4キャピタルは、プログラマティック・マーケティング・サービス会社マイティハイブ(Mighty Hive)を1.5億米ドルで買収する。メディアモンクス(MediaMonks)に続く、2件目の買収だ。ソレル氏はプレスリリース内で、興した当初は「ピーナッツ」のように小さかったS4キャピタルが、今回の買収によって「ココナッツ」くらいの大きさに成長し、今後もさらに成長していくとコメントしている。デジタルマーケティング事業のインハウス化(内製化)を支援するマイティハイブを率いるのは、元グーグル事業開発責任者のピーター・キム氏。「われわれはメディアコンサルタントの新種」と謳い、データ戦略や分析のみならず、メディア運営や研修サービスも提供している。
ニュースの視点:
今回の買収により、マイティハイブはグローバル規模な事業拡大が可能となるだろう。またソレル氏は現在、自身も身を置いていた広告界の旧態依然としたビジネスモデルを破壊しようと努めており、これを推進するための企業買収は今後も続くだろう。WPPのメディアバイイング部門であるグループエム(GroupM)は最近発表した業績予想の中で、同社にとってインハウス化の潮流は「脅威」だとしている。一方、WPP全体としてはインハウス化を大きな脅威と見なしておらず、対照的だ。
クリエイティブ企業のメンタルヘルス
豪州のクリエイティブ業界の約3分の2に、うつの症状がみられるという。同国で初となる、精神疾患に関する大々的な調査で明らかになった。Never Not Creative、Everymind、UnLtdの3団体が8~9月、1,800名に聞き取り調査を実施したところ、広告会社などに勤務する「クリエイティブ業界」の61%に、うつの症状がみられた。マーケティング業界は53%、メディア業界は46%。豪州全体の平均は36%である。
ニュースの視点:
これは豪州特有の問題ではない。この業界のプレッシャーは、大きな損失をもたらしている。以前もCampaignで指摘したように、より多くの企業がこの問題に真摯に取り組み、精神疾患に苦しむ人々を、たとえ軽微であっても(多くの場合はそうだが)しっかりサポートする体制の構築が必要だ。
アップル社の異例の戦略
アップルがアイフォーンの販売促進のため、割引プロモーションの広告を米国内で開始したとブルームバーグが報じた。また、マーケティング部門の配置換えを行ったことにも触れ、最新機種の販売の鈍化を示唆している。
ニュースの視点:
「プレミアム」であることを訴求し続けてきたアップル社が、このような対応をとるのは異例のことだ。さらに同社は今後、投資家に向けたアイフォーンの販売台数の公表も取りやめることが明らかになり、スマートフォンの競争環境が変化しつつあることを示唆している。もしアップル社が今後、アイフォーン事業のさらなる拡大を望むならば、開発途上市場で廉価モデルを積極的に展開することも視野に入れるべきだろう。ハイエンドなポジショニングの維持と、平均的な市民にとって手が届く商品の提供をいかに両立できるかが、ブランドや広告の視点からみた課題となるだろう。
従来型の広告媒体で成長中なのは、屋外広告のみ
マグナ社が発表した世界の広告市場予測の最新版では、来年は世界全体で+4.7%、アジア太平洋地域では+7.2%の成長が見込まれている。成長を牽引するのはソーシャル、モバイル、動画で、この点については予想通りだろう。だが、従来型広告の中で唯一、成長傾向にあるのは屋外広告(+2.4%)だったことは興味深い。
ニュースの視点:
屋外広告は「魅惑の」広告媒体とは言いがたく、話題に上ることも決して多くはない。だがイノベーションの余地は多く残されている。デジタル化により、屋外広告でのプログラマティックバイイングも可能となるだろう。屋外広告のメッセージとパーソナル機器との連携など、パーソナライゼーションの可能性も秘めている。来年以降、屋外広告の領域でさらなる進化が見られることを期待したい。
音声アシスタントはなぜ「女性」なのか?
音声アシスタントの声の性別に関して、3分の2以上の人々は気にかけないという。だが科学が別の角度からアプローチを図った。英国で、マインドシェア社とニューロマーケティングを専門とするニューロインサイト(Neuro-Insight)社がデジタル化された男女の音声に対する潜在意識的反応を調査。使われたのは男女2種類の声を持つ「アレクサ(Alexa)」だ。対象となったのは105人の人々で、それぞれの声が脳にどれだけ肯定的な反応を示すかを調べた。その結果、35歳以下の人々は「女性の声の方がより親しみやすく、説得力がある」。対照的に、35歳以上の人々は「女性の声の方が親しみやすいが、男性の声の方がより説得力がある」という結果だった。
ニュースの視点:
研究者は、世代によって権力者に対する意識の差が表れていると指摘する。年長世代は男性の声の方がより権威的と受け取ったのだろう。これに比べ、若い世代はより多くの要職にある女性を見て育ってきたため、女性の声に肯定的反応を示した。親しみやすさに対する感覚は重要だ。「端的に言えば、次世代の若者とコミュニケーションを図る際には女性の声を使った方がいいという、明白な心理的要因がある」と研究者。だが、例えば「年長のドライバーに向けてナビゲーションシステムを作る際などには、男性の声はまだ重要な役割を果たす」とも。もし日本で同じような調査が行われたとしたら、非常に興味深いのではないか。日本では男性の自動音声はほぼ皆無だからだ。果たして男性の声の居場所はあるのだろうか?
今週の更なる動向:
グーグルがアジア太平洋地域の新たな社長を探している。同社で11年間勤めてきた現職のカリム・テムサマニ氏が社を離れるからだ。同氏が次に何をするのかは定かではない。同氏は日本を含め、この地域におけるグーグルの成長に重要な役割を果たしてきた。日本にも3年半住んでいたことがある。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子、水野龍哉)
来週のニュースレターの発行は、お休みさせていただきます。