ソレル卿、時代をさかのぼる考えを明らかに
S4キャピタル設立者のマーティン・ソレル卿が、アドバタイジング・ウィーク・ヨーロッパ(3月18~21日開催)で講演。クリエイティブとメディアの機能を再びまとめ、「1990年代にさかのぼる」ことを計画していると語った。これまでもクリエイティブとメディアの間に明確な区別が無かった日本の広告会社に勤める人々にとっては、目新しい話ではないだろう。だが欧米の広告会社では、ジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT)とオグルヴィのメディア部門が統合されマインドシェアが設立された1997年以降、クリエイティブとメディアの間には大きな断絶があったのだ。
総合広告会社に戻るという発想を、WPP在任中のソレル卿は断固否定していた。氏の「練り歯みがきは既にチューブから出てしまった(the toothpaste is out of the tube)」というフレーズは有名である。究極的にはクリエイティブ業務よりもメディア業務が重要であり、両者は分かれている方がよいと信じている、と語っていたのだ。
同氏が提唱する新しいアプローチは、その妥協案のようなものだ。「メディアとクリエイティブを分離するのではなく、我々はデジタルクリエイティブとメディアを再び統合しようとしているのです」。これは、まさにクライアントが望んでいることだ。クライアント側企業が過去半年間、最も不満を募らせてきたのはスピードの遅さであるからだ。また「コンテンツとメディアの間の領域に、多大な関心が集まっている」とも。
S4キャピタルは伝統的なメディアにとらわれることなくデジタルサービスに注力し、買収企業の統合にも努めていくことを明らかにした。「一つの統一ブランドを作ることは簡単ではありませんが、重要だと私は考えています」と同氏。「6つの持株会社と、あとはアクセンチュアとデロイトも、同じ罠に陥ろうとしています。その罠とは、小さな企業をいくつも買って、それらを別々に保つことができると考えることです。でもそんなことはできません。効果的に機能しないのです」
「最も悩ましいのはクリエイティブ」
ソレル卿の発言を裏付けるかのようなコメントが、ボーダフォンのグローバルブランドディレクター、サラ・マーティンス・デ・オリベイラ氏からも得られた。同氏はロンドンでCampaignのインタビューに応じ、メディアバイイング機能のインハウス化(内製化)は同社にとって非常に効果的であったと語った。ほとんどのメディアが5年以内に入札可能になり、仲介役(例えばメディアエージェンシー)の必要性が低くなると同氏は予想している。だが足を引っ張っているのはクリエイティブで、これが「最も悩ましいこと」なのだとか。
「『適切な人に、適切なタイミングで、適切なメッセージを届けたい』という究極の目的については、適切なデータを使ってターゲットを特定し、分析を用いて適切なタイミングを計ることができます。しかし、適切なメッセージについてはどうでしょうか? 規模が大きく、最適化されており、なおかつ迅速なデジタルクリエイティブは一体どこにあるのか。エージェンシーからは、まだその明確な答えを得ていません」
NZ銃乱射事件で、フェイスブックとグーグルに新たな非難
クライストチャーチのモスクで起きた銃乱射事件で容疑者の男が銃撃の様子をライブストリーミングしていたことを受け、銀行やファストフード業界のブランドがフェイスブックとグーグルから広告を撤回した。これら広告主はニュージーランド広告主協会やコマーシャル・コミュニケーション・カウンシルなどと足並みを揃え、ソーシャルメディアを運営する企業にヘイトコンテンツの拡散を止めるよう要請。この事件はグーグルとフェイスブックが自らのプラットフォームを効率的に監視できないのか、あるいはその意志がないのかという議論に火を付けている。
テレビにも適用される「ビューアビリティ」
テレビ広告は正確な効果測定が難しく、これまでオンラインメディアに向けられるような批評を受けることはほとんどなかったが、それも変わるかもしれない。米アドエイジ(Ad Age)誌によれば、IPGメディアラボの調査でテレビ広告の30%は視聴者に見られていないことが分かった。この調査は半年にわたる家庭の視聴行動を分析したもので、その結果はさして驚くようなものではなかった。コマーシャルが流れる間、視聴者が席を離れたりほかのチャンネルを見るだろうということは容易に想像がつく。だがそれを裏付ける統計が出たことで、テレビを安全な選択肢として信頼してきたマーケターもアプローチの再考を求められるだろう。
オンライン動画を見た視聴者に報酬を
サム・ジョーンズ氏(レッドブルの元グローバルブランドマネージャー)は、ネットユーザーのデータと引き換えに彼らに少額の支払いをすることで、表示される広告をより細かく制御できるようにしたいと考えている。その仕組みはというと、まずユーザーは「ジェネレート(Gener8)」のサービスを、ブラウザに追加。興味のある広告の種類を選ぶと、その見返りとして広告主が、現金への換金や慈善活動への寄付に使えるトークンを与えるというもの。オンライン広告への信頼感を高めること、そしてユーザーと広告主の間にあるデータの不平等性を是正することが、ジョーンズ氏のねらいだ。一般的なユーザーが受け取る額は、一カ月あたり20~40ポンド(約3千~6千円)になる見込み。
広告を見た人々に適切な報酬を支払い(単により多くの広告を配信するのではなく)、そしてある程度のコントロールを取り戻そうという、正しい方向への一歩といえよう。だが一方で、個人データがどのように使用されるのかが分からないという問題を、完全には解決されていないようだ。
英EU離脱を覆そうと、パロディー動画に最後の望みを託す
EU離脱(ブレグジット)の期限が迫る中、英国民による再投票を主張する「People’s Vote(人民の投票)」運動が今週、動画を公開した。動画は、バハマの離島で豪華な音楽フェスが開催されるとして華々しいプロモーションが行われたものの当日キャンセルとなり、主催者が詐欺で逮捕された「ファイア・フェスティバル(Fyre Festival)」のパロディー。「誇大宣伝で実行不可能。ブレグジットはばかげている」との文言で締めくくられている。もう遅すぎるのかもしれないし、影響は小さいかもしれない。だがこの段階においては、何であっても試してみる価値がある。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子、水野龍哉)