Ryoko Tasaki
2020年4月17日

世界マーケティング短信:危機の中で際立つ存在感

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。
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信頼できるニュースメディアを見極めて

広告主が新型コロナウイルス関連のキーワードをブロックすることで、信頼できるニュースメディアの収入源が脅かされていることを以前お伝えした。このたびガムガム(GumGum)が実施した調査では、新型コロナウイルスに関連するコンテンツの多くが安全であることが明らかになった。同社の人工知能が「コロナウイルス」「COVID-19」「検疫」などのキーワードを1つ以上含む約285万ものサイトを検証したところ、62%が安全であった。ウイルス関連の記事の横に掲載される広告に対し、9割もの読者が好意的あるいは中立的にとらえているともいわれる。

広告主による広告ブロックで、英国のニュースブランドの損失は今後3カ月間で5千万ポンド(約67億円)になると予測され、この危機を乗り越えるための正しい情報を届ける質の高いジャーナリズムを維持できなくなってしまう、ブロックリストから「コロナウイルス」を外してほしい――広告主に宛てたこのような公開書簡が今月初め、英国内のさまざまなニュースメディアに掲載された。ニュースワークス(Newsworks)やニュースメディア各社、IAB(インタラクティブ広告協議会)は連携して、ジャーナリズムを支援するよう広告主に訴求する#BackdontBlockキャンペーンを展開する。

オゾンプロジェクトのデーモン・リーブCEOは、信頼できる高品質なメディアをブロックすると、未知のニッチなコンテンツに意図せず広告を載せることになり、皮肉なことに広告主にも大きなリスクをもたらすと指摘する。また「キーワードを幅広くブロックすると、キャンペーンの規模を縮小してしまう」と語るのは、インテグラル・アド・サイエンスのマネージングディレクター、ニック・モーリー氏。ウイルスによる死者数を報じる記事でなく、自宅待機中の過ごし方のコツといった中立的あるいはポジティブなコンテンツの近くに掲載されるよう的確に選ぶべきだと語る。

人々はいま、何に不安を感じているのか?

マッキャンが世界14カ国で約1万4千人を対象に実施した調査(実施期間は3月23~30日)によると、メディアが不要にパニックを煽っていると感じている人は31%であった。第1回調査(3月12~22日)では42%が同様の回答をしており、わずか2週間ほどで11ポイント減ったこととなる。

「感染拡大について不安を感じているか」という質問に対して、全体で67%(前回53%)、日本は64%(前回51%)と増加傾向だ。特にチリ(前回34%→今回74%)や、ここ最近急激に増えている英国(前回40%→今回71%)や米国(前回34%→今回57%)で、不安感が高まった。なお、病気以外のことで懸念していることとして、失業することやお金に困ることと回答した人の割合がもっとも高かったのは日本。グローバル平均が26%なのに対し、日本は38%であった。

ちなみにマッキャンエリクソンが3月18~19日に “日本の気分”を調査したところ、感染症流行に対する日本社会の反応は「過剰すぎ(36.6%)」「適切(29.9%)」「もっと厳重に(33.5%)」と、回答がほぼ3等分で分かれた。また、企業は自粛ムードになるべきかという質問に対し、「なるべき」と回答した人の割合が最も高かったのは16~19歳で、年齢層が上になるほど「ならなくてよい」の割合が高くなった。緊急事態宣言の発令(4月7日)を受けて、人々の危機意識もまた大きく変化している可能性がある。

新型コロナはM&Aに影響を与えるか

M&Aのコンサルティングを行うSIパートナーズが昨年下半期、クリエイティブ、メディア、テクノロジー企業で意思決定権を持つ300名を対象に調査したところ、東南アジアでのM&Aを望む企業は61%に上ったという。その後、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るうこととなったが、M&Aにはどのような影響があったのか。同社のディレクター、八ティー・マースデン氏によると、3月は長期的な視野に立ったM&Aよりも、目前の事業継続を優先する企業が多かったとのこと。だが4月に入ると業界ごとの特性や、買収のどのプロセスにあるかによって、異なる動きを見せつつあるという。

クリエイティブやコミュニケーション領域の案件は短期的に縮小しているが、デジタルトランスフォーメーションやコマース領域へのアプローチが目立つという。また、プロセスの減速や縮小は見られるものの、多くの企業はリストアップや絞り込みを積極的に行っている。特に管理職の出張が減ったため、より多くの時間を充てられるようになった。「今年の下半期は忙しくなると予測し、備えているプライベートエクイティも多く見られます」とマースデン氏。「危機の時期に強さと安定感を発揮した企業は、リスクの少ない投資先として注目されています」

レヴィ氏、わずか3カ月でWeWorkを去る

昨年11月に米シェアオフィス大手ウィーワーク(WeWork)の暫定チーフ・マーケティング・アンド・コミュニケーション・オフィサーに就任したモーリス・レヴィ氏(前ピュブリシスグループCEO)が2月末、わずか3カ月で退いた。後任については発表されていないが、2月にCEOとしてサンディープ・マスラニ氏を、その2週間後にはチーフ・コミュニケーション・オフィサーとしてマリッサ・ショレンスタイン氏を指名している。

モーリス・レヴィ氏

フジテレビ「FOD」、パートナーにマイティハイブ

フジテレビジョンは、動画配信サービス「FOD」のデータ戦略パートナーとしてマイティハイブ(MightyHive)を選定した。FODは、地上波で放送した番組や過去の作品、オリジナルドラマなどを配信している。今回のパートナーシップによりマイティハイブは、複数のサービスチャネルにわたるデータ統合とインサイトに焦点をあてたユーザー体験、マーケティング活動の効率性を向上させるデータ戦略の開発をサポートする。

(文:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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