「涙のCEO」が呼んだ波紋
米エージェンシー「ハイパーソーシャル」のCEO、ブレイデン・ウォレイク氏のソーシャルメディアへの投稿が物議を醸している。同氏は今年2月、数名の従業員を解雇。その「辛い決断」について、涙ながらに語る自撮り動画をリンクトインに掲載した。
「このように情けない自分の姿を皆さんにお見せすることは、今後一切ないでしょう。(中略)彼らを解雇したことは今も私の心に重くのしかかっています。その責任は全て私にあるのですから……」
投稿ではさらにこのように綴る。「全てのCEOが冷徹で、従業員を簡単に切り捨てる人間ではないことを知ってほしかった。従業員を愛している、と公言するのは(経営の)プロではないでしょう。でも、その事実を改めて知ってもらいたかったのです」
この投稿には2万7000の「いいね」と4000のコメントが寄せられた。だが大方の意見は、「嘘臭い」「偽善的」。そこでウォレイク氏はリンクトインに再投稿、「自分を宣伝したり、私に同情してもらうために先の動画を投稿したのではありません。多くの誤解を招いたことはとても残念」と釈明した。さらに、「失職した人々を支援するために、ネットワーク作りのサイトを近々始めたい」とも。
同氏はPRWeekに対しこう語った。「最初の投稿には批判もありました。しかし、多くの経営者の方々から励ましの声もいただいた。ネガティブな意見にもしっかり応えようと、2度目の投稿をしたのです」
だが、PRのプロたちの意見は依然否定的だ。CVSヘルスの元チーフコミュニケーションオフィサー、キム・ホワイト氏は、「わざとらしい上っ面だけのパフォーマンス。自分に甘えているだけ」と手厳しい。またデジタルエージェンシー「スウェイ・グループ」CEOのダニエル・ワイリー氏は、「自分の弱みをさらけ出すようなセルフィーは否定しない。でも、過剰に演出されている投稿には我慢できません」。さらにSDBコミュニケーションのオーナー、ステファン・ボンシニョーレ氏曰く、「動画からは誠実さや信用性が全く感じられない」
散々の評価だが、果たしてあなたはどう捉えるだろう。
サムスン、BTSでグローバルキャンペーンを開始
サムスンとBTSの蜜月は続く。今月末に世界で発売予定の同社最新スマートフォン「ギャラクシーZフリップ4」。そのグローバルキャンペーンの一環として、サムスンはBTSの音楽ビデオを制作した。
このビデオはOOH(アウト・オブ・ホーム、屋外)広告として、ニューヨークのタイムズスクエアやロンドンのピカデリーサーカスといった世界に名の通る繁華街で公開が始まった。特にタイムズスクエアでは15ものビルボードスクリーンを1時間にわたって占有する力の入れよう。東京やソウルの繁華街でも随時公開予定だ。
モンデリーズの「うま味」を味わうピュブリシス
世界有数の食品・飲料会社モンデリーズが4年振りにグローバルメディア戦略を見直し、ピュブリシスグループが大きな恩恵を受けることになった。
チョコレートの「キャドバリー」やクッキーの「オレオ」で知られるモンデリーズは、世界有数の広告主としても知られる。今回見直しの対象となったメディア事業予算は総額16億米ドル。その約7割を勝ち取ったのがピュブリシスだ。ピュブリシスは英国やフランス、ドイツといった主要市場を含む欧州全域を獲得。さらに南米、中東、北アフリカ諸国、南アフリカ、中国でも事業を牽引する。さらに北米ではテレビCFなどの従来型メディアコンテンツ、多文化向けコミュニケーションも。
他のエージェンシーではWPPが東南アジア、インド、オーストラリア、ニュージーランド、日本での事業を獲得。またバイナーメディアがこれまで通り、北米のコミュニケーションプランニングとデジタルバイイングを担っていく。これまで英国やイタリアの事業を任されていた電通インターナショナル(カラ)は、早期の段階でピッチから撤退した模様だ。
エデルマン、スタンダード銀行と決別
世界最大のPR会社エデルマンが、アフリカ最大の銀行スタンダード・バンク・グループとのパートナーシップを来年1月から解消する。両社は3年間にわたり緊密な取引関係にあった。
消息筋によると、解消の主因となったのはスタンダード銀行が融資を進める化石燃料拡大事業「東アフリカ原油パイプライン(EACOP)」。この融資には日本の三井住友銀行も加わっている。
EACOPは来年着工予定で、全長1443㎞。日量21万6000バレルの原油をウガンダからタンザニアまで輸送する計画だ。だが、複数の国際環境NGOが深刻な環境破壊や周辺住民への人権侵害を訴える。その1つ「ストップEACOP」によれば、同パイプラインは年間3400万トンの二酸化炭素を排出し、両国の環境保護区や生態系への影響、周辺住民の強制移住などもたらす被害は計り知れないという。
エデルマンに対しては近年、グリーンウォッシングを続ける化石燃料企業との取引をやめるようNGOなどから強い批判が出ていた。それを受け、同社は昨年11月に開かれた国際気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の直後、新たな指針を発表。「エデルマン・インパクト」としてESG(環境・社会・ガバナンス)の促進を公約した。
EACOPとスタンダード・バンクのPR及びレピュテーションマネジメントを中止することで、エデルマンは公約を一応守った形だ。だが遅きに失する感は否めず、「企業の不正を許さない断固とした方針を貫く」(同社・気候変動対策グローバル責任者ロバート・カサメント氏)のかどうか、この案件だけで判断するのは時期尚早。同社の今後の発表と合わせ、環境NGOなどの報告書を注視していく必要があろう。
お知らせ:来週の「世界マーケティング短信」はお休みさせていただきます。
(文:水野龍哉)