Campaign Japan
2019年1月17日

世界マーケティング通信:変革するオールドメディア

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

世界マーケティング通信:変革するオールドメディア

ようやくOOHが面白くなってきた

長い間、イノベーションがほとんど見られなかったアウト・オブ・ホーム(自宅以外の場所で見られる広告のこと)が、変わりつつある。その例として今週、電通とNTTドコモが50億円を出資し、デジタルOOH広告事業を行う新会社「LIVE BOARD」を設立した。屋外広告とスマートフォンを連動させた、インプレッションに基づくバイイングが、日本でもようやく可能となったわけだ。ドコモが保有するデータによって広告主は、ある要件を満たすターゲットが、特定の日時に広告掲載場所のそばに何人いるのかを、視覚的に把握できるようになるだろう。この新会社がどの程度の成果を出すかは不明だが、「オールドメディア」がより科学的なものへと変革していく姿は励みになる。ただし、重要なことが一つある。世界中のあらゆるターゲティング能力も、配信される広告自体が好かれるものでなければ意味をなさないという点だ。

堅調に推移するラジオ

デロイトの予測によると、ラジオの収益は全世界で420億米ドル弱にまで成長する見込みだという。世界中で毎週30億人がラジオを聴取し、これは昨年から1%増なのだとか。1世紀近くの歴史を持つメディアとしては、悪くない数字だろう。デロイトでテクノロジー・メディア・通信領域のリサーチのグローバル責任者を務めるポール・リー氏は、広告プラットフォームとしてのラジオの影響力を、多くの人が過小評価していると語る。「テレビやストリーミングが『ラジオ・スターを殺した』なんていう歌もありましたが、それは事実ではありません。ラジオは今後数年間、広告キャンペーンにおいて必要不可欠な存在であり続けるでしょう。デジタルがすべてを変えると言われていますが、ラジオは例外かもしれません」

男女共同参画を前進させるWPP

ブルームバーグが「2019年男女平等指数」を発表、10業種の合計230社が選定された。この指数は、企業の男女平等の推進を行動指針、統計、コミュニティーへの関与、商品・サービスの面で評価したもの。マーケティングサービスの事業社で選ばれたのは、WPPのみであった。

この業界から選定された企業があったことは明るい兆しではあるが、1社しか無かったことは非常に残念だ。課題は山積している。今回選ばれたWPPも、現状で満足とはいえないだろう。

楽しい時間が一転

電通イージス・ネットワーク(DAN)のインドネシア社員が8月、ジャカルタ近郊で開催された社外イベントで死亡していた。Campaignが今週、突き止めた。アイソバーの社員は死亡する前夜、同僚たちと酒を飲むゲームをしていたことが分かっている。

この事件が投げかけるのは、社交の場において社員たちが自分の身を守るよう促す責任を、会社はどこまで負うべきかという疑問だ。酒は人間関係の潤滑油といわれるが、健康や責任への関心が高いこのご時世、仕事に関連したいかなる状況においても飲酒ゲームのようなものを正当化するのは困難だろう。

マーケティング担当者を悩ませるBrexit

英国のマーケティング支出は過去6年間、着実に伸びてきたが、その上昇傾向も国の将来への懸念から昨年末に終わったようだと、IPA(英国の広告業協会)の調査で明らかになった。マーケターの16.4%が第4半期の予算を増やしたが、予算を減らした人数も同じ程度いた。合意なきEU離脱(最も恐れられているシナリオ)となった場合は広告市場が3%縮小し、特にテレビが大きな影響を受けるだろう、とエンダースアナリシス(Enders Analysis、調査会社)は推測。それでも、世界金融危機を受けて13%縮小した2009年よりは、打撃は小さくなりそうだ。

ジレット、#MeToo運動に参入

P&Gのブランド、ジレットによる「有害な男らしさ(toxic masculinity)」を扱ったCMが、米国で物議を醸している。「We Believe(私たちは信じている)」と題されたキャンペーンでは、男性らしさとして容認されてきた攻撃的な態度を批判し、もっと良い行いをしようと呼びかけている。ジレットは30年にわたり「男が得ることができるベスト(The best a man can get)」というタグラインを使ってきたが、これを今回のCMでは「これが男性にできるベストなのだろうか?(Is this the best a man can get?)」に置き換え、視聴者に問いかける。このCMがオンライン上で議論を呼び、中には「うんざりする」「すべての男性のイメージを損なう」などと反論する声も。

この作品からは、リスクを冒すことに前向きなP&Gの姿勢が伺える。作品によって一部の人を傷つけるかもしれないが、ブランドと深いつながりのある社会課題に、人々の関心を引く知的な方法だと捉えることができるだろう。特にジレットの事業は現在、大きな課題に直面している。ひげを生やす男性が増え、もっと低価格でイノベーティブな競合商品も出てきている。従来の「男らしさ」を訴求しても、潜在顧客には共感してもらえない。このような文脈では、今回ジレットがリスクを冒したのも納得がいく。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)

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