「#MeToo」旋風、インド広告界でも巻き起こる
世界的なセクハラ告発運動「#MeToo」が今週、インド広告界でも突如として巻き起こった。7社(電通ウェブチャットニー、アイプロスペクト、ハッピー・マクギャリーボウエン、ピュブリシス、クリエイティブランド・アジア、フェイマス・イノベーションズ、DDBマドラ)の上役たちが、セクハラをSNS上で告発されたのだ。
電通ウェブチャットニーによると、告発された社員への調査を行った後、既に解雇している。電通イージス・ネットワーク(DAN)はハッピー・マクギャリーボウエンでのセクハラについて、事件は買収よりも前の2016年に発生したものであり、DANは最近になって認識したばかりであると説明。アイプロスペクトは、今回告発された疑惑について直ちに調査を行うと述べた。Campaignとカンターが昨年実施した調査によると、インドでメディアやマーケティングに従事する女性のうち44%が、職場でのセクハラを経験しているという。だが同国は他のアジア諸国と比較すると、セクハラ被害者が声をあげにくい環境でもある。
ニュースの視点:
「#MeToo」の影響はこれまで、アジアの広告界には大きな影響を及ぼしてこなかった。だが、インドや他のマーケットで「自分もハラスメントの被害を受けていた」と考える人たちが一歩踏み出せるよう、勇気づけることだろう。ハッピー・マクギャリーボウエンの件については、買収前にこのような不祥事が起きていたことを、なぜDANは把握できなかったのか、という疑問を投げ掛ける。買収先の企業文化についてもっとよく見極め、買収後に風評リスクとなり得るような要素は無いか、注意を払う必要があるのではないか。
WPP、主要クライアントを奪われる
フォードは何十年も間、WPPの主要クライアントの一つであった。だが、同社のアカウントがBBDOへと移った。フォードの案件でWPPは約7億ドルを売り上げ、世界中で3,500人もの人材を雇用してきた。メディア、制作、CRM、デジタルといった一部の仕事は、引き続きWPPが担っていく。
ニュースの視点:
広告主側によるコストカットや、制作のインハウス(社内)化、バラエティーに富んだ広告が求められる流れの中で、広告主と広告会社が長い間構築してきた関係性が徐々に崩れ始めている。広告主はよりシンプルで一貫性のある広告を求めている一方で、アカウントをより多くのエージェンシーに分担させており、今はまさに混迷のさなかだ。
アカウントを失ったことはWPPにとって痛手だが、成長著しい分野の仕事に今後も携わっていける点はまだ救われる、と語るのはニューヨークのアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏。今回の件でWPPの収益は約1%低下すると、同氏はみている。
電通イージス・ネットワーク、ユナイテッドとインテルを獲得
広告ビジネスでは今週、もう一つ大きな動きがあった。電通イージス・ネットワーク(DAN)が、グローバルで3億ドルの規模を誇るインテルのアカウントを獲得したのだ。DAN傘下のカラ、マークル、アムネットによって構成される「チーム・インテル」が担当していく。これまではOMD(オムニコム傘下)が携わってきた。
他にも、カラとマークルによる「電通チーム」が、ユナイテッド航空のグローバルメディア案件もWPPから獲得。フォードの案件と同様に、ユナイテッド航空についてもWPPは引き続き、制作に携わっていく。この案件は1000万ドル以上の価値とされている。
ニュースの視点:
DANが2016年にマークルを1.5億ドルで買収したことが、功を奏したようだ。グループ内のさまざまなエージェンシーブランドも、うまく統括できている様子がうかがえる。ユナイテッド航空の案件がDANへと移ったのは調達部門主導、つまりコストカットが主たる動機ではあったようだ。とはいえ、同社のクリエイティブ事業を既に手掛けているDANにとって、このアカウントの獲得は重要な意味を持つ。
ROI計測と貢献度の提示は、マーケターの頭痛の種
カンターが世界のマーケター460名に実施した調査によると、彼らを最も悩ませるのは、ROI(投資利益率)を計測して業績への貢献度を示すことであると明らかになった。オンラインデータとオフラインデータの接続、メディア投資の最適化、カスタムコンテンツの開発、予算縮小への対応、プログラマティックテクノロジーへの理解が、これに続く。調査からは他にも、広告効果の指標として「短期的な売上」を用いるマーケターが全体の4割に上ること、そしてその理由は「計測が比較的簡単なため」であることが明らかに。また、消費者インサイトの獲得に必要なすべてのデータにアクセス可能だと回答したのは、たったの7%であった。
ニュースの視点:
マーケターは可能な限り、短期的な売上と、長期的視野に立ったブランドへの影響の両方について考慮する必要がある。一方で、計測が不可能なものもあるのだという事実を、受け入れることも大切だ。リサーチ会社をはじめとする業界内のさまざまなプレーヤーが「あらゆるものは数字で説明できる」という考えに固執している限り、ROIも不十分であり続けるだろう。すべてを計測することなんて不可能だからだ。ブランド認知度には、無限ともいえる数の要素が複雑に絡み合っている。テクノロジーは目覚しく発展しているが、それでもマーケターがコントロールできる範疇を超えている。
オペラハウスへの広告投影に、豪州人が激怒
広告が我々に全方位から猛攻をかけてくる時代だからこそ、神聖な場所も残しておきたいもの。豪シドニーでは世界的に有名なオペラハウスの、船の帆を思わせる特徴的な屋根部分に競馬「エベレスト杯」の広告が投影され、物議を醸している。豪州ではこのニュースがテレビやSNSで連日流され、政治家も巻き込んだ論争へと発展。首相は、一つの広告媒体としてオペラハウスに広告を載せることは何もおかしくないと表明。しかしシドニー市長は、国家的なアイコンが「けばけばしく商品化」されたことに愕然とすると発言している。
ニュースの視点:
文化的な象徴を看板代わりに利用するのは見苦しいもの。これこそが、人々が広告を嫌う最大の理由と言ってよい。人々からの共感を得るために必要なのは緻密さや、文化への感度の鋭さであって、あらゆる機会に自分たちのことを声高に叫ぶことではないと、広告主はきちんと理解しておくべきではないだろうか。一方で、「あらゆる宣伝は、良い宣伝」という考え方をする人もいるだろう。メルボルン杯よりも知名度が劣っていたエベレスト杯だが、今回の件でその名を広く知られることとなった。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)