「大変なことになった」とパニックになって助けを求める声。よくクライアントから聞こえてくる声だが、大抵の場合、それはクライアントがオンラインで見た何かに関係している。批判的な投稿であったり、物議を醸しているオンラインニュースの記事であったり。ほとんどの場合に共通するのが、感情的な内容で、何かしら企業の不誠実さを問うものであるといった点だ。
ネット上の大きな怒りに直面すると、企業はよく、世の中全てを敵に回したような考え方に陥る。だが、我々がデジタル危機管理のワークショップでまずやることの一つが、怒りを生んでいる事態にきちんと向き合い、フィードバックを求める作業だ。なぜならば批判の声の主は、いつもこう言うからだ。我々が求めているのは真実と回答、そして解決策なのだ、と。
オンライン危機を生み出す怒りの本質を理解するうえで、まず最初に大事なのは「共感」。同様に大事なのが、オンライン危機管理でよく言われる5つの神話が嘘だと、見抜くことだ。
1 「大変なことになってしまった。オンラインでは何もかもが早く進み過ぎて、全てに対応などできない」
これに対するプロからのアドバイスは、オンライン危機管理と既存の危機管理は同じで、ステークホルダー(利害関係者)やきっかけ、シナリオを見極め、対策を練ることである。
コミュニケーションに関するどんな危機管理戦略であっても、最終目的は事態の収拾。企業はオフラインで言葉を交わす道を探り、求められていることを討議し、落ち着いて対応すべきなのだ。
ある企業の対応のまずさを非難する人たちのページが、Facebook上に作られた時のこと。我々は同社のシニアエグゼクティブに、このページの制作者にコンタクトを取るようアドバイスした。
彼は驚いていたが、そのアドバイス通りにしたところ、ページを作った人物が実際には穏やかな話し方の、分別ある人物であることが分かった。その人物はただ、友人たちが不当な扱いを受けていると感じ、それに対する補償を求めただけだったのだ。その後、急速に緊張関係は緩んだ。
2 「世界中が見ている」
オンライン上に誹謗中傷があふれるのは、どのクライアントにとっても恐ろしいもの。でも、落ち着こう。我々は、メディアが断片化・個人化されたマルチスクリーンの世界にいる。「常に批判的な人」といった、オンライン上のさまざまなタイプの人格を理解し、それに合った戦略を立てることが大切だ。いつどんな対応をするかを決める上でまず大事なのは、対応する相手が誰なのかを知ることなのだ。
怒りが実際にどんな影響を及ぼすのか、理解することが非常に重要だ。例えばオンライン上の不買の呼びかけが、実際の売り上げに影響する事はほとんどないかもしれない。むしろ人材採用や、既存の人材の引き留め(リテンション)に大きな影響を及ぼすことがある。
「世界中が見ている」、と考えるのではなく、「自分たちの周りの世界が見ている」と考えよう。そして、そこにどんな人たちがいるのかを知ろう。
3 「できるだけ迅速な対応を取らねばならない」
これはあまりにも単純すぎる考え方だ。既存メディアが話題の中心にあって、世論に影響を与えていた時代は、現在調査中である旨を説明する声明にも効果があった。しかし今や、いわゆる「荒らし」や「釣り」、怒りに満ちたネットユーザーが言葉の端々まで目を光らせており、少しでも不誠実さや偽善を嗅ぎ取ったなら、攻撃してくる。
大事なのは、批判や訴えへの対応が、事態の悪化にしかつながらないか見極めること。オンラインメディアとプラットフォームを研究・分析することが、今何が一番の問題なのかを理解する上で手助けとなる。
4 「危機の最中にライブ配信が許されるのは、スターCEOだけ」
ステークホルダーとつながる上で、ライブ配信は直接的で、費用対効果の高い手段。だが企業は、早急な対応が必要なのに、自社のトップが弁の立つ、口の達者な人でないと気付くとパニックになる。
何も問題が発生していない時から、経営陣がきちんとメディアで対応できるよう、計画と準備を進めておこう。大きな発表や何かのローンチ、フォーラムでのスピーチや、メディアを囲んでの円卓会議でもいい。オンライン上での存在をいったん確立すれば、誹謗中傷にさらされたときに神経質な態度で対応してしまっても、ステークホルダーは許してくれるだろうし、ネットでバッシングに遭っても味方になってくれる可能性が高まるだろう。
5 「従業員のネット上のふるまいが信用できない」
適切な関係性があれば、従業員は危機において最大の資産であることを、企業は覚えておくべきだ。簡単なオンライン上の行動規範を導入し、危機の際には従業員が常識を働かせてくれると信頼しよう。
不安は、理性的な判断を下す上での妨げになる、非常に厄介な感情だ。ネット上の問題に対応するプラン策定において一番良い方法は、自社の危機管理プランの「穴」を見極めること。オンラインエンゲージメントは長期にわたるプロセスであって、単発で終わるものではないということを頭に入れておこう。そして、問題が大きくなってきたときは、対応する上での姿勢とタイミングを適切に見極めて行動しよう。
(文:レイ・ルドウスキ 編集:田崎亮子)
レイ・ルドウスキは、エデルマンで危機管理を担当する地域ディレクター。香港を拠点とする。