David Blecken
2017年9月07日

広告代理店を脅かす、「こだわりの消費者」

もはやブランドが政治・社会問題に沈黙を貫くことは難しい時代だ。その姿勢が消費者行動を大きく左右することが分かった。

ユニリーバの石鹸「ライフブイ」によるプロジェクト「Help a child reach 5」は、目的主導型ブランディングの好例とされる。
ユニリーバの石鹸「ライフブイ」によるプロジェクト「Help a child reach 5」は、目的主導型ブランディングの好例とされる。

今週、エデルマンの「アーンドブランド(Earned Brand)」調査の結果が東京で発表された。それによると、日本の消費者の39%は何かを購入する際、「信念に基づいて」ブランドを選ぶという。贔屓にしたり拒否したりする判断の基準は、ブランドの政治・社会問題に対する姿勢。この調査は14カ国、1万4000人を対象に行われた。

その反面、残りの61%がこうした側面に関心を払わないことも確か。彼らは“スペクテイターズ(spectators = 傍観者)”と言われ、ブランドの社会的姿勢をほとんど意に介さない。だが11%の“リーダー(leaders)”と言われる人々は強いこだわりを持ち、ブランドの選択は自己表現の一部と考える。また28%の人々は“ジョイナーズ(joiners = 積極的に参加する人々)”とされ、特定の問題にブランドがどのように反応するか、その姿勢で購買の是非を決めるという。

こうしたこだわりを最も強く持つのはミレニアル世代で、同世代の42%。X世代(1960年代初頭、あるいは半ばから70年代にかけて生まれた世代)やベビーブーマー世代でも同じような高い割合を示した。これらの消費者は購買力も強く、高収入者の47%は共通の信念を持ってブランドを選んでいる。

日本ではこうしたこだわりを持つ消費者が3年前の調査に比べ、全体で17%増えた(全世界での伸び率は30%)。

調査結果を発表したエデルマンのアジア太平洋・中東・アフリカ地域エグゼクティブ・バイス・チェアマンのルペン・デサイ氏は、ハバスが行った「ミーニングフルブランド(Meaningful Brands)」調査にも言及し、「世間一般の人々にとってたいていのブランドはほとんど価値がない」と指摘。この調査では、4分の3近くのブランドがある日突然なくなっても「誰も気にしない」という結果が出た。「例えばコカ・コーラがなくなっても、人々はあっという間にペプシに切り替えてしまうでしょう」。また、人々が「ブランドの生み出すコンテンツのほとんどは無意味」と考えていることも分かった。

「我々がブランドを重視するほど、消費者はブランドを重視してはいないようです」と控えめに述べた同氏だが、消費者の多くは「ブランドの失態を注視している」とも。昨年、旅行大手HISが「機内で女子大生の隣に座れる」という誤ったプロモーションを行い、即日中止になったのがその一例だ。

社会性を持つことは、安易に文化を取り上げることではない。ペプシがケンダル・ジェンナーを起用したキャンペーンで「世間から失笑を買ったことを見れば分かります」。つまりそれは、社会にも企業のコアビジネスにも利をもたらす“北極星”、すなわち究極的なゴールを見つけ出すことだ。デサイ氏はユニリーバ(以前同氏が所属していたロウ&パートナーズのクライアント)の石鹸ブランド「ライフブイ」がインドで手洗いの重要性を教えるキャンペーンを展開し、乳幼児の死亡率低下に貢献したことを例に挙げた。

このプレゼンテーションでは紹介されなかったが、同様の秀逸なアプローチは、衛生環境が劣悪な国々のためにリクシルが開発した簡易式トイレ「SATO = Safe Toilet」だろう。同社の中心的ビジネスである水回り製品を活用したこのキャンペーンは、企業の社会的責任(CSR)の域を超越したレベルにある。「CSRと真の北極星との間には、大きな差異があります」とデサイ氏。

こうした戦略はおそらく役員会議で決まるのだろうが、PRの域をも超えている。そして、PRのプロや広告代理店が果たし得る役割はあるのだろうか、という疑問を呈する。デサイ氏も認めるように、「誠実なブランドのほとんどは不言実行」だからだ。

だからと言って、こうしたブランドがまったくコミュニケーションを取らないわけではない。今回の調査では日本の「信念ある消費者」の半分以上、53%が意思表示をすべき問題に対して沈黙するブランドの商品は買わない、と答えた。逆に3分の1以上の消費者は、妥当な姿勢を示したブランドにはロイヤリティを高め、30%近くはそのブランドを支持するようになると回答。消費者の多くは、ブランドの態度いかんで拒否感を抱くようになるのだ。

「共感できないブランドをいとも簡単に見放す消費者は、これからも増えるでしょう」と話すのは、パネリストとして参加した同志社大学大学院ビジネス研究科の須貝フィリップ教授。「ノーと言うことはアイデンティティーの否定につながります。 企業はそれを恐れていますが、我々は時にそう言わなければならない世界に住んでいるのです」。

また同氏は、「企業は価値の定義で株主寄りではなくなり、消費者やビジネスパートナー、自然環境などを含めたエコシステムを重んじるようになるでしょう」とかなり楽観的と思える見解を述べた。株主を優先したアプローチは時代遅れで、企業はそれ以上のことを考えなければならない、とも。「株主に迎合するだけでは企業は苦境に陥ります」。

須貝氏はその後、Campaignからの電子メールでの質問に対しこのように答えた。「広告代理店は、こうしたコミュニケーションや結果が伴う行動を企業に奨励する重要な役割があります」。

「企業が特定の消費者層に対し意義ある有益な行動をとれば、人々は自然とその企業のことを口にするようになる。そうなれば企業もPRに否定的になりません」。よって代理店は、企業の経営陣が目標を定め、それに基づいた一貫性ある活動を続けられるよう支えていかねばならないのだ。

どのような広告代理店、あるいはコンサルティング会社がこうしたアプローチに最も適しているかは、PRやブランディング、広告、そしてコンサルティングなどの区分けがなくなってきている今、多くの議論の余地があるだろう。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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