現在のビジネス環境に対するマーケターの信頼が回復し、多国籍企業の半数以上がメディア支出を再開したことが、世界規模の調査で明らかになった。
世界広告主連盟(WFA)の最新のレポート「Crisis Response Tracker」によると、マーケティングキャンペーンを延期している多国籍企業は、9月末時点で半数以下(46%)になったという。
これはWFAが6月に発表したレポートから大きく変化している。6月のレポートでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受けてキャンペーンを延期するとの回答が大多数(92%)を占めていた。
注目すべきことに、パンデミック中の現時点で、キャンペーンの延期期間を短期間にしようと考える企業が(四半期や半年以上と考える企業より)多いことだ。9月の調査では、活動停止期間について1~2か月と回答したのは13%で、6月の19%からわずかしか減少していない。
マーケターの8割近くが、現在および今後半年間のビジネス環境について、中立かネガティブな見通しを持っている。それでも、現在のビジネス環境については、楽観視する人が増えつつあるようだ。現在の環境をポジティブにとらえる人が5分の1を超え(21%)、6月の8%から上昇している。
──ポジティブと捉える割合が6月の8%から21%に上昇。
今後半年間のビジネス環境についての見通し:ポジティブ 23%、中立 44%、ネガティブ 33%
──中立と捉える割合が6月の27%から44%に上昇、またネガティブと捉える割合は6月の46%から33%に低下。
WFAのステファン・レールケ(Stephen Loerke)CEOは、「回答者の半数以上がパンデミックによるキャンペーンの延期をもはや続けておらず、回復の芽吹きが見えつつある」と述べた。
ただし、レールケ氏は警鐘も鳴らしている。「依然として不確かな要素は多く、近いうちに『平常どおり』に戻る可能性は低いだろう。デジタルチャネルへの移行も加速しているが、これが永続的なものになるかはまだ分からない」
2020年第1~第3四半期のメディア投資は、パンデミック以前に立てられたマーケターの計画を下回った。特に影響が大きかったのはイベント・体験系(60%減)と屋外(39%減)だ。
一方で、パンデミックがデジタルチャネルへの移行を促した側面もあり、オンライン動画で9%、ディスプレイ広告で6%、以前の計画を上回った。パンデミック以前の計画と比べたテレビ広告費は、2020年第1~第3四半期に25%減少したが、同年上半期の33%減よりは改善している。
サーチ・アンド・サーチ・ロンドンのサム・ホーキー(Sam Hawkey)CEOは、キャンペーンを延期するクライアントは今年の直近数か月前より減ってきたが、全体的な支出額は減少しているとの認識を明らかにした。
ホーキー氏はこう説明する。「クライアントは戻ってきて、キャンペーンを再開し広告を制作したり、先のことを考えたりしている。ただし、(支出額は)以前よりおそらく10~15%減少しているだろう」
ホーキー氏が話をしたマーケターに共通していたのは、楽観論ではなく、「この状況にしっかり取り組む必要があるという感覚」だという。
「我々は、すでに手札を配られた状況で、これをうまく使わなければならない。こうした手札をブランドのためにどう活用できるのか、大いに議論している。以前との違いは、何に支出するかに関して注意深くなり、これまで以上に責任を求められるようになったこと。つまり、根拠を十分に精査し、確かな費用対効果を求められるようになった」とホーキー氏は説明を加えた。
また、調査対象ブランドの3分の2近くはオフィス用途の検討を進めており、パンデミック以前の使い方に戻すことを目指すと答えたのは3分の1強(35%)だった。一部の市場で新しい使い方を試しているとの回答も35%で、全世界でオフィスの用途を変更するとした回答がそれに続いた(30%)。
WFAの調査に回答したのは、35社のシニアマーケター39人だが、少数ながら影響力のある顔ぶれだ。各協力社のメディアおよびマーケティングの年間支出合計は670億ドル(約7兆643億円)に上る。