日本のトップ100ブランド:ランキング分析
歴史的、商業的および産業的な強みを活かした日本は、依然としてアジアで最も確立されたブランド市場だ。アジアのトップ1000ブランドの中には日本のブランドが、アジア内のどの市場のものよりも多くランクインしている。だが私たちの調査によると、近年この傾向は変わりつつある。まるで日本経済そのものと同様の課題に直面しているのだ。
日本の回答者が選んだトップ100ブランドを見てみると、50ブランドの中でまだ30ブランド(そのうちトップ10の中で8ブランド)が日本のブランドであった。これらにはパナソニック、ソニー、シャープ、日立、明治、サントリー、森永といった、伝統あるレガシーブランドが名を連ねる。日本のトップブランドの1~6位は昨年から全く変化がないことも、これらのブランドの安定感を強調する形となっている。
だがトップ50位までを詳しくみてみると、変化が進んでいることは明らかだ。最も躍進したブランドは、トップ10ブランドの中ではVISA(昨年12位→今年9位)、20ブランドまで拡げるとグーグル(21位→14位)。他にもマスターカード(37位→32位)、カルティエ(52位→38位)、マクドナルド(58位→47位)など、国際的な主力ブランドの多くが順位を上げている。
一方、日本の主力ブランドの大多数は、下げ幅が最も大きかったホンダ(28位→35位)を筆頭に、ANA(33位→41位)、無印良品(41位→48位)、アヲハタ(31位→43位)、マツモトキヨシ(40位→45位)と、順位を下げている。別の記事でも取り上げたように、日本の食品・飲料業界でも同様の傾向が目立っている。
では、この潮流の背景にあるものは一体何なのだろうか? 日本の消費者が変わったのか、あるいは外資系ブランドが競合相手として優れていたのか? 日本の消費者市場を注視する者たちによると、そのどちらも当てはまるが、他にも理由があるという。
日本のライバルよりも予算が多く、ローカライズも巧みなグローバルブランド
「日本のブランドは依然として強いですが、広告予算を失っているのが現状です」。このように語るのは、電通 ソリューション開発センターの緒方玲子氏だ。「これらのブランドのマーケティングやコミュニケーションは、マスメディア以外の媒体を用いた販促寄りのものになっています。かつてのように人々の話題に上るテレビ広告が、今は制作されていないのです」
代わりにマスメディアに広告費を投じているのは、コカ・コーラ、マクドナルド、グーグルといった多国籍企業だ(今回の調査で順位を大幅に上げたブランドでもある)。これらのブランドは、目に見えやすいマーケティング策を実施しており、特にテレビを活用していると緒方氏は語る。そして人々の琴線に触れる広告を展開しているのだ。グーグルジャパンのCM「医療従事者のみなさん、ありがとう」(上の動画)は、COVID-19が感染拡大する中で繰り返し視聴され、アンルーリー社の分析で視聴者の心を最も動かしたキャンペーンに選ばれた。消費者が想起する可能性が高いのは、マスマーケットに向けて積極的に訴求したブランドであり、「メディアでの声の大きさが、実際にランキングに反映されています」と緒方氏は指摘する。
もう一つの要因は、これらのグローバルブランドの多くが、製品を非常にうまくローカライズしており、もはや日本の消費者から外国のブランドだとみなされていないことにある。
ウルトラスーパーニューのディレクター、村上智一氏が日本の文化的現象の一部になった例として挙げるのは、ネスレのキットカットだ。「信州りんご」「東京ばな奈」「田丸屋本店わさび」など多種多様なフレーバーを発売しており、その多くは日本国内でしか入手できない。同様にマクドナルドもメニューの多くを日本市場向けにローカライズしており、コカ・コーラ社も日本向けの製品群を数多く発売している。コカ・コーラ社が日本市場で最も多く販売しているのは綾鷹(緑茶)などのRTD(Ready To Drink:購入後そのまま飲める容器入りの飲料)であり、主力商品が炭酸飲料だという他市場とは異なることにも緒方氏は言及する。
高品質さを訴求する日本ブランド、だがZ世代が求めるのはシンプルさ
日本のブランドが海外の競合ブランドとの差別化において、長年にわたり訴求してきたのは、製品の品質の高さだった。食品、電化製品、自動車のいずれも、日本ブランドのものは海外ブランドのものよりも見た目や味、操作性が優れていた。
「日本の消費者が惹かれるのは、革新性を提供し、デザインと品質が優れるブランド。そして最も重要なのは、日本独特のライフスタイルに合うブランドです」と、グレイワールドワイドの代表取締役兼CEO、落合由紀子氏は説く。「海外のブランドは、これらのことに重点を置きながら、日本のライフスタイルへの理解を深めたように思います」。落合氏によると、日本の消費者は上述したような特性を満たす製品に対して、多少高くても喜んでお金を払う。その成功例が、ダイソン、アップル、グーグルなどのブランドなのだ。
ゆず兄弟の創設者&共同CEOであるマーカス・ウィンター氏とスベン・パリス氏は、日本ブランドのローカルに向けたカスタマーサービスを非常に高く評価している。だが、日本ブランドの優勢を脅かす2つの潮流があるという。
「『日本の品質』という信仰は、安易なデフォルト」とパリス氏は主張する。日本の裕福な消費者が購入したいと考えているのは、ドイツ車、ミーレ社のキッチン、そしてイタリアやフランスの家具だというのだ。
「一連の企業スキャンダルや災難などを経て、これまで疑う余地のなかった日本メーカーの品質や誠実さへの信頼感が揺らいでいます。同時に、特に若い世代を中心に、趣味嗜好がグローバルで似通ってきているのです」とウィンター氏。日本の企業が苦戦を強いられている領域として、インターネットポータル、eコマース、情報通信サービスを例に挙げる。無駄を削ぎ落したグーグルのインターフェースはもちろんのこと、アップル、ファーフェッチ(Farfetch)、アマゾンですら明快なデザイン言語を打ち出しており、競合する日本企業の雑然としたサイトとは対照的だ。
同等に重要なこととしてパリス氏が指摘するのは、社会問題に向き合うアクションの欠如に対し、ここ10年ほどの間に国内で不満が高まっていることだ。日本のブランドは、十分に対応できているとはいえない。
「特に若い人たちは、従来の日本が彼らの求めるインクルージョン(包括)、アクセプタンス(受容)、ワーク・ライフ・バランスのニーズに十分に適応していないと感じています。西欧ブランドは社会問題に取り組んできた長い歴史があり、消費者に、自分たちでは影響を与えられないと感じる政治的な部分に踏み込まずとも、社会に対する信念を示すことができる方法を提供しています。こういった海外のブランドは以前、不必要にやかましいと見られていたことを考えると、興味深い逆転現象ですね」(パリス氏)
パナソニックが今も日本で1位の理由
より強いエンゲージメントを提供する海外ブランドに若い世代が魅了されているのであれば、なぜ2年前に創業100周年を迎えたパナソニックが、今年も変わらずトップであり続けるのか? 我々が話した一部のオブザーバーからは「恐竜」と表現されたパナソニックが、なぜ他の追随を許さないのか?
要因の一つとして緒方氏が挙げるのが、パナソニックのメッセージングだ。製品の使いやすさだけでなく、地球環境への責任や製品のサステナビリティを伝えるものへと軸足を移しているのだ。今年3月には「パナソニック環境ビジョン2050」をまとめたブランドムービー(下の動画)を発表。将来を見据えた若い世代だけでなく、生活がより便利になる高齢世代にとっても魅力に映るだろう。
「パナソニックは、最もクールで革新的なブランドではないかもしれませんが、『平均的な消費者の暮らしをより良くするブランド』と分類されます」と落合氏。優れた品質と一貫したポジショニングによって、日本の家庭の近代化における立て役者として、強い信頼感とロイヤルティが醸成されたのだと語る。
「パナソニックが特に優れているのは、適量のイノベーションを取り入れた製品の開発です」と落合氏は付け加え、同社の複雑ではない電化製品は、消費者にとって利便性が理解しやすいと指摘する。ウィンター氏もこれに賛同し、パナソニックの完璧なカスタマーケアと、都内の狭いアパートにもフィットする小型の食洗器やキューブ型の洗濯機のように、日本のニーズに合わせて独自に開発した製品を発表し続けている点に注目する。
「私はまた、ナンバーワンであることがもたらす好循環がいかに大切かを、過小評価してはならないと思います」と語るパリス氏によると、一緒に暮らすパートナーや職場の上司のための購入する際に、無難な選択肢であるという。「パナソニックを選んでおけば、トラブルに巻き込まれることはありません」
躍進するメッセージング分野
日本のトップ100の中で最も順位を上げたのは、今年から追加された新しいカテゴリー「メッセージングサービス」内のブランド。ツイッターが19位(昨年は88位)、LINEは25位(同127位)であった。 この記事にご協力いただいた方々が口々に強調していたのは、LINEが日本で競合他社を抑え、わずかな期間で圧倒的な普及率を達成した点。重要な情報源の一つであると同時に、買い物や交通、エンターテインメントのキャッシュレス決済も促進した。一方のツイッターは、そのシンプルさと、アカウントを複数作成して使い分けることができる匿名性が魅力だという。 |
(文:ロバート・サワツキー、翻訳・編集:田崎亮子)