今年のランキングは昨年と比べて大きく変化した。だが、トップ5に大きな変動はみられなかった。
サムスンは10年連続で首位の座に輝く偉業を達成。その要因は数多く挙げられよう。幅広い分野の多様な製品ラインナップ、折り畳みスマートフォンに象徴されるイノベーションの主導、アジア太平洋地域(APAC)に築き上げた堅固な流通ネットワーク、Kポップのスターを起用したアピール性の高いキャンペーン……などなど。
サムスンに続いたのは同社の強力なライバルである4ブランドだ。トップ5はいずれも家電・電化製品メーカーで、昨年5位だったネスレは今年10位に転落。2位は今年もアップルで、この10年間で8度めの「次点」となった。パナソニックも4年連続で3位だった。
ランキングに変動が起きたのは4位の座だ。ソニーは昨年、2004年にトップ1000ブランドが始まって以来、初めてトップ5の圏外に転落した。代わりに4位となったのはLG。昨年の最も注目すべき点の1つだったが、今年はソニーが再び4位に返り咲いた。
これらの家電・電化製品メーカーに対するアジアの消費者の深い愛着は、驚きに値するだろうか。いや、そうではない。コロナ禍のこの1年、人々はスマホやパソコンといったデバイスに著しく依存する生活を送った。そうした背景を差し引いても、これらのブランドは確実に信頼を獲得した(あるいは、少なくとも話題を提供した)。それらの要因を、各ブランドから5つずつ挙げてみよう。
サムスン
1.豊富な新製品
ハードウェア企業は大規模な新製品の発表会を年に1〜2度催すのが常だが、サムスンは例外だ。頻繁に新製品を出すため、「アンパックト」と呼ばれる発表イベント(上・動画)はもはや定例会のような趣がある。今年1月にフラッグシップスマホの新機種「ギャラクシー(Galaxy)S21」を発表したかと思うと、3月には廉価版の「ギャラクシーA」シリーズ、4月には新型ノートパソコンを発表。さらに、8月にも新たなアンパックトが予定されている。
2.PCをスマホに
4月のアンパックトで、サムスンのグローバルマーケティング戦略責任者のステファニー・チョイ氏は「新しいノートパソコンをスマホのようにしたい」とコメント。その直後、「Museum of Laptops (ノートPCの博物館)」と題したキャンペーンを展開(下・動画)。最新テクノロジーがすぐに過去のものになってしまうことを描いた、秀逸なキャンペーンだ。
3.マーケティングの独創性
新しいフレグランス製品の広告に体操選手を起用したり、デジタル屋外広告に3Dを活用したりと、サムスンは新しいアイデアに積極的だ。タイのタトゥーアーティストやスケートボーダーを起用したギャラクシーAの一風変わったキャンペーン(下・動画)も、今年の最も印象的な広告の1つとして記憶されるだろう。
4.次世代メモリー技術の開発
5Gや人工知能(AI)の普及、「コロナ後」のデータ革命を見据え、サムスンは今月、次世代メモリー技術の開発に向けて「あらゆる分野の企業と協働していく用意がある」と発表した。
5.最先端ロボット掃除機
家の掃除はどこまで「クール」になるのだろう。 AIとスパイカメラを搭載した近未来的デザインのロボット掃除機「ジェットボット(Jet Bot)AI 90+」(下・動画)。やや薄気味悪いが、その魅力は否定し難い。
アップル
1.プライバシーの保護
世の動向と歩調を合わせ、「プライバシー・ファースト」の企業を目指すアップル。昨年11月にはトラッキングへの理解を消費者に促す「ニュートリション・ラベル(アプリのダウンロードページにプライバシーポリシーに関する情報表示を義務付け) 」を開始。また4月のiOS14のアップデートでは、IDFA(アップル独自のID)をトラッキングに使用するアプリにオプトイン化(ユーザーの許可の取得の義務付け)を適用した。念頭にあるのは、フェイスブックなどの巨大プラットフォームだ。だが、こうしたポリシーはすべての国で承認されているわけではない。アップルは今、プライバシー保護と収益維持という2つの目標の間で難しい選択を迫られている。
2. 消費者の味方?
アップルが目指すのは、「消費者の利益を守る企業」というイメージだ。だが、アプリ開発者との手数料を巡る争いはそれに影を落としてきた。最たる例は、人気ゲーム「フォートナイト」を開発したエピックゲームズ社との法廷闘争だろう。エピックは、アプリ開発者に最大30%を課すアップルの姿勢は反トラスト法違反だと主張する。アップルの有名なCF「1984」をパロディーにしたキャンペーンも展開した(下・動画)。
3.第2四半期、業績は過去最高
2021年第2四半期(1〜3月期)の売上高は896億米ドル(約9兆8000億円)で、過去最高を記録。大きな役割を果たしたのは中国市場で、5Gスマホへの需要から売り上げが前年同期比87%増となった。
4.シンガポールの水上店舗
昨夏、シンガポールのマリーナベイ・サンズにオープンした、水上に浮かぶ球形のアップルストア。商品のラインナップもさることながら、360度のパノラマビューを楽しもうという買い物客で今も大きな人気を博す。
5.ダブルダッチの「ジャンプ」
TBWA\メディアアートラボが制作した、ワイヤレスイヤホン「エアポッド(AirPods) 」のキャンペーン動画「ジャンプ」(下・動画)。この躍動感あふれる作品の主役は、ダブルダッチ(2本のロープを使う縄跳び)の日本チャンピオン、杉野賢悟氏だ。
パナソニック
1.五輪への貢献
パナソニックは30年以上にわたり、五輪の主要スポンサーを務める。テレビ放送やカメラ用機材の提供が最もよく知られるところだ(下・動画)。東京大会では聖火リレーのサポーティングパートナーも務めた。
2.事業改革
長年、テレビ事業の立て直しに注力。4月に就任した楠見雄規・新CEOのもと、来年はさらに大規模な事業改革に取り組む。
3.巨額買収で活路
4月、米サプライチェーン・ソフトウェア企業ブルーヨンダー(Blue Yonder)の買収を発表。総額は71億ドルで、パナソニックにとって過去最大級の買収となった。家電メーカーとして世界的な名声を誇る同社が、製造業からの脱却を図る。
4.模倣品対策
模倣品摘発のため、東南アジアの大手ECプラットフォーム、ラザダ(Lazada)と協働。タイでは電池の模倣品8万2000個を押収し、現地警察とも協力して業者の摘発を行った。
5.スマート知育玩具「Pa!go(パゴ)」
スマホに依存しがちな現代の子どもたちが、身の回りの現実の世界にもっと興味を抱くようにと開発されたのが「パゴ」(写真・上)。グーグルの機械学習技術を活用したデバイスで、子どもが興味を持った植物や動物などに向けると、その説明が音声で流れる仕組みだ。
ソニー
1.PS5を発売したが……
プレイステーション(PS)が世界に誇るブランドであることは間違いなく(今年のランキングでは6ポイント上昇して29位)、母体であるソニーの価値も引き上げた。PS5は2013年にPS4が発売されて以来の大々的なアップグレード。デザインに凝り過ぎて広告動画では上下逆に設置してしまう失態を演じたが、ゲーム自体の評価は上々。ソニーを次世代ゲーム機の担い手として再浮上させた。
2.……ブランドプロミスで失敗
ゲームの世界では常に新製品が求められるが、シニカルな側面も見逃せない。「遊びの限界を超える(Play has no limits、PS5の売り文句)」とうたって魅力的なマーケティングを展開しても、愛好家たちはどこかしらで落ち度を予想するものだ。そして、それは現実のものとなった。キャッチフレーズから広がったミーム(インターネット上の評判)は、PS 5以上に「限界を超え」たようだ。揶揄されたのはPS 5の値段設定と在庫不足。曰く、「遊びは限界を超える。でも僕の銀行口座の残高は限界を超えない」「『遊び』の在庫は極めて限られている」などなど……。バックエンドのサポートも不十分で、独立系のゲーム開発者たちにとっては不満の種となった。
3.収益の増加
コロナ禍の巣ごもり需要で、ゲームなどのホームエンターテインメントは大きく伸長。2021年3月期連結決算では純利益が前年比約2倍の1兆1717億円となり、初の1兆円台に。ゲーム&ネットワークサービス分野に加え、音楽や電子製品、金融サービスなども好調で、唯一伸び悩んだのは映画部門。2020年度の売上高は前年比9%増の8兆9993億円だった。
4.中国で「炎上」
6月末、ソニー中国は最新スマホの発売イベントを7月7日に開催すると発表した。ところが、この日は1937年に日中戦争の発端となった盧溝橋事件が起きた日。そして、発表した日は中国共産党創立100周年祝賀大会の前日だった。同社の微博(ウェイボー)上のアカウントは激しく炎上。共産党機関紙「環球時報」はソニーを名指しし、「こうした中国への侮辱を長年繰り返してきた」と批判。ソニーはイベントの延期と謝罪文の発表を余儀なくされた。
5.セサミストリートの復活
米国の人気子ども向け番組「セサミストリート」の日本国内における使用権を獲得。キャラクターを使ったゲーム開発など、新たな商機に活用していく方針だ。同番組は1972年から2004年までNHKで放映され、人気を博した。
LG
1.スマホ事業からの撤退
4月、モバイル事業部を閉鎖し、携帯電話事業からの撤退を発表。この分野では激しい価格競争にさらされ、長年赤字が続いていた。テレコミュニケーション技術の研究開発は続けていく方針だ。
2.交通事故を防ぐアプリ
事業の多様化を示す一例が、歩行者と自動車との事故を防ぐスマートフォン用アプリ「V2X(vehicle-to-everything)」の提供。これは道路状況やスマートCCTV(監視カメラ)の情報をもとに、衝突事故の危険性をユーザーに告知するもの。アプリから位置や進路、速度などがクラウドに送られ、交通状況に関するデータが返ってくる仕組みだ。今は「歩きスマホ」が事故の原因になるケースが多いが、これからはスマホが事故から守ってくれる時代になるのか。
3.過去最高の売上高
第2四半期(4〜6月)の売上高は17兆1101億ウォン(約1兆8000億円)で、過去最高を記録。テレビなどの家電が好調で、営業利益は前年同期比66%増だった。
4.「ミニLED」競争に参戦
サムスンは中国メーカーに先んじてミニLEDテレビを発表したが、LGもミニLEDバックライトを搭載した「新基準」の液晶テレビで対抗。特徴はより鮮明なコントラストだ。
5.シンガポールで放映された「許されざるCM」
形容し難いCMソング。そして、意味不明なサメの子ども。衣類をケアするホームクリーニング機「スタイラー」の広告は理解の範疇を超えている。たとえ理解できたとしても、この広告が許容し難いものであることに変わりはない。
(文:ロバート・サワツキー 翻訳・編集:水野龍哉)