日本のブランドがクールだった頃。みんなの話題になり、みんなが欲しいと思ったブランドがいっぱいあり、「作れば売れる」と言われた時代でもあった。良い製品を作り、広告を通して良いイメージを創造し、オーディエンスとつながる。そういう時代だった。しかしそんな日本の人気ブランドが、最近では話題にすら上らなくなっている。どうしてだろうか?
SNSとテクノロジーが理由だと思う。もちろん日本だけではない、全世界でSNSやその他のテクノロジーが人々とブランドの関係性に大きな革命を起こした。だからこそ、商品を売るだけのブランドは時代に取り残され始めているのだ。消費者を単に商品を購入する対象として見る時代も終わり、消費者をブランドの一部として見て、接する時代が到来したのだ。
購入する、という行為にSNSが必要不可欠になってきている。まだグーグルやヤフーが検索エンジンの大手であることには間違いないが、日本の消費者、特に若い世代に特徴的なのが、検索にインスタグラムを活用している点だ。
レストラン検索といえば「食べログ」。だが、若い世代はインスタグラムを好んでレストラン検索用に使っている。それはインスタグラムが直感的に視覚を刺激することと、自分たちに語りかけ、共感できるユーザー(投稿者)に対して親近感を感じるからだ。こうしたテクノロジーが簡単に使えるようになり、企業ではなくユーザーが商品やサービス、イベントでの自身の体験を発信できる時代になった。今やユーザー自身がブランドの声になり得る時代なのだ。
美しいコンテンツを自分で作成できるアプリが普及した今、ユーザー作成コンテンツがメディアによる従来型のコンテンツに置き代わりつつある。あるインスタグラムユーザーによると「信憑性が高いし、商業化されていないから、雑誌を読むよりインスタグラムを見る方が楽しい」。つまり今日の日本では、ブランドと消費者の境界線がこれまでになく曖昧になっているといえる。消費者はもはや単なるブランドの買い手やユーザーではなく、ブランドの一部なのだ。
そうであるなら、ブランドは消費者に向けて一方的に情報発信するのではなく、共に情報を発信していくよう方向転換すべきではないだろうか?
既にいくつかのブランドでは、新商品に望むオプションを投票してもらうなど、消費者の意見を反映する試みを始めている。しかし、鍵となるオピニオンリーダーたちを、ものづくりに実際に参加させるというアイデアはどうだろう? ユーザーの意見を基に商品を進化させ、改良させていく方法があるのでは?
iPhoneがその好例といえるだろう。ハードウェアとして、iPhoneは電話機か小型コンピューターに過ぎないが、継続的に更新され、個人の好みに合わせてカスタマイズされるアプリのおかげで、何にでもなり得る。ここでAppleから学べることは、ユーザーが自分仕様にデザインできるフレキシブルなプラットフォームを提供したことだろう。
この理論は、消費者とのコミュニケーションにも当てはまる。従来型の広告活動とは、商品やサービスの存在を知らせ、アイデアを提供することで、基本的に一方向のコミュニケーションだった。しかし消費者を巻き込んだ情報発信をするためには、いかにみんなの話題に上れるかを考える必要がある。
人々は、自分自身の体験は語るが、ゴシップでもない限り、一方的に話されているメッセージに関してはあまり話題にしないものだ。まさにクリエィティブチームの同僚が言うように、「ディズニー映画とディズニーランドとの違いとは? 一方的に伝えられる映画の美しいストーリーより、自らが体験した美しいストーリーの方が共有されやすい」
岡咲匡彦
TBWA HAKUHODO
シニアプラニングディレクター
(翻訳:高野みどり 編集:田崎亮子)