Campaign Asia-Pacificと調査会社カンターによる、ダイバーシティ(多様性)に関する年次調査の結果を発表する時期がきた。今年で6回目となるこの調査は、APAC(アジア太平洋地域)のマーコム業界を対象に、ダイバーシティとインクルージョンに関するギャップと課題を可視化することが目的だ。今年の調査では、APACの16の市場で271名から回答を得た。回答者の男女比はほぼ均等だ。では、調査結果を詳しく見ていこう。
組織におけるダイバーシティの優先順位は上がっている
ポジティブな調査結果から始めよう。組織やその幹部は、引き続きDEI(ダイバーシティ、公平性、インクルージョン)に優先的に取り組んでいる。回答者のうち、自社が研修、採用、昇進の平等化を進める計画を立てていると答えた人の割合は、5年前のわずか31%に対して、今年は56%に増加した。また、全体の8割弱の回答者が、「ダイバーシティは組織の優先事項だ」と述べている。
これは素晴らしい第一歩であり、昨年の調査結果で判明した、方針と行動の乖離という大きな問題が、多少は改善されたことを示している。実際、2022年には半数近い回答者が、DEIに関する方針によって職場の状況が「やや改善された」と回答している。全体的に見ると、「ダイバーシティに関する方針の策定によって職場の状況が改善された」と答えた人の割合は80%に達している。回答者の70%が方針策定の効果に疑問を呈していた昨年と比べれば、確かな前進だ。
DEIに関する方針をより具現化するために、組織ができることについて尋ねた設問で、回答者が挙げた「解決策」の上位には、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をなくすためのトレーニング、能力開発の機会、給与の公平性、メンタリングプログラムが並んだ。
ただし現時点では、回答者の半数以上(55%)がアンコンシャスバイアスをなくすためのトレーニングを受けたことがなく、13%の人はこのトレーニングの存在自体を知らなかった。一方で、同トレーニングに参加した人に聞くと、実に90%もの回答者が「役に立った」と述べている。これは、従業員が自分自身や職場の状況を改善するために研修を希望しているにもかかわらず、そのような機会が十分提供されていない現状を示すものだ。
しかも、組織がDEIに関わる方針を推進するために、DEI委員会を設置したりDEIリーダーを指名したりしていると回答した人は、全体の46%に過ぎなかった。また、この1年間でジェンダーやその他多様性に関する従業員調査が行われたと回答した人の割合も、34%にとどまっている。さらに重要なのは、過去5年間で、平等に関する施策や活動に資金やリソースを投入した企業がわずか38%に過ぎなかったことだ。組織の幹部は、口先ばかりで何も行動を起こしていないのだろうか。
従業員の帰属意識を把握する
今回の調査では、従業員の組織への帰属意識が、優れたDEIの実践に対して、直接的な影響を及ぼしているという仮説に基づき、初めて、参加者の組織への帰属意識を調査した。その結果、回答者の約85%が、自分は組織で評価されており、自分らしく働けていると感じていることがわかった。また、回答者の76%は、自社はコミュニティの多様性を代表する人材を引きつけていると回答しており、82%の人が自社に帰属意識を感じていると回答していた。
ただし、Z世代の従業員に関して言うと、彼らは組織に帰属意識を持つことが難しいようだった。18~24歳の従業員のうち、自分が組織で評価されていると感じている人の割合は、30%に過ぎない。しかし、この割合は年齢が上がるにつれて高くなり、職場に最も強い帰属意識を感じていたのは55~64歳だった。とはいえ、Z世代の回答者のサンプル数が、他の年齢層と比べるとかなり少ない点には留意すべきだろう。
この傾向は、人種や出身地とも関連しており、アメリカやヨーロッパ系の人々は、北アジア系の人たちと比べて、かなり帰属意識が高い傾向にあった。こうした人種的傾向は、社会から疎外されていると感じるかどうかを尋ねた設問でも同様に見られた。北アジア、アフリカ、オセアニア、ヒスパニック、中東の人々はややネガティブな回答の割合が高かったのに対し、アメリカやヨーロッパ地域の人々は、社会状況に適合できていると感じる人の割合が高かった。
減らないセクシャルハラスメント件数
ジェンダー平等については、決して完璧ではないものの、職場の意識は改善されつつあるようだ。APACの女性のうち、すべてのジェンダーが平等に尊重されていると答えた人は55%と、昨年の44%からやや好転している。しかし男性が、すべてのジェンダーが等しく尊重されていると考えている割合は、さらに高い結果(66%)となっている。「男性が会議を独占している」と答えた人の割合を見ても、男性の17%に対して、女性は25%と、少しギャップのある結果となっていた。
昇進の機会は、女性がまだ不利な立場にある領域の一つであり、女性の34%が「性別のせいで昇進の機会を逃がしたことがある」と回答している。これに対し男性の割合は14%だった。また、ミレニアル世代やZ世代の女性は、上の世代の女性よりこの差別を強く感じているようだ。興味深いことに、北アジア系の女性では、職場でジェンダーに基づく偏見を訴えることなどできないと感じている人の割合が58%もあり、アメリカ人(0%)やヨーロッパ人(18%)に比べて大幅に高かった。
セクシャルハラスメントについては、その改善幅は2%とごくわずかだった。しかし、その一方で「性的なほのめかしを受けた」または「性的な冗談を言われて不快に感じた」と答えた人はわずか7%にとどまり、5年前の34%からは大きく改善している。とはいえ、これは本来ならゼロになるべき課題だ。
メンタルヘルスの問題や燃え尽き症候群も依然深刻
メンタルヘルス関連の数値も、昨年と同様芳しいものではなく、回答者の半数が「仕事上のストレスが大きい」あるいは「睡眠に問題がある」と回答している。多くの人が、職場で傷つきやすく感情的になりやすいと感じており、こうした仕事に関連する精神的な問題が身体にも影響していると述べている。
楽観できる点は、自分の職場がメンタルヘルスについてオープンだと考えている従業員の割合が70%近かったことだ。ただしこれとは対照的に、55%の回答者が、「職場でメンタルヘルスが話題になることはほとんどない」と述べている。その理由の一つは、半数以上(58%)の回答者が、自身の精神的な問題を明かすことが、昇進の障害になると考えていることだ。これはおそらく、交差バイアス(人種やジェンダーなど様々な差別の相互作用)やニューロダイバーシティ(脳神経学的な多様性)、身体能力の異なる人々へ対応などと並んで、企業の幹部がさらに議論すべき課題のひとつだろう。
家計を支える女性は、家事や育児、介護の負担にも直面しており、彼女らがメンタルヘルスの問題を抱える傾向が高い状況は、昨年と変わらない。実際、家計を支える女性では、気分が落ち込んでいると答えた人の割合が、男性の2倍近くに達している。また、メンタルヘルスが悪化する要因としてオフィス文化を挙げた人の割合も、男性の2倍に上った。
懸念すべきもう一つの問題は、従業員の過半数(61%)が、メンタルヘルスの問題や燃え尽き症候群などに苦しむ同僚を知っているにもかかわらず、51%の人が、その同僚をサポートできるかわからない、もしくはサポートできないだろうと考えていることだ。彼らは、自分の職場がメンタルヘルスについてオープンだとは感じながらも、従業員のメンタルヘルスの問題を支援するような積極的な方針が、組織内で実践されていないと回答している。
給与の公平性は長年の課題
至極当然のことではあるが、給与の公平性は、アンコンシャスバイアス・トレーニングや能力開発の機会と並んで、以前から職場の公平性を高めるのに、非常に有効だと言われている。それにも関わらず、給与の見直しを行った組織や、給与の公平性に関する進捗結果を公表した組織の割合は13%に過ぎない。この分野では南アジアが最も成績が悪いようで、給与見直しの結果が発表されたと答えた従業員の割合は、わずか5%だった。
給与の額が年齢、性別、人種などの条件に左右されていると感じるかどうか尋ねた設問では、男女ともに大半の回答者が「左右されていない」と答えていた。だが、年齢別に掘り下げてみると、サンプル数が少ないとはいえ、若い社員ほど、年長の同僚と比べ、給与の額が公平ではないと考えているようだ。
より公平な給与体系を実現するために、従業員が幹部に求めているのは、その透明性を高めることだ。実際、ある回答者はこう指摘している。「給与の公平性は不可欠だ。給与について話をさせないことが、給与を低く抑えるための手段となっている」