パンデミックにさえも変えられないことが、いくつかある。
大手の広告主企業がメディアエージェンシーを選定するにあたり、時間スケールは今年も従来とは変わらないだろうというのが、複数のピッチコンサルタントの見立てだ。マーケターが第1四半期にエージェンシー選定を計画し、第2四半期でピッチ(競合コンペ)を行い、第3四半期に契約を結び、翌1月から新しいアカウントを開始するという、慣れ親しんだスケジュールだ。
今年と例年とで異なるのは、大量の新規ビジネスが生まれることだと、あるエージェンシーのトップは言う。昨年はCOVIDによって数多くのピッチが延期されたこと、またパンデミック後の業績回復を見据えたエージェンシーからの提案が増えるためだ。
今年のメディアエージェンシーの選定は2タイプに分かれると、あるピッチコンサルタントは予測する。
一つ目は、大手ブランドがよくやる「冷やかし」だ。よりコストを切り詰めるようエージェンシーに迫るもので、広告主の規模が大きければ大きいほど、メディアバイイング費用を削減しやすいという競争優位性が働く。これらの企業ではエージェンシー選定を、調達チームに任せることがある。
もう一つは、メディアの価格はあまり気にせず、クライアントとエージェンシーの関係性や人材、エージェンシーがデータをうまく活用できるかといった、戦略的な遂行に不可欠な要素にフォーカスするタイプで、2021年にはこちらが多くみられるようになると私は願いたい。前述のピッチコンサルタントも「従来の大手広告会社のグループだけでなく、多種多様なエージェンシーが入り乱れることとなるだろう」と述べる。
例えば、世界最大の日用消費財メーカーであるユニリーバは今年、メディアエージェンシーの見直しを行う予定だが、「通常どおりのビジネス」を選んでマインドシェア(WPP傘下)、PHD(オムニコム傘下)、イニシアティブ(インターパブリック傘下)の3社との関係をより強固にするのだろうか? そうなれば、より効率的な施策を少ないコストで実施でき、CFO(最高財務責任者)は喜ぶだろう。
しかし今こそ、そのような調達チーム主導のエージェンシー選定を終わらせるラストチャンスだ。ほとんどのエージェンシーはパンデミックによって人員削減や組織再編を余儀なくされ、中には消滅したものもあるのだ。
パンデミックによってデジタル消費が加速したため、オークション形式のプラットフォームでオープンに取引される広告や、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどのクローズドなプラットフォームで取引される広告が増えた。広告主がオフラインチャネルへの支出を減らせば、メディアバイイング大手が良い条件の取引を提供することは、すぐにできなくなる。
小売の販売がオンラインへと移行する中で、Eコマース事業を発展させるために広告主に必要なのは、メディアスペシャリストである。エージェンシーやコンサルティング会社と提携しながら、インハウス化(内製化)すべきなのかもれない。例を挙げるなら、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンスは昨年再びWPPを選定したが、データ主導型で一人ひとりに合わせたアプローチを行うものへと、パートナーシップを「リローンチ」したことは明らかだ。
専門性に特化したエージェンシーや独立型エージェンシーなど、大手広告主が真面目に取り合ってこなかった広告会社にも、門戸が開かれるはずだ。購買力よりも知力がメディアバイイングを左右するようになれば、業界最高のメディアプランニングエージェンシー、デジタルコンテンツ配信エージェンシー、データ主導型のパフォーマンスマーケティング会社などと契約してみる大手ブランドが出てくるかもしれないと、ダニエル・ギルバート氏(ブレーンラブズ創設者)は語る。
それでも「巨象は、巨象と一緒に眠るものだ」と、あるピッチコンサルタントが言っていた。「大手広告主が大手広告会社に仕事を頼むのは、互いを理解しており、互いにバランスをとれるからだ」
オマール・オークス氏は、Campaign UKのメディア&テクノロジーエディター。
(文:オマール・オークス、翻訳・編集:田崎亮子)