Olivia Parker
2019年9月06日

香港デモの武器として活用された新聞広告

民主化運動では長らく、さまざまな団体が自分たちの意見や要求を訴えるため、広告という手段を用いてきた。そして多くの場合、好まれるのは印刷媒体だ。

左上から時計回りに:ロンドンでの集会と屋外広告/ニューヨークタイムズに掲載された新聞広告/英国会議事堂に投影されたメッセージ/スウェーデンのダーゲンスインダストリ紙(Dagens Industri)に掲載された新聞広告(写真は@standwithhkのフェイスブクアカウントから)
左上から時計回りに:ロンドンでの集会と屋外広告/ニューヨークタイムズに掲載された新聞広告/英国会議事堂に投影されたメッセージ/スウェーデンのダーゲンスインダストリ紙(Dagens Industri)に掲載された新聞広告(写真は@standwithhkのフェイスブクアカウントから)

この夏、印刷媒体広告はまだ有用であることが明らかになった。

「一国二制度」のもと高度な自治権を持つ香港特別行政区で、今年3月からデモが続いている。発端となったのは、犯罪容疑者の中国への引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正案を香港政府が進めようとしたこと。中国への移送が可能になることに対して香港住民の間で不安が広がり、賛否が分かれていた。抗議行動は6月に規模が拡大し、ここ数週間は訴える内容が香港民主化と、より広範なものになった。

抗議内容以外にこのデモを特徴づけるのは、催涙ガス、機動隊、黒シャツ、雨傘など。故ブルース・リーの名言「水になれ」(=柔軟性を持て)も、抗議活動のスローガンとして用いられている。だが、広告も重要な役割を果たしているのだ。

さまざまな団体が新聞広告、屋外広告、デジタル広告をどのように活用してきたのか、主要な事例をいくつか以下にまとめた。

8月19日:クラウドファンディングによる世界的な新聞広告キャンペーン第3弾を実施

香港の民主派団体によるクラウドファンディングキャンペーンで、3回目の広告がニューヨークタイムズ(米)、グローブ・アンド・メール(カナダ)、日本経済新聞など、世界各地の新聞11紙に掲載された。

10カ国それぞれの言語に訳された広告には「自由のため 香港と共に」というキャッチフレーズとともに、香港で起きている現状を知って家族や友人に伝えること、そして自国の政府に陳情や請願をすることを読者に訴えかけている。

この企画は、FreedomHKGとStand With HKの2団体によるコラボレーションとして実現したもの。8月11日以降、米クラウドファンディングプラットフォーム「GoFundMe」を介して1,859,790香港ドル(約2520万円)もの寄付が集まり、13カ国で合計18本の広告が実施可能になった。

8月16日:大手会計事務所の社員が意見を表明

香港のタブロイド紙『蘋果日報』(Apple Daily)に、「ビッグ4」社員からの手紙とされる全面広告が掲載された。ビッグ4とは、四大会計事務所(デロイト、KPMG、EY、PwC)である。

広告はデモの写真とともに、逃亡犯条例改正案の完全撤回、6月12日の大規模なデモに対する「暴動」という表現の撤回、普通選挙の実施などの5点を要求している他、以下のことも主張している。

「我々の経営陣はデモを公然と非難していますが、これは狭量な利己主義を露呈したもの。香港の民主主義と自由というデモの目的、そして我々の願いを無視しています。このため我々はビッグ4の社員として、会社の声明は社員の声を反映していないものであることを、ここに強く訴えます」

広告費はgogetfunding.comでのクラウドファンディングを通じて集められた。目標額(7万香港ドル、約95万円)を上回る77,450香港ドル(約105万円)が、24時間以内に集まったという。

この広告に対する4社の反応は速かった。広告の出所が特定できないこと、そして「国家主権に挑戦する」あらゆる行為を支持していないとの公式見解を繰り返し述べたのだ。

(2014年の民主化運動の際にも、ビッグ4が関与する似たような動きが見られた。会社側が地元紙にデモ批判の広告を掲載した3日後、社員からのものとされる広告が蘋果日報に掲載されたのだ。広告には「上司の皆さんの声明は、私たちの意見を代表するものではありません」と記されていた)

8月14&15日:財界の重鎮も発言

香港一の富豪(世界第30位)である李嘉誠氏が、香港の新聞に意見広告を見開きで2回掲載した。星島日報に掲載されたカラー広告には、暴力という字に斜線が重なったビジュアルに「中国を愛し、香港を愛し、自身を愛せ」「大義は最悪の結果を招きかねない」という文言が添えられた。

また南華早報に掲載されたモノクロ広告には、李賢(唐の皇太子、654~684年)の句が引用され、香港をこれ以上傷つけないようにと呼び掛けた。

翌日には呂志和氏(マカオのカジノ運営会社の創業者)も星島日報に全面広告を掲載し、政府は若者の教育(特に中国の道徳)により多くのリソースを充てるべきだと訴えた。また政府やさまざまなセクターに対し、合理的な方法でのコミュニケーションの機会を与えるよう促した。

8月11日:英国にて屋外広告と集会

民主派団体Stand With HKが英国5カ所で屋外広告を掲出。同日、3カ所で集会も開催された。「香港で抗議運動の最前線に立つこと」の体験を目的に、参加者には黄色いヘルメット、手袋、ゴーグルといった防具の着用が呼びかけられた。

7月24日:クラウドファンディングによる広告第2弾が英新聞に掲載

7月11日からGoFundMeで行われた2回目の資金調達で3,049,592香港ドル(約4125万円)が集まり、英国の政府や首相に充てた広告が、英メディアに掲載され始めた。

(以下は7月25日にロンドン・イブニング・スタンダード紙に掲載された全面広告)

この資金はウェブサイトstandwithhk.orgの制作にも充てられた。同サイトには、「英国民に向けた公開書簡」も掲載されている。これは英国民からの支持、そして「中英共同宣言(1984年)で保証された人権と自由が抑圧されていること」について制裁を課すことと「ブレグジット後の中国と香港とのあらゆる合意において人権、表現の自由、香港の民主化を守ること」を遵守するよう英首相に働きかけてほしいと訴えるものだ。

6月28日:初のクラウドファンディングキャンペーン「Stand With HK」が始動

習近平(中国国家主席)を含む各国首脳がG20大阪サミットに集結するのに合わせ、ニューヨークタイムズ(米)、ガーディアン(英)、ジャパンタイムズ(日本の英字新聞)など複数の国際紙にモノクロ全面広告が掲載された

公開書簡の形をとった「Stand with Hong Kong at G20」と題された広告(英語版)には、デモ隊からの要求が列挙されており、この問題をサミットで議題として取り上げるよう求めた。

この広告掲載も、gogetfunding.comのクラウドファンディングによって実現したもの。何千人もの人々から、目標額300万香港ドル(約4075万円)をはるかに超える5,484,299香港ドル(約7500万円)が、わずか一日で寄せられた。最も大きかった寄付金額は、3万香港ドル(約400万円)であった。

4月8日:民主派政党が前行政長官をターゲットにした広告を掲載

逃亡犯条例改正案に対する初の抗議活動が3月31日に行われた。その8日後、蘋果日報の一面に全面広告が掲載された。

この広告掲載は、社会民主連線(民主派政党の一つ)を率いる吳文遠氏(Avery Ng)がクラウドファンディングキャンペーンを主催して実現した。広告には、前香港特別行政区行政長官の梁振英氏(林鄭月娥氏の前任者)が中国共産党のロゴが入った帽子を被った絵に、「梁振英が国家主席となるよう支持しよう 習(近平)が交代するよう、なるべく早く北を目指そう」という意味のキャッチフレーズが添えられた。

この広告は、梁氏の精神状態に懸念を表明したもの。同氏は、親民主派として知られる蘋果日報の広告主について毎日フェイスブック上で喧伝していることから、「退屈しているのではないか」と皮肉交じりに示唆しているのだ。

梁氏は今も、蘋果日報の広告主を嘲笑する投稿を続けている。最近の広告主には、

KFCや天龍(Sky Dragon、アワビを販売している)などがある。

(文:オリビア・パーカー、翻訳・編集:田崎亮子)

 

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