昨年、広告事業の不振により創業以来初の減収となったメタ。だがグローバルビジネスグループ副社長、ニコラ・メンデルソン氏は今後の見通しについて強気の姿勢を崩さない。
「勝ち目がないと思われていることは、逆に強みになる」
先々週発表された2022年第4四半期(10 − 12月期)決算によれば、メタの通期売上高は1170億ドル(約15兆2100万円)で、デジタル広告事業の売上高は全米第2位。この巨大企業を「勝ち目がない」と表現するのは不自然かもしれない。
だがデジタル広告分野ではアマゾンやマイクロソフト、ティックトックらが激しく追い上げ、メタの優位性は弱まりつつある。昨年、メタの株価は65%も下落した。
投資家たちを安心させるため、マーク・ザッカーバーグCEOは決算発表時にコスト削減と生産性向上を公約。今年を「効率化に徹する1年」とした。これを受けて同社株価は20%急伸した。
だが、従業員や幹部にとって「効率化」はぞっとする言葉だろう。より少ないコストや人員でより多くの成果を上げねばならないからだ。それでもメンデルソン氏は、「(今後の展望に)これまでになくワクワクしている」と話す。
「私はメタに10年間在籍していますが、今ほど明るい未来を感じたことはない。先週開いたビジネスグループの全体会議でもそのように話しました。我々が黄金時代を築くのはこれから。強く確信しています」
ビジネスグループの効率化策の1つが、プロダクト部とエンジニアリング部をより緊密にすることだ。まとめ役はチーフオペレーティングオフィサーのハビエル・オリバン氏が務める。
「広告主とコミュニケーションを取る営業部のインサイトをいち早くエンジニアに伝え、プロダクトに反映させる。これは我々にとって大きな改革です。意思決定や製品化はすでにスピードアップしつつある。改革の最も重要な成果の1つ」
「失敗を恐れぬ」企業文化
メタは創業以来、「迅速な行動と革新」を企業文化とし、業界を牽引してきた。この姿勢が従業員に「失敗も辞さないチャレンジ精神を植え付けた」(メンデルソン氏)。だが効率性重視を打ち出したザッカーバーグ氏は、「今後は採算の取れない事業の中止をためらわない」と言及。つまり、より安全な路線に舵を取ることを示唆している。
しかし、メンデルソン氏はそれをはっきりと否定する。「効率性とチャレンジ精神は相容れないものではありません。テック企業が前進していくためには、失敗も受け入れなければならない」
「効率化が意味するのは、結論をより早く下すということ。利益がなかなか出なければ、いち早くその事業をストップする。理由がどうであれ、改善しない取り組みをだらだらと続けていくことはしません」
メタは昨年11月、1万1000人の従業員を解雇した。その後、従業員にはポジティブな効果が表れ、効率化を促進したとメタ幹部は捉える。
「効率化された新しいメタは従業員にとってより楽しい職場となる。なぜなら、彼らはより多くのことを成し遂げてくれるから」(ザッカーバーグ氏)
チーフフィナンシャルオフィサーのスーザン・リ氏は投資家に向け、「コスト削減の取り組みでさらに活気に満ちた、生産的な企業文化が生まれる」と語った。
それでも、合理化を進める会社の方針に従業員は不安を拭い切れないだろう。メンデルソン氏は、会議の席で強調した「失敗を恐れぬ姿勢」を従業員に促しつつ、士気を保っていくという。
「今後の成果にはこれまで以上に自信を持っています。現在いる従業員は、みな素晴らしい才能を持っていますから」
AIによる効率化
メンデルソン氏はAI(人工知能)を活用した効率化にも注力する。強化を狙うのは広告主のためのツールやプロポーザル(提案内容)だ。その一例が、メタが開発した「アドバンテージプラス」。広告キャンペーンを制作する際、AIが150ものクリエイティブパターンを提示、人手によるプロセスを大幅に省略する。
「これは我々が最も力を入れていく分野。言うまでもなく、広告主にとって成長と効率化は最優先事項ですから」
こうした新たなツールによって、2022年第4四半期の広告主のコンバージョン率は前年同期に比べて20%以上アップしたという。顧客獲得単価(CPA)のデータも合わせると、広告の平均価格は四半期で22%減少。広告の費用対効果(ROAS)は大きく上昇したという。
だがこうした結果は必ずしも、広告費の増加に結びつくわけではない。リ氏は投資家への説明で、広告主が価格の変動に対応しきれていないことを挙げた。
「現在のマクロ経済環境では、特に言えることです。広告価格はまだどちらかと言うと低迷している。我々が公開した前年のインプレッション単価(CPM)の動向にも表れています」
昨年の第4四半期、メタのアプリのインプレッションは23%増加した。
「リール」の改善
さらにメタのショート動画機能「リール(Reels)」の収益化も大きな課題だ。リールの広告収入は利用者の増加に比べ、伸びが鈍い。昨年10月、ザッカーバーグ氏は「リールによって、メタは四半期で5億ドル以上の減収を生んでいる」と述べた。
その解決策としてメンデルソン氏が挙げるのは、「我が社から広告主にチームを派遣し、ベストプラクティスを共同で考案していく」こと。「ストーリーズをスタートさせた時と同じ手法です」
「自社の全ての新製品に関して、やるべき仕事がある。それは広告主に最大の成果を収めてもらうよう、丁重に説明すること。リールに関しては、広告主やエージェンシー向けに『リール・スクール』を開催している。最大の活用法や最適なエコシステムの構築、オーディエンスの反応を理解してもらうためです」
先々週までに、メタの広告主の4割以上がリール広告を購買したという。
「リールが生み出す減収を、今年の終わりか来年初めまでには解消する。そのための軌道修正は徐々になされています」(リ氏)
「過小評価」
メタは前四半期に続き、第4四半期も減収となったが、アプリやプロダクトのユーザー数が増加していることは明るいニュースだ。昨年12月、フェイスブックの1日のアクティブユーザー数は20億人に到達。メタの全アプリのアクティブユーザー数は4%増えて、37億4000万人となった。
「ユーザー数が伸びているにもかかわらず、昨今メタは過小評価されてきた。メタのプラットフォームにオーディエンスが集まる事実を見れば、メタが健全な成長を続け、大きなビジネス機会となり得ることは明白です」とメンデルソン氏。
需要と供給のバランスを取ること −− まさにそれが同氏にとっての課題なのだ。
(文:ジェシカ・ヘイゲイト 翻訳・編集:水野龍哉)