Ryoko Tasaki
2023年3月10日

世界マーケティング短信:ジェンダー平等の実現に向けて

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

世界マーケティング短信:ジェンダー平等の実現に向けて

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。

クリエイターが選ぶ、ステレオタイプに挑むキャンペーン

Campaignでは国際女性デーに合わせ、ステレオタイプに焦点を当てた過去10年の作品の中から、アジア太平洋地域の女性クリエイターに選んでもらった。その中からいくつかご紹介する。詳しくはこちら(英語)

まず博報堂のクリエイティブディレクターである間部奈帆氏が選んだのは、女性の政治参加を促進する米団体イグナイト(Ignite)が2017年に実施したキャンペーン。筆記体を練習するワークブックに書かれているのは、コンドリーザ・ライス氏(元米国務長官)やサンドラ・デイ・オコナー氏(元米最高裁判所判事)などのスピーチで、子どもたちを勇気づける内容になっている。なお、世界経済フォーラムが昨年7月に発表したジェンダー・ギャップ指数で、日本は146カ国中116位と先進国の中では最低レベルとなったが、特にスコアが低かったのが「女性の政治参画」であった。

ナイキが2019年に公開した「ドリーム・クレイジアー(Dream Crazier)」を挙げたのは、マウンテンズ(Mountains)の戦略ディレクター、ケイティ・グウァン氏。「2019年のカンヌライオンズで『ドリーム・クレイジー(Dream Crazy)』がグランプリなどの賞を多く獲得しました。大型スクリーンに映し出された『ドリーム・クレイジー』を見ながら私が考えたのは、なぜ『ドリーム・クレイジアー』の方ではなかったのか?ということ。こちらの方がもっと良く、勇敢で、シャープだと思います」。

TBWAジュース・フィリピンのエグゼクティブ・クリエイティブディレクターであるCJ・デ・シルヴァ氏は、P&Gの生理用品ブランド「オールウェイズ(Always)」の2015年のプロジェクト「インティメート・ワード(Intimate Words)」を選んだ。メキシコシティの近くに住む先住民族は、女性の身体のデリケートな部分について語ることはタブーだとされ、器官を細かく言い分ける言葉が無いことが、子宮頸がんの早期発見を難しくしていた。そこで女性たちが使いやすい言葉を言語学者や社会学者、医師、村の女性らで開発し、本にまとめて配布した。

役員会での多様性が進まない理由 CampaignR3社調べ

企業の役員に人種やジェンダーの多様性が欠如している理由は、「女性やマイノリティーに役員としての経験が不足している」(53.8%)や「役員会のカルチャーが女性やマイノリティーを引き付けるほどインクルーシブ(包摂的)でないこと」(51.3%)にある――。国際女性デー(3月8日)に先立ってCampaignがR3社と共に実施した調査で明らかになった。

企業役員の人種やジェンダーの包摂性を阻む要因としては、「多様性の利点を役員が理解していないこと」(53.8%)や「役員が変化に抵抗を示すこと」(48.7%)が挙げられた。

「現在の役員における女性の割合が低いため、当然のことながら役員の経験を持つ人材の数も少なくなります」と指摘するのは、R3社の共同創業者であるシューフェン・ゴー氏。「企業はCEOを、過去の経験が豊富というだけで採用するわけではありません。それと同じように、基準のより良い代替案を検討し、そのプロセスと一部として役員の認証や就任ガイダンスを導入すべきです」。

電通グループ、英タグ社を買収

電通グループが、英タグ・ワールドワイド・ホールディングスを買収すると発表した。タグ社はデジタルクリエイティブコンテンツの制作とマーケティングのパーソナライゼーション支援を世界規模で展開しており、世界29カ国に社員約2,800名を擁し、11の制作拠点を保有する。タグ社は電通グループにとって6つ目のネットワークブランドとなり、CEOのデイビッド・カスラー氏が引き続き指揮を執る。買収は2023年度下半期で完了予定。

タグ社の事業を構成するのは、デジタルクリエイティブコンテンツ制作事業(デジタルビデオ、ハイエンドCGI、動画、AR/VR制作など)、テクノロジー事業(UXデザイン、ウェブサイトおよびプラットフォームの開発、マネージドサービスなど)、チャネルアクティベーション事業(戦略的アドバイザリーサービス、オムニチャネルコンテンツの配信など)の3本柱。同社の売上総利益は電通グループ連結の約3%規模で、電通グループが注力しているカスタマートランスフォーメーション&テクノロジー(CT&T)の構成比率を32%(2022年度)から34%へ押し上げると期待される。

スパイクスアジア2023、日本勢3作品がグランプリ獲得

アジアで最も権威ある広告クリエイティブの賞「スパイクスアジア2023」の受賞作が発表された。25部門に対して、エントリーの総数は3,005。ブロンズ以上の賞獲得数が最も多かったのは豪州(65個)で、インド(61個)、日本(36個)が続く。

日本勢は以下3作品がグランプリを獲得している。全部門の受賞作品の一覧はこちら(英語)

■Design部門

サントリー天然水「ENDLESS DAWN そしてまた、朝が来る。」(電通)

■Film Craft部門

グッチ「Kaguya by Gucci」((つづく)、電通)

■Music部門

朝日新聞社「Journa-Rhythm」(TBWA博報堂)

また、30歳以下を対象としたヤングスパイクスコンペティションで、全5部門のうち日本から参加したチームが1部門でゴールド、2部門でシルバー、1部門でブロンズを受賞した。

■デジタル部門(ゴールド受賞)

津島英征氏(博報堂)、中西亮介氏(博報堂)

「Tinder GREEN」

■インテグレーテッド部門(シルバー受賞)

永田優太朗氏(TBWA HAKUHODO)、小野ひかり氏(TBWA HAKUHODO)

「SAVE YOUR LOOK-A-LIKE」

■メディア部門(シルバー受賞)

荻原海里氏(博報堂)、中島優人氏(博報堂)

「Funbrella」

PR部門(ブロンズ受賞)

田丸浩太郎氏(博報堂)、宮坂和里氏(博報堂)

「Blue Friday」

 

(文:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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