昨年と比較すると、今年は平穏な年越しになりそうだ。つい最近の大きな話題は、米投資会社による日本有数の広告代理店の買収だった。この動きはADKや国内市場だけでなく、世界の広告界にも多くの示唆を与えた。つまり、既存のビジネスモデルが崩壊したと盛んに論じられるなか、強大な力を持つ投資家たちは依然この業界に改革と繁栄の可能性を見出していることを明示したのだ。ある観測筋が今週Campaignに語ったように、業界人が今の状況を楽観的に捉えてよい根拠は十分にある。
もちろん、だからと言ってそれがマーケティングビジネスの直面する深刻な問題を否定するわけではない。広告代理店は長時間労働という悪癖を防止する策を講じ始めたばかりだ。その点では、業界は1年前よりも進歩したと言えよう。だが真剣な改革に取り組む企業がある一方、社員を極限まで酷使し、世間の目をすり抜けようとする企業が依然絶えないことも確かだ。「たかが広告界での話だ」 −− こうした意識が代理店の労働慣行を長年議論の対象にせず、今となって見直しを求められている。あらゆる代理店、そしてクライアント自身が有意義な改革を遂げるには、多様で効率的な働き方に寛容でなければならず、そうした気運の高まりこそ我々が2018年に望むことだ。
2017年のもう1つの大きなテーマは、「透明性」だった。日本のマーケターは代理店の中でも概して信望を集め、最善の利益を目指す他のサプライヤーたちもどこの国よりも信頼を受けている。信用は素晴らしいことだが、それは獲得するものだ。徐々にだが、ソニーのような大広告主はこの点で対策を講じ始めている。同社は今年初めて、デジタルメディアの分野で監査を行った。これはP&Gやネスレ同様、海外市場に合わせ日本でもビジネスに厳格さを求めようという動きに符合する。開示性の高さがどのようなメリットを生むかは言わずもがなで、こうした動きがメディアの売買に徹底した変革をもたらすきっかけになることを期待したい。
世界で話題を集めたテーマは、日本でも多くの関心を呼んだ。広告界そのものがそうであるように、カンヌライオンズも今、その存在意義を模索する。マーケターや代理店はコンサルティング会社がこの業界にどれだけ適応するのか、またそうであるならどのように協働していくべきかを見極めるため、今も知恵を絞る。結局、コンサルティング会社も代理店も最終的にはお互い似通ったものになっていくのかもしれない。アクセンチュア・インタラクティブが買収の対象として優れたクリエイティブ企業を探し求める一方、電通や博報堂といった代理店は広告のブリーフにとどまらず、ビジネス上の課題に取り組むコンサルティング会社的ユニットを立ち上げた。
AIとブロックチェーンは今年の流行語であり、すっかり業界に浸透した。ごく稀な例を除いて、これらのテクノロジーはカンファレンスの壮大なプレゼンテーションに大きな影響を与えた。その一方で、この2つがマーケティング界でどのような意義があるのか、更には日常の業務でどのように活用できるのか、本当に理解している人々はごくわずかのように思える。手始めはスマートスピーカーだろう。来年は広告主がこれらのプラットフォームで実験を始め、試行錯誤を繰り返しながら多くのことを学んでいくに違いない。だが、先進的テクノロジーへの欲求にもかかわらず、日本は図らずも課題を抱えてしまった。必要なスキルを持つ人材が不足しているのだ。今年の新経済サミットで楽天のテクノロジー部門の責任者は、同社のAI部門に所属するスタッフの99%が外国人であると言及した。
人材やジェンダーの多様性は、日本では思ったよりも大きなテーマにならなかった。特に今の広告界は女性リーダーの不足に喘いでいる。これは一夜で解決できる問題ではないだろう。だが、明るい兆しはある。電通初の女性幹部として大内智重子氏が抜擢されたことはその代表例だ。こうした人事がより活発になるためにも、多様性の問題は常に注視していかねばならず、各企業は女性のロールモデルをつくる計画的な努力を怠ってはならない。それでは、「#MeToo」ムーブメントは日本の広告界や女性の地位向上に何らかの影響を与えるのだろうか。今後の展開を見守っていきたい。
ここに挙げた課題はどれも現在進行形で、簡単に解決できるものではない。それでも微力ながら、我々Campaignが1年を通じてこうしたテーマにある程度の見識を提供できたのであれば幸甚だ。この1年間弊誌をご高覧いただき、また多くのサポートをいただいたことに心から感謝するとともに、2018年の皆様のますますのご活躍をお祈り申し上げます。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)